2022.10.18 第456回東三河産学官交流サロン 1.開催日時 2022年10月18日(火)18時00分~20時30分 2.開催場所 ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス 3.講 師 豊橋技術科学大学 機械工学系 准教授 佐野 滋則 氏 三信建材工業株式会社 代表取締役社長 石田 敦則 氏 テーマ 『吊下型外壁昇降ロボットNOBORINの開発 ~大学との共同研究の進め方~』 4.参加者 54名(内、オンライン参加者 6名) 開催案内(ダウンロード) 講演要旨 〇三信建材工業株式会社について(石田氏) 三信建材工業株式会社は、1967年に建物の防水塗装工事を主として父親が創業した。高度成長期に建築された建物の劣化が問題となり、当社は1985年頃から建物の修繕・補強・検査の技術を磨いてきた。1987年に非破壊検査部門を設立して以降、赤外線カメラやドローンなど、その時代の最新の機器・技術を導入し、イノベーションによる顧客満足の向上と差別化を図っている。ドローンについて、実は第392回の東三河産学官交流サロンで建設業界の事例の話をしている。他では壁面修繕において、2001年に熟練工を必要とせず、自然の重力と毛細管現状を利用してコンクリート内部までエポキシ樹脂を浸透させる超低圧注入工法(ペネトレイト工法)を開発し、特許を取っている。また2004年には、塗膜の表層に親水被膜を形成するために酸化マグネシウムを活用した塗料を研究・開発した。ドローンは2014年社内に開発室を設け、千葉大学の先生と共同研究開発を行ない、国土交通省の検証会などに参加ながら技術開発し、2021年より港湾施設の新しい点検方法として、東三河ドローン・リバー構想推進協議会のいただきながら実証を進めている。他にも水道関係の企業や管理者などが設立した公益財団法人水道技術研究センターが主催する「水道施設の新たな点検手法等に関する研究(Aqua-Bridgeプロジェクト)で、ドローンやロボットを使った新しい点検の技術の実証実験のスタートを予定している。 〇外観調査の現状と期待される技術(石田氏) 2008年4月、建築基準法第12条、定期報告制度が改正され、建物外壁のタイルなどの落下により歩行者等に危険を及ぼす恐れのある部分について、10年に1度の全面打診検査が義務化された。外壁検査は、仮設足場、ロードブランコ、ゴンドラなどを使い人が行うが、時間と手間、安全性の観点から建築物外壁検査を行う新技術の開発が求められている。当社はメーカーや大学と一緒にドローンやロボットを使った建築物外壁検査の実証実験に取り組んだ。小型赤外線カメラは高性能というものの外部の影響を受けやすく、ドローンを使った実験では正解率30~45%と実用化が難しいため、ドローン以外のロボットで外壁が点検できないかを考えており、サイエンスクリエイトの担当にも話をしていた。 〇吊下型外壁昇降ロボットNOBORINの概要(佐野氏) 2016年サイエンスクリエイトの担当者から壁を昇るロボットの話の仲介があり、ものづくり博に出展された三信建材工業のブースを訪問した。石田社長からは、ドローンでは難しいので何かほかに方法はないかと相談され、近くに窓清掃用のゴンドラの写真があったため、無人のゴンドラはどうかと話をした。石田社長からそういうものはあるがいろいろ問題があると返答があり、話しをするうちに無いから作ろうとなった。時期が6月であったため、研究室の学生達は既に研究テーマを決めており、関係のあったロボコン同好会の1年生3人に設計を依頼し、試作機を作成、石田社長の意向もあり2017年3月の展示会に出品した。その後は、研究室として取り組んでいる。コンセプトはワンボックスカーに積める2人ぐらいで扱える小型のものを目指している。基本的には屋上からベルト2本を地上に垂らし、ロボットが伝って壁面写真撮影や打音検査をしながら昇っていくものである。まだ課題は多いが、人が操縦する、また自動に作業もできるものを目指している。 〇NOBORINのテクニカル(佐野氏) 画像はカメラで撮影し、合成して大きなパノラマ写真にする。カメラの壁からの離隔距離を入力すると画像上での距離の計測が可能となり、実測値とほぼ誤差なく数値が出せるようになっている。音声は人がテストハンマーで壁を叩き、耳で聞いて判断しているものを、NOBORINではソレノイドを使って壁を叩き、マイクで収音したものを音声解析、判定している。周波数のピークが正常部と異常部で異なるため、現在8割強の正答率での判定ができている。NOBORINの位置情報、叩いた結果、画像がリンクしており、報告書の作成も簡単にできるのがデータ化の特徴である。将来は、外壁点検以外の使い方も可能性が拡がると考えている。 現在課題として横への移動方法があり、研究室で学生が考えている。モーターのベルトのテンション最適化、ビル風の影響により本体が動かないような対策も必要である。また、中超音波の活用や、ひび割れを線としての検出すること、より壁から離れない方法などを考えている。 〇社会実装に向けて(石田氏) NOBORINの社会実装に向けて、基本的な動作等を2022~2023年度に検証し、2024年度にはリリースをしたいと考えている。2021年一般社団法人社会インフラメンテナンス推進協議会を有志とともに設立し、持続可能な国土形成と国土強靭化に貢献を目指している。また東三河ドローン・リバー構想推進協議会にも当社は参加しているが、こうした場でドローンのみでなく、ロボティクス全体による実証実験を通して、ダム点検、橋梁点検などへの応用ができないかを検討している。 〇共同研究の事例(佐野氏) 今回はサイエンスクリエイトで共通の知り合いがおり、その仲介で話が進んだ。本学の産学連携のホームページからの問い合わせ、サイエンスクリエイトなど産学連携の場の活用、ものづくり博など本学展示の場で教員や社会連携係の担当への面談、学会の場、実務訓練生の受け入れ時の指導教員面談時など企業が相談できる入口がある。大学は、企業側のニーズから修士研究や卒論研究のテーマを決定し、教員の指導のもとで学生が研究を行う。こうした共同研究をうまく構築するためには、企業と大学教員との間で議論をして、いかにうまく企業のニーズを学生の研究テーマにするかが重要である。本学は研究者1人当たりの民間企業との共同研究の研究費受入額が高い水準であり、産学連携の共同研究を積極的に行っている。ぜひ気軽の相談していただきたいと思う。