2022.08.23 第454回東三河産学官交流サロン
1.開催日時
2022年8月23日(火) 18時00分~20時00分(※時間短縮)
2.開催場所
ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス
3.講師①
豊橋技術科学大学 副学長/大学院工学研究科 教授 井上 隆信 氏
テーマ
「水道を取り巻く状況とスマートメーターの可能性」
講師②
ユタカコーポレーション株式会社 代表取締役社長 大塩 啓太郎 氏
テーマ
「東三河をゆたかにするために ユタカサービスグループの移り変わり
~製造業からサービス業、そしてその先へ~」
4.参加者
83名(内、オンライン参加者 19名)
講演要旨①
水道事業とは、一般の需要に応じて水道により水を供給する事業で、市町村経営が原則である。「上水道事業」は給水人口が5,001人以上の事業、「簡易水道事業」は給水人口が101人以上5,000人以下の事業である。上水道・簡易水道事業の事業数は平成25年度末と比較すると減少しているが、「専用水道」(寄宿舎、社宅等の自家用水道等で100人を超える居住者に給水するもの又は1日最大給水量が20㎥を超えるもの)は増えている。各市町村の上水道料金が高いため、病院などは耐震化を図り、井戸を掘って混合供給しているところもある。
我が国の水道は97.9%の普及率を達成し、これまでの水道の拡張整備を前提とした時代から既存の水道の基盤を確固たるものとしていくことが求められる時代に変化し、以下の課題に直面している。
① 老朽化の進行(年間2万件を超える漏水・破損事故が発生、耐用年数を超えた水道管路の割合は平成28年度で14.8%、すべての管路を更新するには130年以上かかる想定)
② 耐震化の遅れ(水道管路の耐震適合率は4割に満たず、大規模災害時には断水が長期化するリスク)
③ 多くの水道事業者が小規模で経営基盤が脆弱(適切な資産管理や危機管理対応に支障、経営悪化により水道サービスを継続できない恐れ)
④ 計画的な更新のための備えが不足(約3分の1の水道事業者において原価割れ、計画的な更新のための必要な資金を十分確保できていない事業者も多い)
これらの課題を解決し、将来にわたり安全な水の安定供給を維持していくためには、「水道の基盤強化」を図ることが必要である、
「スマートメーター」とは、メーターに通信機器を搭載し、遠隔先から通過水量を計測する装置である。これまで計測が困難であった山間部や宅内など天候の影響を受けずにいつでも把握することができるほか、時間帯の通過水量を把握することが可能。検針員などの人出不足の解消や水の動きの見える化など、あらゆる分野での利活用が期待される将来の計測システムである。主な通信方法は、無線通信による「マルチホップ方式」と、携帯通信による「1:N通信方式」がある、
湖西市では、電子式水道メーターと中部電力パワーグリッド株式会社の電力スマートメーターの通信プラットフォームを活用した自動検針方式を採用し、市内北部で実装実験を開始。中部電力パワーグリッド株式会社と共同で、電子機器の記憶装置を活用した30分値の通過水量の計測や漏水探知等を無線通信により伝送するプラットフォームを構築した。水道スマートメーターのデータ利活用の取り組みとして、人口減少エリアにおいてスマートメーター(約1,890個)と、超音波流量計(13箇所)を設置して、配水管内の可視化や残留塩素濃度の変化の把握を、湖西市と国立大学法人豊橋技術科学大学、株式会社東京設計事務所、中部電力パワーグリッド株式会社の産学官による共同研究を実施している。可能性のあるデータ利活用は、水需要予測の高度化(AIを活用した将来需要予測)、生活パターンの推定(見守り・フレイル予防など)、下水排水量の把握(排水状況の見える化)、上下水道施設稼働の効率化(施設運転の効率化)、インセンティブ効果による効率的な配水(配水量の平準化・ピークシフト)などが挙げられる。スマートメーターを利用すると、水の流れの可視化が可能となる。
東三河発展にためには、水道・下水道事業、環境保全事業などを東三河広域連合の事業として拡大し、やがて「東三河市」くらいのスケールにしないと小規模市町村における事業継続は難しい。東三河は、新幹線の駅があり、工業だけでなく農業(漁業)も盛んであり、山から海まで流域が1つに繋がっているのは強みである。こういったことを将来的に考えることも重要である。
講演要旨②
2代目社長であった義父、磯村直英からユタカサービスグループを継ぐ際、「自動車産業は斜陽産業だ。新しいビジネスを探すのがひとつのミッションだ」と言われた。車離れや少子化が叫ばれた2009年当時から12年が経ち、自動車業界は100年に一度の変革期、CASE革命やMaaS等、相当な環境変化が起こってきた。
現在、当社は自動車学校を中心とした「自動車総合サービス業」を、豊橋、豊川で展開している。会社の理念は、「車社会に関する安全運転、安全管理の公正なサービスを地域社会に提供し、会社の発展と社員の幸福を達成する」である。当社の変遷は、1938年の蛹油の精製からはじまり、石鹸・ポリエチレン製造、鋳造、紡績などを手掛け、その後、養鶏業、ゴルフ事業、自動車教習所、自動車販売業などを行ってきた。磯村直英は、ユタカサービスグループを製造業中心の企業からサービス業に大きく転換させた、当社グループにとって偉大な人間である。
ユタカ自動車学校は、年間卒業者が5,482名で愛知県2位、全国1,246校中で8位である。その他、介護、オートサービス、レストラン、貸店舗運営などの事業を展開している。会社としての様々な取り組みとして、健康経営優良法人(3年連続認定)、働く女性応援プロジェクト(女性のライフプランと仕事の両立を図る活動)、「やるじゃん」制度(社員自ら同僚等と評価し、「ほめる」という風土を築く)フリーペーパー「ふたば」発行(若手社員を中心に、東三河のドライブスポットを手作りの冊子で紹介)などがある。これらのプロジェクトで共通するのが、「若い力」の発想力を大事にすること、「任せる」ことで予想もしない新しいことが出来るきっかけになるということである。
100年に一度の自動車変革の時代の中、来たる自動運転社会に備え、自動車学校をどうしていくのか?数年前から今後のビジネスを考える上で、①指導員としてのノウハウを活かせる、②今後、市場として伸びる見込みのある新事業、③まだ新規参入が可能な事業、などから、「ドローン事業」への展開を考えた。2021年度の日本国内のドローンビジネスの市場規模は2,308億円と推測され、前年から467億円増加している。2022年度には3,099億円に拡大し、2027年度には7,933億円に達すると見込まれている。分野別に見ると、2021年度はサービス市場が1,147億円となり、最も大きい市場となっている。物流、防犯、土木・建築・空撮等の分野があるが、なかでも「農業」と「点検」が大きく伸びるであろうと考えられる分野になっている。
現在のユタカドローンスクールは、2021年3月に国土交通省の講習団体に認定され、この12月からドローン免許制度が開始となることから、スタンダード、アドバンス、農薬散布などの様々なコースを用意している。その他、ドローン関連企業との様々なコラボレーションにより、空撮、ドローン機体販売、様々な実証実験への参加など、各種ドローン事業を展開している。なお、中途参入企業が単独で事業を拡大するのは難しいため、一般社団法人みかわドローン協会、東愛知ドローン協議会、東三河ドローン・リバー構想推進協議会などの業界団体に参加することで、欠点を補うようにしている。ちなみに、2020年8月に官民で設立された東三河ドローン・リバー構想推進協議会では、「物流」「作業省力化」「災害対応」などの研究会を設置し、社会実装を推進する地域の次世代人材の育成を担当している。
具体的な取り組みとして、福島県Jヴィレッジにおける政府系官公庁向けの飛行訓練の受託、農薬散布ドローンによる作業効率化とコストダウン、豊橋商工信用組合(金融ローン)、エアロテック社(機体販売・整備)、当社(ドローン講習)の3社による農業用ドローンの販売連携・顧客紹介などがある。
実証実験としては、ドローンの実装社会実現、2022年レベル4時代・ドローン免許制度に向けて、地域を超えて実証実験を実施し、成果を収めている。具体的には、豊川市災害対応・物流、新城市災害対応、浜松市春野町災害対応、新城市医療配送などである、
2030年にはIT人材が79万人不足すると言われており、世界のプログラマーとして活躍できる人材をこの東三河で育成したいという構想をもとに、豊川市内の全小学校でドローンを使ったプログラミング授業を実施するプロジェクトを2021年にスタートした。また、空撮事業として、初心者の方でも簡単にYou Tubeに配信できる撮影の基本を教えている。
ドローン事業の課題は、①ドローン免許制度への対応、②実証実験のマネタイズ化、③ドローンを使用している企業の連携、④ドローンスクールの展開方法、⑤新たな分野への展開である。「ドローンツーリズム」なる言葉も出来てきた。徳島県那賀町は「日本一ドローンが飛ぶ町」を目指し、人口7,300人の過疎の町に毎年200人が訪れている。東三河をドローンの先進地域にしたいということも含め、若い人たちの力で発展させていこうと思っている。