2023.01.17 第459回東三河産学官交流サロン
1.開催日時
2023年1月17日(火) 18時00分~20時30分
2.開催場所
ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス
3.講師①
愛知大学 経営学部 教授 冨増 和彦 氏
テーマ
『CSRと付加価値会計』
講師②
株式会社デンソー 環境ニュートラルシステム開発部
システム開発室室長 駒形 和也 氏
テーマ
『未来を支える CO2 利活用におけるデンソーの技術』
4.参加者
59名(オンライン参加者 10名含む)
講演要旨①
社会的責任としての財務的成果は、利益と付加価値である。付加価値とは、社会に新たに付け加えた価値のことで、1年単位で測定すると、前年からの経済成長分を示す。企業が製品・サービスの供給母体であるとすると、企業が産み出した付加価値の総額がその国の経済成長となる。そのため、付加価値会計を導入することは企業会計と国の会計(国民経済計算)との結節を考慮する際に必須となるが、日本では付加価値会計は導入されていない。現在、付加価値会計を導入しているのは、フランス、ドイツなどであり、付加価値(創造価値)を労使で公平に分配するために測定を行っているが、国際的に資金調達を行う上場企業は、連結会計をIFRS(国際会計)で作成している。すなわち、ローカルにはローカル基準で、インターナショナルにはインターナショナル基準を適用している。
ESGの中で、従業員・労働者に対する責任は重い課題であり、特に労働の対価が公正に支払われているかをチェックすることは重要である。世界全体で基準作りと統一化の方向が模索される中で、CSR情報開示の枠組みをいち早く展開してきたのがサステナビリティ報告のためのガイドラインの作成・普及を目指す国際NGOである「GRI(Global Reporting Initiative)」である。企業だけでなく、あらゆる組織が利用可能はサステナビリティ報告(CSRレポート)のための信頼できる確かな枠組みを提供しており、共通スタンダード、項目別スタンダード(経済、環境、社会の3項目)からなる。報告主体は全項目を開示する義務はなく、一部の開示項目のみを選択しても良いが、本スタンダードに準拠して作成したと主張するためには、該当するすべての要求項目を満たす必要がある。各スタンダードはそれぞれ数百からなる報告事項から構成され、必須の開示要項である「報告要求事項」と、推奨されるが必須でない「報告推奨事項」からなる。日本企業のCSRレポートの多くで「作成に際して参考にした」との記載があり、本スタンダードの要求事項全項目のどの項目に自社のCSRレポートが対応しているのか、対照表を記載する企業も多い。GRIスタンダードの経済情報とは、付加価値のことである。
日本の会計制度での付加価値の算出方法は、国内基準の場合は損益計算書の勘定科目を組み替えて算出可能である。簡単な理解としては、「当期利益(資本分配:自己資本)+人件費(労働分配)+利子・地代(資本分配:他人資本)+税金(公共分配)=付加価値(純付加価値)」である。減価償却費は、付加価値会計では前給付費用(外部購入価値)の一つと考えあるのが論理的な考え方であるが、使用者側の裁量で金額が可変的であり、資本分配の一部(粗付加価値)と捉えて付加価値の構成要素に含める方が良いという意見も強い。
付加価値は、生産性の指標としても利用される。従業員一人当たりの付加価値(付加価値生産性)は、「付加価値÷従業員数(又は労働時間・人件費)」で示される。現代では無形固定資産(ソフトウェア・ブランド)など、IT・AIを活用する情報・知識産業が生産性を高めるための稼ぎ頭であり、かつての有形固定資産重視の重厚長大型産業経済で使ってきた指標の修正が必要である。付加価値を算出する際、売上高から前給付費用(外部購入価値)を控除する「控除法」があるが、生産高を見る場合には売上高ではなく生産高とした方が良い。生産高とは、「当期製品製造原価-期首仕掛品繰越高+次期仕掛品繰越高」として、当期に生産した品物の製品原価に修正(生産高調整)する必要がある。
有価証券報告書から付加価値を計算してみると、製造原価情報の開示がないため、IFRS国際会計基準では付加価値の計算が困難なことが多い。トヨタ自動車の連結会計情報からは、製造原価情報が得られないほか、連結の人件費も開示されていない。「販売費および一般管理費」には給料及び手当があるが、これは販売費のみであり、製造現場の労務費は含まれていない。財務諸表では、製造原価=労務費・材料費・経費という最も基礎的な情報が開示されていないという現実がある。
有価証券報告書にサステナビリティ情報を掲載することが決まっており、その中には人的資本情報の開示も含まれており、2023年3月31日決算企業から適用される。これは、男女間の賃金格差是正が大きな目的であり、賃金格差の情報は強制的に開示されるが、賃金の絶対額についての開示は要請されていないため、人件費・労務費について追加的・任意に開示されない限り、有報で付加価値額を算出するのは困難なままと思われる。
サステナビリティ・CSRには納税の責任もある。源泉徴収簿・法人税申告書が開示されれば、賃金情報も納税額(経済的責任情報)も開示される。付加価値会計のもう一つの可能性として、環境コストや社会的費用を控除して、付加価値をさらに拡張した「社会的利益」計算を行う「インパクト投資評価」がある。社会関連会計理論では最も核心的な付加価値・社会的損益計算を実践する会計がもうそこまで来ていると言えよう。
講演要旨②
株式会社デンソーは、現在、全社を挙げてカーボンニュートラル(省エネ、創エネ)の取り組みを行っている。グローバル拠点として35の国と地域、グループ全体で17万人の規模となっており、世界初製品、特許保有はもちろんのこと、モノづくり企業として技能五輪国際大会にも力を注いでいる。事業分野は、自動車部品を中心に、サーマル・パワトレイン・エレクトリフィケーション・モビリティ・電子など多様なシステム製品の提供に加え、農業など非車載事業にも参入している。
環境問題に取り組む背景は、「環境」と「安心」を大義に究極のゼロを目指し、「人と社会の幸せに貢献」することである。「環境」ついては、2035年カーボンニュートラルを目指し、①モノづくり(工場におけるカーボンニュートラルの達成)、②モビリティ製品(クルマの電動化に貢献し、CO2を可能な限り削減)、③エネルギー利用(CO2を回収・再利用して、社会全体のカーボンニュートラルに貢献)の3つの領域で取り組みを行っている。「安心」については、社会に安心を提供するリーディングカンパニーを目指し、交通事故死亡者ゼロ(「深み」と「広がり」の取り組みを通じ、安全製品を普及させ、交通事故のない自由な移動を実現)、快適空間(空間に対する技術を高め、心安らぐ快適な空間を創出)、働く人の支援(車載領域で培ってきた技術を活かし、人を支援し、人の可能性を広げる社会を構築)の3つの領域で取り組みを行っている。
「環境への取り組み」として、持続可能な地域・社会の実現に向け、モビリティ分野では車両から新モビリティー(空モビ)含め、電動化のたゆまぬ歩みを進め、エネルギー分野ではこれまで蓄積した車載の基盤技術(熱、化学反応)を環境技術と統合・進化し、新たなカーボンニュートラル技術の開発に取り組んでいる。世界は「低」炭素から「脱」炭素へ移行しており、欧州では国境炭素調整メカニズム(CBAM)が制定されるなど、CO2を排出するモノづくりが容認されない状況になっていくことが想定される。
製品のライフサイクルにおけるカーボンニュートラル材料の調達・開発、車両使用時のCO2削減は当然行っていくが、そこに使われるエネルギー利用についてもカーボンニュートラル化を行う必要があると考えている。モノづくりにおけるカーボンニュートラル基本戦略としては、2025年に「電力のカーボンニュートラル達成(ガスはクレジット活用)」、2035年に「モノづくりの完全なカーボンニュートラル達成」を目標として掲げている。電力由来のCO2は再エネ電力・外部調達で賄えるが、ガス由来のCO2は残ってしまうためCO2循環でカーボンニュートラルガスを作っていくのがポイントである。推進体制は「モノづくりCN総本山」プロジェクトのもと、各部門の役員による環境ステアリングコミッティで方針決定を行い、モデル4工場(安城、広瀬、西尾、福島)にてカーボンニュートラルの取り組みを進め、国内グループ会社、海外拠点に横展開させていくとともに、関係会社、仕入先に省エネ技術・知見を開示するなど、サプライチェーン全体に展開していくという内容となっている。CO2排出量削減におけるモノづくりの取り組みは、伝統(愚直な省エネ活動)から革新(省エネ技術、エネルギー循環・再エネの活用)へと移行している。モビリティの取り組みは、HEV・BEV・FCEVからe-VTOL(空モビ)まで全方位で先回りした技術開発を行っており、幅広い出力領域をカバーするシステムや製品をラインアップしている。また、エネルギー利用の取り組みは、「ためる(電池、水素、CN燃料)」「もどす(CO2回収)」を、必要な場所でどこでも実現するための技術開発を行っている。なお、デンソーの貢献領域は、電力・ガスなどの「大規模集中」の領域ではなく、新技術を活用した「小規模分散」の領域であると考えている。具体的には、通勤車両を活用したV2Xなど省エネ余剰をEVにためて使い切ること、またエネルギー密度の高い水素に変換、貯蔵して使い切ること、低濃度のCO2を低エネルギーで回収し幅広く再資源化することに取り組んでいる。
安城製作所にCO2循環実証プラントを2020年6月に設置した。10㎡の建屋に、発電機、CO2回収器、水素発生器、メタン化反応器を配置し、水素をつくるための再エネ電力と水を供給し、それ以外のCO2は循環し続ける構造となっている。本プラントは、工場実ガス導入、V2X連携、合成メタン還流、SOFC/EC導入など、カーボンニュートラルの実験場として日々進化している。目指すカーボンニュートラル工場の姿は、徹底した省エネ、EV活用等による電力のカーボンニュートラル、SORC活用やCO2回収等によるガスのカーボンニュートラルを進め、安城工場を皮切りにお客さま・サプライチェーンを含め様々な工場に展開していくことが全体の方針である。CO2を回収・再利用して、社会全体のカーボンニュートラルに貢献していきたい。