2024.01.17 2023年度東三河地域問題セミナー 第2回公開講座
1.開催日時
2024年1月17日(月)14時00分~16時30分
2.開催場所
豊橋商工会議所 4階 406会議室
3.テーマ
「産業の立地動向と地域に求められること」
4.講 師
一般財団法人日本立地センター 参与 高野 泰匡 氏
5.参加者
52名
【講演要旨】
1.産業立地の動向
2023年の振り返りをすると、円安の影響もあり、物価や名目賃金の上昇率、また、設備投資も日本全体はまだまだであるが、対名目GDP比など、30年ぶりの高さとなった。株価も30年ぶりの高値を記録。実質GDP・名目GDPともに過去最高水準になっている。こうしたことでデフレの脱却に期待を寄せ、この春の春闘についても大幅賃上げを目指している。ただし、これまでがどちらかというとコスト上昇と円安による消費という状況なのでまだまだ経済の足元は弱い。消費拡大を目指す賃金上昇とそれに伴う支出という、需要が需要を呼ぶ形が実現できるかが課題である。
産業立地を巡る現状については、コロナ禍からの経済活動の再開とデジタル化といった新たな条件付与、貿易摩擦、戦争、グローバルと国内を合わせたサプライチェーンの再構築が挙げられる。経済の安全保障という観点からも多くの動きがでてくることが予想される。また、2024年はいろいろなリスク増の要因がある。特に海外で影響の大きい選挙が多く予定されており、これが場合によっては大きな問題になる。地政学的リスクとしてロシア・ウクライナ戦争、イスラエル・ハマス戦争、東南アジア情勢(領土問題等)が引き続きある。これまで世界の警察国家といわれたように、紛争が発生するとアメリカが乗り出していたが、ウクライナ、中東、アジアと軍事リソースが分散されることによる安全保障の低下が危惧される。
また世界経済は日本にも大きく関わっている。特に中国経済は不動産を中心に低迷しており、GDP成長率も日本よりは高いものの、下がってプラス4.5%程度の予想となっている。不動産中心の低迷のため長期的な懸念があり、日本のバブル後と同じような状況になっている。どれだけ持ちこたえるか、あるいはソフトランディングができるかということである。これに対して米国経済は非常に活況な状況にある。それに応じて日本の経済もそれなりに動いているものの、海外の景気減速の懸念、それから戦争紛争長期化による影響が危惧される。日本経済は、設備投資がそれなりに伸びてはいるものの、物価上昇の一方、消費がまだ弱い。GDPの内需を支えるのは消費と設備投資である。企業も慎重な姿勢を崩さず内部留保が多く、設備投資が海外と比べて少ない。コストプッシュ型からディマンドプル型へ移行できるかが鍵となる。
今年の年間のカレンダーを見てみる。1月13日にあった台湾総統選挙は、与党の民進党が勝利した。ただし、議会は過半数を取れない状況で、ねじれになっている。2月になるとGX債が10年で20兆円発行される。それから3月は、北陸新幹線の金沢・敦賀間が開業する。またロシア大統領選挙、ウクライナも現実的には難しいが大統領選挙がある。4月には2024年問題の時間外労働の上限撤廃の猶予期間が終了。韓国、インドでも総選挙がある。6月は所得税・住民税の減税実施がある。また欧州では議会選挙がある。9月には自民党総裁選挙があり、現政権がどうなるか。11月にはアメリカでの大統領選挙が終わる。前トランプ大統領が復帰した場合、いろいろ問題が出てくると思われる。12月は熊本でTSMCの半導体工場が稼働する。
辰年はいろいろなことが起きる。24年前の2000年は、台湾の民進党が政権を握った。陳水扁総統の時である。ここで中国との関係が転換点を迎える。ロシアではエリツィン氏に代わってプーチン氏が大統領になった。米国が中国への最恵国待遇を恒久化し、中国が経済大国化していった。12年後の2012年はプーチン大統領が一旦退いていたがカムバックした。また、中国の習近平が総書記に就任した。尖閣諸島で日中の問題が起きたのもこの年であり、その時の構図が今も影響している。日本でも故安倍総理の第二次政権が誕生したということで12年ごとにいろいろな動きが出てきている。
日本の競争力の低下が止まらない。IMD(国際経営力研究所)が毎年行っている世界競争力ランキングで2023年の日本は35位となり過去最低であった。40年前は1位が続いていたのにこれだけ下がっている。因子を個別に見ると強みは社会的責任である。インバウンド需要で外国人が来日して驚くのは電車の正確性。インフラの強みとして産業に関して質の高さがある。半導体等の生産には、停電がほとんどない、電圧の安定性が非常に大事である。再生エネルギーの太陽・風力の安定しない電力供給は製造設備にも影響する可能性があるが、現在は、多少再生エネルギーが不安定でもこの影響は見られない。水についても日本は水資源が豊富で良質な水の供給ができているということで、半導体あるいはデータセンターの立地につながっている。
弱みについては、デジタルスピードが弱いことが浮き彫りになってきた。世界のGDPに占める日本の割合は予測では米国・中国、またドイツに抜かれ4位となり、今後も徐々に下がっていく。一人当たりも日本は今G7の中では最下位あるいは6位でイタリアと争っている。これは、ドルベースなので為替の影響もあるが、低位にあるということである。トップ10%論文数の世界順位についても、中国が急速に伸びて最近は1位になっている。米国は以前1位で現在中国に次ぐ2位である。日本は、4位、6位、13位と年を追うごとに順位を下げている。またイノベーション力についても、4位、19位、13位と低迷している。基礎研究から技術あるいは産業界への流れが非常に低下している。例えばノーベル賞は研究を始めてから受賞までの期間が大体30年ぐらいかかっているという話であるが、受賞された方からも、「日本の科学、サイエンスがまずい状況にある」といった発言も出ている。
1,000㎡以上の工場立地のための土地取得のデータを経済産業省が毎年公表している。それがバブル期は、年間4,000件台であった。バブルが崩壊し大きく下がり、その後少し回復したところにリーマンショックがあり再び大きく減少した。その後は似たような状況で推移していたが、コロナが発生して少し下がり、また若干伸び始めた。最近の10年は件数で1,000件前後になっている。5月末頃に2023年の結果が出ると思うが、若干これを上回る水準になるのではないかと予想している。地域別で見ると愛知県は非常に好調である。バネ・ネジ、こうした部品が含まれる金属、生産用・輸送用機械、輸送に関連をしたものが多い。生産用機械には、工作機械・ロボットなどが含まれる。立地は、増設ではなく新設する場合、本社や自社工場への近接性が重視されている。例えば工場を新設する場合も、本社とのやり取り、拠点工場とのやり取り、こうしたものが重要視され、とにかく時間的な近接性が求められる。工業団地は周囲にいろいろなものができ、周辺環境、住宅環境などの制約を受けないこともあり、そういったことで選ばれる。加えて地価、当然土地を買うので地価は安い方が良いということである。
建築着工統計を国土交通省が出している。建築物がどれだけ建ったか、棟数である。一番新しい2022年度をコロナ前の2018年度と比べてみると、工場および作業場は8,000件台からコロナになって下がっていたが、コロナが明けて少し回復をしている。倉庫、いわゆる物流系は、サプライチェーンがあり上昇しているが、最近下降しており、これは土地の問題だと思っている。工場と違って物流は、比較的高い土地でも購入や賃貸をするが、工場よりも交通アクセスという立地面を重視しており、適地が不足して少し模様眺めになっていると思われる。
具体的に愛知県内の立地事例を報道ベースで見てみると、マルチテナントや物流が非常に活発だということがわかる。特に工業団地や本社の隣接地、自社工場の近接地に立地を予定している。これらは、計画も含まれているので、必ずしも立地をするわけではないが、、県内企業が愛知県内、本社所在地周辺という動きが非常に多い。
今、立地が好調である。ナショナルブランドといった国内大手であれば、東日本市場・中部市場・西日本市場といった市場性を見ていく。一般的には中小・中堅の場合はなかなか遠くにはいけない。自社との近接性というのもあるが、遠くにいった時に人が採用できるかが不安視され、在籍している社員が通勤できる範囲で選ぶケースが多い。
熊本の半導体関連は全く違う要素で動いており、主要因は米中貿易摩擦である。関税を避けるために生産拠点の一部を国内に戻したり、中国以外の国へ移管する動きがあり、半導体は経済の安全保障に直結する技術と戦略物資であるため、アメリカが中国には出さないということになった。日本もそれに応じている。一時は、自動車が半導体不足で生産ができなかったこともあり、産業の米として重要な存在となっている。自動車産業は非常に裾野の広い産業であるが、半導体産業も半導体そのものを作る場合と、製造機械、部品など裾野が広い。大手の半導体メーカーが進出すると、そこに製造装置や半導体の部材素材を納めるなどいろいろな動きも付随して生まれる。また半導体は精密部品になるため、輸送についても特殊な輸送が必要ということで、物流についても活発になる。こうして、今熊本を中心とした九州はバブルと言える状態になっている。
当センターでは企業アンケート調査を実施しており、物流業と製造業合わせて2万社に送付、その取りまとめを行っている。人材にどのような対応が重要と考えるかという質問に対して、最も多い回答は待遇改善であった。次に多い回答は就労環境の改善である。昔からそうであるが、工場はどうしても油とか、汚れるといったイメージがある。そうした働く環境の改善、場合によっては子どもの保育、働き方の改善なども考えられている。また、今いる社員が離職しないよう定着を考えるという回答も多い。国が一時進めていたテレワーク、あるいは働き方改革の中にあった時間に縛られない多様な働き方を重視するといった回答は少ない。コスト上昇の影響に関する設問は、あまり影響しないという回答が多かった。設備投資に関しても特に影響はなく計画通りに進めるという回答が多かった。特に建築に関係する部分は、当初の計画より造成費で2割、建築コストは3割から5割、企業によっては倍という回答もある。そのため、立地を表明してから決定に時間がかかる企業もある。2012年から対象とした物流業は過去最高となった。製造業もバブル崩壊から低迷していて、リーマンショックがありコロナがあって、また上がってきている。これはあくまでも意向なので、実現するとは限らないが、投資については前向きな状況にある。しかし人材不足や、物流ではドライバーの不足があり、どう影響するかを見極めないといけない状況である。
計画のある候補地の質問もしている。ここでは愛知・岐阜・三重・静岡を東海としている。物流も製造業も非常に高いウェイトとなっており、南関東、首都圏、東海、近畿臨海に加えて、北関東や甲信越も比較的高くなっている。首都圏は土地が少ないため立地が難しく、その周辺での動きがある。北関東の場合は圏央道、北関東自動車道近辺で、特に圏央道の場合は環状線になっており、東北道、中央道、東名・新東名などにアクセスしやすく、東西の流れが非常に良いということもある。東海についても東海環状道の東側ができたときに北陸へのアクセスが向上し、広がりを見せている。今後、西側の東海環状道ができればさらに違ってくる。日本の場合、東西を中心に発展してきたが、やはり東海北陸道で日本海側へのルート、縦の線、三遠南信自動車道など含めた縦の線ができることによって格段に変わってくるため、交通アクセスは非常に重要である。
それから立地の理由、背景について、当然需要がなければ新しく作らない。需要増があっての市場開拓である。製造業では、需要増はあるが現状のスペースが狭いから大きくしないといけないというケースがある。愛知県内の自動車部品メーカーは結構これがあてはまり、大手部品メーカーから様々な形で増産要請が来ているが、敷地に余裕がないため拡張したいができない。そのため拡張やどこかに移転したいといった事例が多くある。南関東、東海、近畿、それ以外というように分けて考察すると、特に東海は需要増への対応が高くなっている。これはハイブリッドもそうであるし、EV化の動きもある自動車産業という基幹産業があるということである。工業都市という産業集積があるが、世界から見ると東京と大阪はひとつのメガリージョンとなり、その中間にあるのが東海地域になる。東海・東南海地震が予想される中、日本海へのルートの重要性が増している。例えば自動車は伏木富山港を利用して日本海側から出すといった動きもある。そうした東西南北の接続が非常に重要で、この地域が非常に良いということになる。
業種別の特徴として、物流業界は2024年問題への対策として労働環境が改善される。ドライバー不足が当然あり、長距離輸送を無理をして行っていたのが、そこまで行けなくなる。中継ポイントを多くするか、一旦休憩をし、また先へいくなどやり方はいろいろあるが、長距離輸送ができなくなると、今度は頻度と台数が増える。ただし人が不足して荷物が届かなくなるという心配が現実に発生する。
自動車産業は中国市場が鬼門である。三菱自動車がEV市場から撤退するが、中国産EVに押されて日本メーカーの販売は芳しくない。中国だけがEVなのかというと、EUもEV一本から少し変化しており、中国製の安いEVが入ってくるというのもあるが、ドイツでは合成燃料という話も出てきている。中国の場合、EVを走らせている電力の7割が石炭火力発電であるため本当に環境のために良いのかという話もある。日本の場合は、仮に全部自動車をEVに変えると原発8基分の電力が新たに必要になる。これが難しいためトヨタの場合は水素も含めた全方位で取り組んでいる。EVの電池について日本では廃電池のリサイクルを進めており、日立や三菱はEVの廃電池を集めて蓄電所に変える取組を進めている。太陽パネルもそうであるが、作ったものが活用された後どうなるかが心配される。また中国製の電池は現在リチウムイオンが中心になっている。研究されている全個体電池は日本が圧倒的に有利であるが、先々どうやって産業に結びつけるかを常に考えていかないといけない。
半導体については、コロナ禍に自動車の車載用の半導体がなく生産に困ったことがあった。半導体にも多くの種類があり、今日本で生産している半導体はメモリーもそうであるが、どちらかというと汎用性の高い製品であり、利益率もあまり高くない。また、半導体はシリコンサイクルという波があり、需要の変化によってスマホが売れなくなると半導体が売れなくなる。しかし長期的には、デジタル化の進展により様々な半導体が必要になってくるため、将来的な半導体の需要は底堅い。最近は製品向けではなくAIに向けた半導体需要が一気に拡大している。日本は半導体製造装置、素材、ウェハーを作っている会社も多く、半導体は産業のコメなので頑張らないといけない。国ではNEDOに基金を設け、そこで半導体をはじめ、電池・医薬など戦略保護物資について、補助金を出すというこれまでにない思い切った支援策を行っている。また安全保障の関連もあり、外為法の改正が立て続けに行われている。他にも発電所など特定重要施設についても土地利用、外国人の土地の購入を規制する法律も出てきているなど変化が見られる。
国内への生産回帰と聞くことがあると思うが、ある意味一部は本当である。背景については、アジアの人件費が上がったことがある。日本の人件費は上がっていないため賃金格差が縮小した。他にも米中貿易戦争として関税合戦があり、その関税の回避と大市場である中国経済の減速懸念、為替の問題も重なった。最初は、貿易摩擦の回避から現地生産へということになり、今は市場対応による適地生産が進んでいる。具体的に、製造ワーカーの賃金比較をしてみると、例えば工業都市上海は、10年前と比べて240%上昇と倍以上になっている。他のアジア諸国もそうであるが、一番低いマレーシアでも141%に上がっている。ところが日本、東京はほぼ上がっておらず、相対的に格差は当然縮まる。上海の対東京の倍率は10年前が5分の1、今はほぼ2分の1という形に賃金格差が縮まった。賃金格差が縮まると、トータルで考えた場合、日本で開発して製造、流通させるとすると、国内での研究開発から設計・製造が有利になるという考え方になる。しかし賃金は上がらないものの、日本の場合、いろいろな意味でコストは高い。国内回帰といわれた産業については、自動化して、できるだけ人を使わないラインを構築している。工場というよりもむしろライン増設により対応しているケースが多い。海外生産の拠点数についてはこれまで中国が伸びていたが、製造業は最近減っている。中国が減った分が日本に戻ってくるかはまた別の問題である。ベトナムにいっているかもしれない。ベトナムの拠点数が増えているのは確かである。
戦略物資については中国での生産拡大が難しくなっている。中国市場だけを相手にする場合は中国国内でまだ生産している。しかし、中国で難しい場合は、ベトナムを中心とした東南アジアに進出するのか、自動車の場合はインドも視野に入る。インドの市場規模は大きいが、中国に比べて周辺産業が成り立っていないため、一般製造業で考えた場合、部品などいろいろなものを逆に輸入する必要があり、そこがネックである。企業は国内回帰を志向するというわけでなく、稼げる場所でどう稼げるかを考え、中国よりも日本が稼げるとなれば回帰するのである。コストから適地生産で稼げる場所はどこかということで、例えば全部海外生産していたものを、付加価値の高いものは日本で生産するといった棲み分けをしているため、限定的という言い方をしている。
2.地域に求められること
次のテーマは産業立地に関して自治体等に求められるものについてである。企業はあれもこれもというように要求が多いのでそこを割り引いて考える必要がある。先のアンケート調査で毎年聞いているのが、自治体等へ求める立地への取組についてである。全体で多い回答は優遇制度が充実して欲しいというものであり、続いて人材確保・育成、交通アクセス・近接性、他に個別の受け皿整備といった回答もあった。南関東、東海、近畿臨海、それ以外の地方という区分で地域別に見てみると、東海が高いのは優遇制度の充実、人材確保、受け皿という回答である。
優遇制度については、当然もらえるものがあればもらうという回答で、企業とすれば当然である。しかし、企業によって多少中身が変わってきていて、企業側の見方として、優遇措置がないということは、企業誘致をする気がないと見られる向きもある。基本的に企業誘致を前提として考えると、税制面の優遇と補助金が内容となる。税制面については、県は不動産事業税、市町村は固定資産税、あるいは事業税が対象になる。一般的な固定資産税を考えた場合、不均一課税か何年かの免除がある。忘れてしまうから免除より不均一課税の方が良いという企業もあるが、一般的には3年から5年間だが、長いところは十数年という場合もある。ただし、各種要件が付いている。近年、雇用要件として新規雇用あるいは常用雇用の条件があったときに、大企業はそれなりに人が集まるが、中堅中小は集まらないので、新規雇用要件は少し厳しいという声が出てきている。製造業は省人化やデジタル化投資が主流になってくるため、そちらをまず考えるのが先ではないかと思っている。人材確保は難しい。もともと製造業のラインの現場では人が集まりにくかった。外国人材もコロナで集まらなくなった。以前は外国人技能実習生制度を利用していたが、その待遇が問題になり、今、政府で制度の見直しを行っている。そうした問題があったところに円安が加わり、日本をスルーするというケースも出てきて、外国人が限定的になってきている。企業側からいえば、企業誘致は雇用の確保といっているのに、人がいない。人口減少下、働き手の確保ということで移住定住策が重視され、移住定住する人の引っ張り合いになっている。働き手不足をどう埋めるかについては即効性がないため、広域で考えなければならない。
優遇措置に戻ると、今までは地元雇用を中心に考えていたが、例えば愛知県に立地する場合、東京の人が転勤をして愛知県に勤務するときに優遇措置を出すケースも出てきている。就職する側においても、大学を出るとそれなりに自分のやりたいことを発見するが、特に高校生の場合は自分の意思があまりなく、親の言質によって影響されるという話がある。例えば、テレビコマーシャルをしていない企業の名前は知らないというようなこともあり、親が乗り気でなく話が進まないケースがある。実業系の高校の進路指導の先生に、何が就職するときの一番のポイントか質問すると、給料は当然であるが、やりたいことではなくて、福利厚生が充実している、家から通えるといった内容が重視されるとのことである。こうした状況であるため、いろいろなやり方をして人を集めていかないと難しい状況である。
企業の知名度に関しても最終製品であれば一般消費者が見てもわかる。ところが一般の人が見てもわからないような企業がテレビなどでコマーシャルを流している。これは会社の知名度を上げるという目的である。また企業側から結構声が出てくるのは、今の学校において、特に実学系の場合はカリキュラムが進学を目指す方向になっており、製造業にとって基礎的な部分を学ぶためには、それなりのカリキュラムが必要だが、現状は全然使えないという話である。人づくりというのはその技術だけではなくて、地域づくりは人づくりと昔からいわれるように、教育において、これは小中学校からと思っているが、どのようにその地域の社会を学ぶかから始めていかないと、難しいと思う。
交通アクセスの話をしたが、交通アクセスは基本的に時間距離を求める。以前とは変わってきており、昔はどちらかというと、高速のインターチェンジが必要、広域交通の中でインターチェンジからのアクセスということであった。今はスマートインターチェンジなどもあり、インターチェンジは当たり前になり、むしろインターチェンジを降りてからの時間距離の短さが求められている。一般道の工業団地へアクセスする幹線道路、それが日本の場合、生活道路と一緒になっていて、混雑が生じている。なかなか難しいが、一般道路の混雑解消についての要望は多い。日本の場合、海外からの物の出し入れは港湾が中心になっている。当然輸出入であるが、港湾と港湾背後にある背後地がつながっている。そこから、工業団地へアクセスするとか、空港や貨物駅など陸海空と産業エリアのアクセスをどう考えていくかが、これから必要になってくる。トータルで考えたときの交通アクセス、特にカーボンニュートラルになるとモーダルシフトという鉄道を使って運ぶ場合も増え、場合によっては船もある。そうした観点からすると、やはり陸海空港のアクセスをどう結ぶかという観点が必要になる。
カーボンニュートラルといえば、再生エネルギーもそうである。RE100というように再生エネルギーを使っているかどうかが投資家の企業評価につながってくる。そのため、再生エネルギーの供給が得られるかという話が多く出てくる。日本の場合、RE100は会社側では認証を受けている場合があるが、供給側、例えば工業団地でRE100によるところはほとんどない。北海道の石狩湾新港の中にデータセンターゾーンがあり、そのエリアはデータセンターを誘致するという目的でRE100を謳っている。この場合は石狩湾沖の洋上風力と、それから北海道電力がグリーンLNG火力と最大規模の蓄電池を組み合わせて供給するというものである。三河港でもバイオマス発電所の建設が複数進んでいるが、バイオマス発電を商業ベースに乗せるのは非常に難しい。例えば工場へ供給するような電力量となると、国内資材では絶対足りない。外国から輸入すると、海外における木材の伐採がまた問題になってきて、いずれ国内の供給、輸入も難しくなる。日本の再生エネルギーは、いろいろなものを組み合わせるしかない。原発を動かせば良いというわけでもない。地域によって水であれば小水力、地熱があれば地熱、複合で考えていかないといけない。ただ作った電気をそのまま使うのではなく、貯めることを考えないと難しいと思っている。
日本の場合は、土地利用調整が非常に難しい。土地は制約があり、農地がやっぱり多いが、農政サイドは食料自給の関係で農地を守る観点になる。都市計画では、人口が伸びないため、市街化区域は拡大させず、コンパクトシティになっていく方向である。各自治体で立地適正化計画が作られたと思うが、住民生活の視点のため、そこには集約化が入っている。産業に関しては、商業と物流はあるものの、製造業という観点が入っていないため、立地計画から外れている。コンパクトシティだから、工場も街中にとなると難しいし、郊外となると、市街地の拡大は難しいのでどうしようもないという話になってしまう。ただし、県が工業団地をやる場合に、農地調整は大丈夫である。千葉県は道路・上下水道など公共的な部分については県が一定の額、例えば最大10億を限度の補助を行うといった市町村との協力関係でやろうとしている。
受け皿整備で最近多いのは、災害の話である。地震の場合は、企業側も日本はどこでも同じで、とにかく耐震化は行っている。川の溢水や洪水、それから地滑りなどを非常に気にしていて、川沿いに用地があるときに大丈夫かというのは必ず聞かれる。ハザードマップを見ながら計画をしていくが、ハザードマップの新しいものは、大変厳しい基準で作られている。造成の場合は、盛土の場合地盤がどうしても弱いため、気にする企業もある。
岩手にSMCとていう自動制御機器製品の世界シェアナンバーワンのメーカーがある。工業団地の中にサプライヤーパーク、要するにSMCが本体であるが、そこに協力工場を一緒に集めようとしている。SMC本体の工場と合わせて、いろいろなものを共益施設として使ってもらうサプライヤーパークを、来春を目指して計画をしており、サプライヤー21社で430人程度を雇用する見通しである。このように協力しながらやっていくという考え方はあるかもしれない。
製造業はなかなか人が集まらない、研究部門や事務部門は別になるが、製造現場は難しい。特にIT系については東京にいても人は集まらないため、積極的に地方展開をしている。人材を求めて工業大学の周辺に事務所を構え、そこの学生を獲得するといったやり方をしている。アプリやECは別にしても、ものづくりの中にITを組み込むことが大事である。技術を取り込むというのも企業誘致のひとつと考えであり、地域から産業を起こしていかないといけない。そこにいろいろな人が加わり、企業も参加していく。
データセンターの需要が高まるにつれて、工業団地に進出するケースがあり製造業と競合している。データセンターにおいて雇用は少ないが税収は入る。データセンターは単独の場合、ヤフー、ソフトバンク、Googleなどの大手が設置するケースが多い。他にマルチテナント型のように建物を建ててサーバー・ラック貸しをし、その中に10社20社が入居している場合もある。この場合は、データ管理・メンテナンスを利用者がすることになるため、最近は駅前など交通条件が良いところが求められるという場合もある。設備がたくさん入ると、固定資産税が予想以上に入ってくるし、設置に国の支援も受けらる場合もある。
日本に多い中小企業は、優れた加工技術や基盤技術を持っており、これを活かさないといけない。ある大学の先生が、核融合炉の実験炉を作っている中で、釜は日本のネジでないと作れないと言っていた。それだけ日本の加工技術が非常に重要なので、そこをどう支援していくかということもあり、大学などの産学連携も求められている。製品開発・量産に向けた技術シーズ(中堅・大企業)×加工技術(中小企業)による組合せが重要になる。こうしたことも考えて日本の強みを活かしていく必要がある。