2023.02.21 第460回東三河産学官交流サロン
1.開催日時
2023年2月21日(火) 18時00分~20時30分
2.開催場所
ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス
3.講師①
豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 講師 東海林 孝幸 氏
テーマ
『救急搬送データを用いた豊橋市の熱中症被害の実態調査と対策』
講師②
加山興業株式会社 代表取締役社長 加山 順一郎 氏
テーマ
『サーキュラーエコノミーと脱炭素の両立』
4.参加者
80名(オンライン参加者 12名含む)
講演要旨①
豊橋技術科学大学での主な研究は、豊橋市消防本部の協力による熱中症の実績調査や重症化リスク評価、植物工場内の大気・温熱環境評価や予測(ハウス内の日射量の計測とシミュレーションや気流とCO2濃度分布の計算)などである。
熱中症とは、温度や湿度が高い中で、体内の体温調整機能が破綻するなどして発症する障害の総称で、主な症状は、めまい・だるさ・吐き気、意識障害・痙攣・脱水症状であり、最悪の場合、死に至る。対策としては、エアコンの適切な利用、こまめな水分補給、通気性の良い衣服の着用などがある。熱中症指標は、WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)で表される。計算式は、屋外は「0.7×湿球温度+0.2×黒球温度+0.1×乾球温度」、屋内は「0.7×湿球温度+0.3×黒球温度」となる。WBGTが28~31℃は「厳重警戒」、31℃以上は「危険」に分類され、すべての生活活動でおこる危険性がある。31℃以上の場合、高齢者においては安静状態でも発生する危険性が大きく、外出はなるべく避け、涼しい室内に移動するなどの対策が必要である。また、高齢者以外でも気温が35℃を超えたら運動は止めた方が良い。
豊橋市における熱中症搬送数(救急車で運ばれた方の人数)は、2018年の310件がピークとなっている。この年は、ものすごく暑かった年である。また、豊橋市における年齢区分別の熱中症搬送割合は、「高齢者(65歳以上)」が48%と全体の約5割を占め、全国規模の調査と同程度となっている。WBGTが「厳重警戒」となる28℃を超えると、全年齢の搬送者が発生し始める。なお、高齢者は25℃を超えたあたりから搬送者が発生し始めている。熱中症搬送の発生場所は、住宅42%、作業場21%、公共場21%、道路16%となっており、「住宅」での発生が約4割を占め、全国規模の調査と同程度となっている。このことから、「住宅」における「高齢者」の熱中症対策が特に重要である。
しかしながら、生活スタイルは人それぞれであり、住宅内でどのような温熱環境におかれているか把握することは難しい。そこで、救急搬送データからある程度熱中症搬送時の状況を把握し、対策と今後の課題を見つけるため、豊橋市消防本部消防救急課より熱中症搬送データをご提供いただき、分析を行った。豊橋市消防本部の救急搬送データには、「入電時間」と「エアコン設置・運転の有無、窓などの通風状態(開放、非開放、不明)」があり、大きな手がかりとなった。
熱中症の発生区分が「住宅」に分類されているデータより、2013~2019年の各年6~10月の年齢区分別搬送数をみると、60歳代以上から急激に搬送数が増加している。これは、在宅率が高いことを反映しており、重症化の割合も高い。また、60歳以上の入電時間別搬送数をみると、搬送時エアコンONの場合は多くても5件なのに対し、エアコンOFFの場合は13時台が17件と一番多く、午前9時台が14件と2番目に多くなっている。先行研究より考えられることは、前日の気温が高かったこと、また夜間や就寝中にエアコンを使わなかったことで就寝中に熱中症を発症し、救急要請の遅れとそれに伴う重症化に繋がっているものと思われる。適切なエアコンの使用は死亡リスクだけでなく、熱中症の発症や重症化リスクも減少させると考えられる。
以上より考えられる熱中症対策として、高齢者ではWBGTが25℃(「警戒」区分)を超えた時点で「厳重警戒」とみなし、室内でのWBGTの見える化、早めのエアコン使用、こまめな水分補給等の対策を講じる必要がある。また、夜間、就寝中の積極的なエアコン使用が大切である。高齢者は暑さに気づきにくく、経済的理由でエアコン使用をためらうという課題があるが、高齢者のエアコン使用の判断基準(室温30℃)の明示、熱中症対策における経済的支援の充実化などが必要である。
豊橋市消防本部から、「どの地域でいつ熱中症が発生しやすいか、予測していただきたい」との希望があり、非常に難しい。今後の研究課題として、対象を東三河地区全体に拡大し、実態把握に努めていきたい。
講演要旨②
加山興業株式会社は、私の祖父が1961年に設立。愛知県豊川市に千両、市田の2つの中間処理施設(リサイクルプラント)を保有し、リサイクル事業を行っている。
サーキュラーエコノミー(循環経済)とは、従来の3Rの取組に加え、資源投入量・消費量を抑えつつ、ストックを有効活用しながら、サービス化等を通じて付加価値を生み出す経済活動であり、資源・製品の価値の最大化、資源消費の最小化、廃棄物の発生抑止等を目指すものであり、当社の担当分野は廃棄物の「リサイクル」が柱となる。
ビジネスモデルの全体像は、ゴミの発生源(工場、病院、建設現場)からの収集運搬、リサイクル率の高い高性能の設備を導入した中間処理施設における再資源化物(RPF、銅ナゲット、ガラス、アルミ、焼却灰)の生産という流れになる。「破砕・選別ライン」では、木質チップは約100%リサイクルし、磁力及び光学選別によって廃プラスチック類を極力リサイクルしている。「銅ナゲットライン」では、被覆付の銅線を150㎏の時間処理能力で約80%リサイクルしている。「ガス化焼却炉」は日量90t処理可能となっており、乾留ガス化炉から出される熱を利用した温水による発電、燃え殻はコンクリートブロックなどの材料として再利用している。また、「RPF製造ライン」では、廃棄物を原料とした石炭の代替燃料であるRPF燃料を、年間16,000~18,000t製造(最大30,000t製造可能)している。RPF燃料のメリットは、総合エネルギー効率の向上と化石燃料削減によりCO2削減など地球温暖化防止に寄与するなど、環境にやさしいことである。「太陽光パネルリサイクル」は、手動式と自動式の組み合わせで、295t/月が処理可能となっている。
社会が真剣に「持続可能性」に向き合いつつある中、持続可能性に取り組まないと、売上減、事業存続、人材不足の危機に陥ることになる。SDGsという壮大なゴールに対して当社が共感したことは、「世代を超えて、全ての人々が、自分らしく、よく生きる」という世界の実現、「経済・環境・社会のバランスが保たれている」点であり、みんなが「イイね!」といったSDGsの世界観は、2030年以降も未来永劫続いていく。ビジネスシーンにおいては、新規顧客からの具体的なCO2削減に関する取り組みに関する問い合わせ、既存顧客からは廃棄物処理にかかるCO2排出量、並びに情報の開示・保護および公正な企業活動などに関する具体的な説明依頼などが実際にあった。特に「環境」においては、化学物質の管理、GHG(温室効果ガス)排出量削減、生物多様性に関する取組みなどについて回答する必要があり、大手企業を中心に取引する際のコミュニケーションの一つとなっていると同時に、既存の取引先でも脱炭素に対してしっかり取り組んでくれるかという取引要件の一つとして見做す潮流がある。
これは、国連が2006年に提唱した「責任投資原則(PRI)と2015年に採択した「SDGs」における投資家と企業間の「ESG投資」と「リターン」が関係している。投資家は、環境管理団体(CDP)による格付け情報で判断している。企業(特に上場企業)は、気候変動(CO2削減)に関してしっかり取り組まないと格付けが低くなる。従業員数が500名以上の企業は、SCOPE1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)、SCOPE2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)、SCOPE3(1・2以外の間接排出)のすべてを、また500人以下の企業はSCOPE1・2を可視化して、削減行動をとる必要があり、すべてのサプライチェーンにおいてCO2削減の取組をする必要がある。
当社の基本的な考えは、「資源循環・適正処理」、「脱炭素」、「地球共生」、「環境共生」、「労働環境改善」、「コンプライアンス順守」の6つを重要課題としている。特に、「脱炭素」のコンセプトは、気候変動に起因する諸問題や更なる潜在的なリスクが事業活動に影響を及ぼすものであると認識し、自社の事業活動におけるCO2削減に意欲的に努め、お客様やお取引先様とともに推進していくことに努めることとしている。世界的な枠組みとの関連性としては、「国連気候変動に関する枠組条約(UNFCCC)」のパリ協定がある。
ソーラーパネルの廃棄に関する今後の見立ては、一般的に太陽光パネルの耐用年数は20~30年程度とされており、寿命や修理交換に伴い、早ければ2030年には使用済太陽光パネルの排出量が急増する予測が立てられおり、2015年の約2,400tから2040年には約80万tと300倍以上に膨れ上がる見込みとなっている。当社の「太陽光パネルリサイクル」は、比較優位性の高い「ブラスト工法」を採用している。設備導入前は1tあたり100%埋め立てであったが、導入後はアルミ、銅、銀、ガラス、プラスチック等、残渣と1tあたり99%のリサイクルを実現している。また、太陽光パネルリサイクル適正処理を実施することにより、処理1tあたり1.7tのCO2削減に貢献する結果となった。現在、手動機と自動機を組み合わせながら事業を実施しており、今後はオペレーション上での改善点を洗い出し、効率的に対応できるように体制を整えながら処理量を増やしていく。
「RE100の挑戦・再エネ化普及プロジェクト」として、再エネ率100%達成に取り組んでいる。自社の脱炭素対策として、SCOPE1における焼却炉のエネルギーの灯油から都市ガスへの切り替えによる約10%のCO2削減効果、SCOPE2における再エネ電力の利用、SCOPE3における取引事業者への再エネ電力の提案などがある。また、サプライチェーンへの行動変容の働きかけとして、セミナーを通じた自治体・業界団体・地元企業への取り組み共有、教育機関・業界団体・民間企業等へのSDGs普及啓発活動を行っている。これらの取り組みにより、顧客からのサプライヤーサステナビリティ調査において高評価を得て、調達方針に沿うことで取引継続を実現。また、2022年12月、SCOPE3のカテゴリ5の情報を顧客へフィードバックしている点を高く評価され、「グリーン購入大賞優秀賞」を受賞。他社との協働での脱炭素実現がより求められてくると実感した。「SDGs実装支援サービス」の提供も行っているので、是非お声掛けいただければ幸いである。