2021.06.15 第440回東三河産学官交流サロン
1.開催日時
2021年6月15日(火) 18時00分~19時30分
2.開催場所
ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス
3.講師①
豊橋技術科学大学大学院 工学研究科機械工学系 教授 中村 祐二 氏
◎テーマ
『脱炭素へ向けた「工学的“コロンブスの卵”」とは何か』
講師②
レンテック大敬株式会社 代表取締役専務 嵩 伸介 氏
◎テーマ
『街や人々を支える建設業者様のパートナーを目指して~私はこうして、後継者失格となった~』
4.参加者
81名(オンライン参加 21名含む)
講演要旨①
本講演ではCO2(二酸化炭素)は温室効果の主要因であるとの前提で、それをどのようにして対処して「脱炭素」を目指すべきかを考えてみたい。
まず事実として、世界の「人為的」二酸化炭素排出量は現在年間35Gtが排出されており、日本の排出量はその3.2%(1.1Gt)である。大気中の二酸化炭素は「排出」と「吸収」のバランスにより決まり、いわゆる温暖化対策とは「人為起源の排出量(化石燃料、土地変容)を減らし、吸収源(土、大気、海)を増やす」ことが必要となる。日本政府の見解は、2030年までに2013年比46%(総量として現時点から年間0.34Gt)下げるとしている。これを達成するためのターゲットとして、日本の部門別CO2排出量の割合の中で最大の39%を占める「エネルギー転換部門(発電、蓄電、精製等)」に特に注力しようとしている。愛知県では、「あいちカーボンニュートラル戦略会議」、「あいちゼロカーボン推進協議会」等が発足され、自治体レベルで検討を開始している。一方、国は「グリーンイノベーション基金事業」として2兆円規模の補正予算を組み、NEDOに基金を設け、目標年限とターゲットへのコミットメントを示す民間企業等に対して今後10年間継続支援していくことで、革新的技術の早期確立・社会実装を図ろうとしている。カーボンニュートラルに向けた主な施策としては、①蓄電池(電気自動車)、②水素(燃料電池)、③CO2固定化(炭素を分離・埋没)、④バイオマス(炭素の循環)がある。国が定めるグリーン成長戦略では、エネルギー関連産業、輸送・製造関連産業とも「水素頼み」となっている。
ここで頼みとなる水素の物理化学的特徴を挙げてみよう。直接燃焼させてもCO2を出さない、燃焼可能範囲が広い、燃料電池への活用可能という利点があるが、他方、爆発危険性が高い、燃焼機器用途に不向き、材料負荷が高い、貯蔵しにくい、化学プロセスなして得られない等の欠点もある。水素はメタンに比べて単位体積あたりの発熱量が低いことから、燃焼機器に用いる場合、大量の水素供給が不可欠となる。よって、実効性の鍵となるのが、生産量とコストである。もちろん、それが担保できれば燃料電池車への転換が加速され、その関連業界は後押しされるであろう。そのためにも、この問題を如何に解決するかが極めて重要なポイントとなる。
講演者は、第2期「知の拠点あいち」重点プロジェクト(H27-H29)で、メタンを水素キャリアとして活用してオンサイトで水素を生成・供給する「メタン触接分解水素製造システム」の開発に研究リーダとして直接的に関わった。そこで得られた経験として、メタンを活用することによる輸送インフラ整備費を圧縮しても水素普及に向けた導入コストが高く、短期的(2030年まで)な水素社会への転換が困難であると痛感した。
当然国もその難しさは承知している。国は2030年までに水素量を1000万tまで増やし、コストを100円/N㎥から20円/N㎥まで下げるための方針として、(1)国内の再生エネルギーの活用による水素製造,(2)国際水素サプライチェーン構築で解決すると発表している。特にコストの面からは(2)にかかる期待が大きい。しかし、世界の国における水素製造単価分布をみると、日本は遠方の国からの水素運搬が余儀なくされること、(1)が解決しない限り石油と同じく資源を外国に依存することになり、本当に持続的な成長戦略と位置付けられるのかは不安が残る。
そこで、人為的起源CO2に着目するのを一旦やめ,それ以外の要因に着目するという発想の転換を提案したい。その一つとして「森林火災の抑制」に着目する。世界のそこかしこで起きている森林火災による弊害としては、CO2吸収源の消失とCO2の大量放出があるため、それを抑制できればCO2削減効果は倍増する。ただ、多くの人は「温暖化問題と火災を無理やり結び付けているだけじゃないのか」と疑っているのではないだろうか。実際、それが実効的なものになりえることを、具体的に数値で示すことができる。火災起源CO2排出量は(実になんと)平均で年間約7.5Gtもあり、日本の到達削減目標(0.34Gt/年)はたかだかその5%程度である。すなわち、日本の技術力を集めて森林火災抑制技術を開発し、世界で起きている森林火災の20のうち1つを止める、あるいは火災拡大を5%削減すれば、日本が削減すべき目標を達成できることになる。水素の生産量やコストを10年以内で達成させ、自動車を燃料電池車にシフトするよりも、森林火災対策技術を開発する方が10年で達成するのに現実味があるとは考えられないだろうか。
ただし、その消火技術の開発については課題が多くあるが、この問題は規模が大きいため産官学が連携して取り組むのに好都合なテーマでもある。最近、栃木などでも体験した通り、山火事の消火には消火用ヘリによる放水などで対応しているが、どこにどれだけ放水すればよいかという「戦略」は十分確立されたものが存在しない。もし消火戦略を産官学連携事業で確実なものとして確立できれば、日本の脱炭素問題を一気に解決し得る。その間に水素社会の転換に向けた方針を長期で検討し,いずれは水素社会に結ぶ。このような脱炭素戦略を進めてみてはいかがだろうか。
先に述べた「あいちカーボンニュートラル戦略会議」では、「暮らし」「森づくり・木づかい」の分科会が設置されており、森林火災抑制もカバーされる領域の一つであるともいえる。東三河地区の産学官連携による森林火災抑制プロジェクト(仮)を立ち上げ、日本のカーボンニュートラルの戦略検討を実現するのは、夢の見すぎだろうか。
講演要旨②
レンテック大敬株式会社の事業内容は、建設機械関係、産業車両、仮設資材、イベント・事務用品、レンタル、修理、販売であり、売上高は106億円、社員数は400名、東海地区(岐阜、愛知県全域、浜松)に全25のブランチがある。建機レンタルは全国2000社のうち28位。愛知県内のシェアは12.3%。建機レンタルマーケットは全国的に伸びている。弊社は、伊藤忠商事(TC建機)とパートナーシップを結び、地元地域密着レンタル会社同士のネットワーク連携を進めている。また、健康経営優良法人ホワイト500に4年連続で認定されており、従業員の健康意識や満足度の向上、新卒・中途採用にも効果がある。
2003年に社長に就任し、4年間務めたが、失敗して「くび」になった。後継者失格の要因としては、娘婿・養子にならなかったことがまず挙げられる。また、オーナーより「好きなようにやっていい」と言われ、CI推進、システム導入など社内の大改革を断行したが、前担当税理士確執、中期事業計画の受入れ拒否などが表面化し、社内から猛反発が起こった。新卒採用や社内研修も受入れられず、新規事業(ガリバー、E-CAPS、土地レンタル、美容院コンサル、ロボットビデオレンタル)もことごとく失敗した。このような状況のなか、経営コンサルへ傾倒する結果となり、参謀常務にも裏切られることとなった。結論としては、創業オーナーとの信頼関係構築、経営コンサルとやり過ぎないこと、参謀や社員とは適度な距離感を持つこと、自分を伸ばすのは経営計画・ビジョン、数字に強くなること、理念とビジョンを常にベースに置くこと、社員は自分で入れて育てることが重要であると認識した。
基本的には人材育成が大切であり、レンテック大敬ではいくつか育成の手段をとっている。DX化として、ユーザー向けの「建機レンタル受注管理アプリ」(東海地方初)、「気づきメモアプリ」(社内SNS)を採用している。次に女性の戦力化。社員400名うち80~90名が女性であり、「営業アシスタント」としての役割を持っている。バレンタイン・ハロウィン・バースデープレゼントの実施や取扱商品のマニュアル化(オープンガイダンス)など、女性社員が率先して取り組んでいる。また、トーヨーメタル×レンテック大敬×豊橋技術科学大学の3者で、「堆積物自動搬出システム」の構築に関する技術開発・共同研究にも取り組んでいる。
新規事業として、恒温型コンテナを用いた農産物生産&太陽光発電を採用した「ハイブリットコンテナファーム」で、2年前からシイタケを栽培している。また、農業関係のノウハウを得るため、半田市の酒井畑・代表の酒井磨毅氏を農業アドバイザーに迎えるとともに、農場管理・栽培アプリ「D-note」を活用している。また、立命館アジア太平洋大学DDIT研究センター長のニシャーンタギグルワ氏と共同研究をしており、LEDでイチゴを栽培する事業もスタートしている。
建設業界に特化したドローン機材レンタル・リースとして、ダブリュー・アンド・リバー・サービス株式会社とタイアップし、太陽光パネルの破損や建物の劣化・亀裂などをドローンで検知するサービスの共同提案も行っている。ICT(情報通信技術)土木の発展により、重機の自動運転や若い女性がオートマチックに大きな重機を操作できるようになるなど土木業界は大きく変化してきており、我々もこの変化に対応していく必要がある。
東海地域はいつ東海・東南海トラフ地震が発生してもおかしくない状況である。レンタル会社として何が出来るか?インフラの復興・整備のため、市町村、建設会社と連携し、建設機材や資材の迅速な提供を行うとともに、拠点ごとに発電機、水、タンク、トイレ、ユニットハウスの提供など、地域の皆さまのお役に立てることを行っていきたい。