2023.07.18 第465回東三河産学官交流サロン
1.日 時
2023年7月18日(火) 18時00分~20時30分
2.場 所
ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス
3.講師①
愛知大学 文学部 教授 樫村 愛子 氏
テーマ
「ジェンダー平等と日本社会」
講師②
(株)リーフ 企画推進グループ グループリーダー 伴 和樹 氏
テーマ
「地域の農業が消費者を集める『オープンファーム』と新事業『さんち』」
4.参加者
58名(オンライン参加者 4名含む)
講演要旨①
まず地域行政との関わりで言うと、私は、豊橋市と田原市、さらに昨年度までは湖西市の男女共同参画審議会の会長やオブザーバーを務めてきた。また東栄町も今まで男女共同参画のプランがなかったので、少し前に策定に参加した。なぜ東栄町が作ることになったかというと、「東三河5市パートナーシップ制度協定」がニュースになったが、これに参加している新城市が当時周りに声をかけ、パートナーシップを進めていくためには男女共同参画の計画がないといけないという、パートナーシップ制度の副次効果もあった。東栄町でプランを作った担当課は企画課で、その時、男女共同参画計画は女性の活躍がまちづくりと直結するという考えのもとで行われたのは印象的だった。ダイバーシティの推進はまちを豊かにするという発想は、昔は女性政策の中になかったので、どんどん進めていってほしいと思う。
学術的な領域では、現在、日本社会学会庶務理事、東海社会学会会長を務めている。東海社会学会の女性会長は私が2人目であり社会学者としては初めてである。まだまだアカデミズムでのトップレベルの女性の割合は少ないので、女性がやることに意味があると思い、積極的に引き受けた。日本社会学会についていうと、他の学会に比べてもリベラルであり、上野千鶴子さんや江原由美子さん等多くのアクティヴィストがいるが、実は今まで女性会長は一人もいない。日本社会学会では、「ジェンダー平等・ダイバーシティ&インクルージョン推進のためのWG」が男性学の伊藤公雄会長のもとで今期立ち上がり、その事務局も務めている。日本社会学会の方はジェンダーだけではなく、ダイバーシティの観点で、外国人、今回は在日の先生や若手も理事に入れた。2017年に結成された学術会議の「人文社会科学系学協会男女共同参画推進連絡会」(GEAHSS:略称ギース)では、女性の学者・研究者の増加と地位の向上、管理職の増加等を議論し進め、グッド・プラクティスを共有しているが、この幹事会が今年は社会学会であり、今期の社会学会はこのテーマを積極的に推し進めている。先に見たように学術面では進んでいるけれど、組織的には実は遅れていたという課題が今回、日本社会学会では確認されている。今期にガイドラインを策定する予定である。
日本社会学会に関しては、今期、伊藤会長の存在が大きく、東海社会学会は前会長が名古屋市立大学の飯島先生で、いわゆる「Ally(アライ)」(LGBTQでよく使われる用語だが、マイノリティに理解のある人たち。ここでは男性で女性の活躍を応援する人たち)男性であり、そういう人たちがいることがとても大事だと、これはギースでも指摘されている。
理事は選挙で選ばれ、その時点ではどうしても男性が多い。そこからさらに理事を追加で選び、日本社会学会も東海社会学会も3割女性になった。3割女性になると空気が変わる。男性の組織は日本の場合、ピラミッド型で権威主義的なので、空気を読んで大事なことをみんなが語らない。女性が増えるとみんなが言いたいことを結構カジュアルに言えるようになる。
今年のこの会の重要なテーマの一つが少子化問題と聞いている。なので、今日の話もここから入る。合計特殊出生率は1.26まで下がった。団塊第二世代の後の人口ピラミッド上の第三世代の山はできなかった。この世代の出産可能年齢のチャンスがもう過ぎつつある。この世代のラストチャンスで、第一子を産んだ人には第二子のチャンスがあると、政府もそこに期待していた。第一子を産んだ時に男性が育児協力するか否かで、妻が生むかどうかを決めるというデータもあり、男性の育休制度も整えた。あのような短い日数の育休制度はこのためにあった。日本における男性の育休制度は海外に負けない制度だとされているが、取得率が低く、イクボス問題としても取り組まれていた。
もう一つの大きな問題は、結婚率が下がっていることで、その背景にあるのは非正規が増えていて収入が減っていること、女性に至っては5割だが、男性も非正規が増えている。「男性稼ぎ手モデル」のもとでは、男性の収入がないと結婚できない。「婚活」という言葉を生み出した家族社会学者の山田昌弘氏は、この伝統的モデルを壊し、男女とも働き、男女ともにケアを行い助け合うような結婚と結婚活動をという意味を込めていた。が、「婚活」は収入の多い男性の獲得合戦のような別の言葉として意味が変わってしまった。データを見ると結婚願望はあることが分かっている。また子どもを持ちたい願望も確認されている。海外では、結婚していなくても社会で子育てをサポートする制度もある。潜在的に子どもが生まれる条件はあるのに、政策がサポートできていないのはもったいない。明らかに少子化政策の失敗である。
日本の少子化政策の失敗というか頓珍漢さについては、すでにいろいろ指摘がある。山田氏も、最近『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか? 結婚・出産が回避される本当の原因』という著書の中でこのことを指摘している。欧米と日本では、家族や社会のモデルが違う。欧米の場合は、早くに自立することが求められ、親の家を出て、一人で暮らすよりも二人で暮らした方が経済的であると考えるが、日本の場合はいつまでも手元に置く。介護の社会保障が不安で引き留める意もある。山田氏は「パラサイト(寄生)シングル」という言葉(流行語になった)を生み出して、子どもが親のもとに居続けて結婚しない現象を指摘した研究者でもあった。また、欧米の場合は、家族の根幹にある夫婦関係はロマンティック・ラブ(恋愛)であるのに対し、日本の場合は、セックスレスでも問題とならず、男性稼ぎ手モデルなので、いまだに生活のために女性たちは結婚する(女性の貧困に関し、「結婚したら貧困は解消する」という言説がいまだにマスコミでも語られる)。
子育て(結婚もか)は欧米では使用価値(その行為そのものに価値がある)だが、日本では市場価値(他者からの評価)なので、リスク回避、世間体重視、強い子育てプレッシャーなどにより、結婚や子育ては日本人にとってはリスクとなる。若い人たちは、恋愛はリスクと考える傾向もある。そして若者に対する社会保障、ジェンダー平等、高齢者保障などに対する貧しさがリスク意識を助長する。また最も重要なことは、政府の少子化政策が、この男性稼ぎ手モデル、日本型福祉(企業と家族が福祉を担い、公助が貧しいモデル)でしか考えていないために、このモデルに合う中流階層しか相手にしておらず、いまや多数派を形成しつつある、非大卒、中小企業勤務、非正規雇用女性といった人々への政策が抜け落ちていることである。そこをカバーし、その人たちが生活し子どもを産んで育てるということをサポートしていかないと抜本的な対策にはならない。
男女共同参画の国の政策も見ていくと、まず、5年ごとに策定される、基本計画では、最も新しいものがコロナ下に策定された2020年12月の「第五次男女共同参画基本計画」で、コロナの打撃が指摘されており、日本社会のモデルをジェンダー平等に変えていかないといけないことが提言されている。これまでの家族の標準モデルはもうマジョリティではない。1980年には「夫婦と子供」世帯が4割だったが、今は「単独世帯」が4割弱である。共働き等世帯数の推移も見ると、主婦が少なくなり、働く女性が増えている。令和3年の『男女共同参画白書』の特集は「コロナ」で、就業面、生活面の両面で女性に打撃があったことがエビデンスと共に指摘されている。 コロナ下、女性の自殺者も大幅に増えた。コロナは「シー(she)セッション」と呼ばれる「女性不況」で、観光・宿泊業・飲食サービス業が打撃を受け、この業種は女性就業者が多く、非正規労働者が多い領域だった。
2010年に結成され10年以上経つ「反貧困ネットワークあいち」ですら、これまで女性の貧困を年次総会でテーマにしたことがなく、コロナ下で初めて問題として可視化されるようになった。私も高松や愛知で女性の貧国をテーマに講演を行ったが、これまで男女共同参画政策を地方で運動として進めてきた団塊世代の女性たちも、女性の貧困問題にはあまり着手できていなかった。今までも女性の貧困問題はなかったわけではないが、コロナが女性たちを追い詰め問題が可視化されたといえる。その中で、「困難な問題を抱える女性支援法」もできた。今までは売春防止法の枠組み(「家父長制モデル」)でしか考えられていなかったが、女性の人権尊重や福祉の増進を目的に掲げたものに改められ、2024年4月から施行される。男女共同参画政策の中で、今までのDV対策や婦人相談をより本格的に広げる形でやっていただきたいと考えているし、豊橋市や田原市には積極的に計画の中で取り組んでもらうようお願いし、入れていただけた。また本当は、行政の縦割りを超えて、子どもの政策と繋がっていないと機能しない。ジェンダー政策は、「ジェンダー主流化」政策と言って、全ての領域、政策に女性の視点が入っていかねばならないというのが理念であるが、日本ではなかなかその考え方が進んでいかない。もちろん担当課によっては庁内に積極的に打って出ているケースもあるが、庁内全体で受け止められていない。
コロナの時に女性の貧困を支援する「SNAW」という団体を友人たちと立ち上げ、様々な支援活動や勉強会と共に、衆議院選挙の時に全ての候補者に対して「女性の貧困に関わる質問状」というのを実施した。この時、当選した人はほとんど女性政策に関心がないことが分かっており、女性票の受け皿を増やし、女性政策が分かる政治家をどんどん送っていかなければいけないと思っている。
2015年の「白鳥」シンポ。1985年に出来た「雇均法」は大事であるが、その時同時に「派遣法」も作ったことで非正規がどっと増え、女性の非正規問題が始まった。この問題は「白鳥問題」と言われ、30年後の2015年に、「みにくいアヒルの子」としてスタートした雇均法が「白鳥」になったのかどうかの大激論が行われた。厳しい人からは、雇均法成立はむしろ「女性の分断元年」、「女性の貧困元年」という声も上がった。行政の中では見えていないが、この女性の二極化、貧困問題はとても重要である。
最後に愛知の特徴を見ていくと、愛知自体が女性の社会的地位が低い。市町村は全国との比較で相対的にそこまで悪くないのに、県の女性議員比率がとても低い。「M字型カーブ」という、結婚したら辞めて子育ての時に戻るという、女性の就業率の形が昨今では「台形」になってきているが、愛知は全国と比してM(結婚したり子どもが生まれたら辞める現象)の底が少し低い。これは、製造業が多いので女性が働く場所が少ないこと、また男性の賃金が高いので女性が働かない圧力となること、男女の賃金格差が高いことなどが理由だとされている。また、愛知県の中で東三河はやはりジェンダー的には保守的だが、その中で豊川市は比較的ジェンダー政策は良いとされている。努力によって変わっていくので、是非頑張っていただきたい。
講演要旨②
「オープンファーム」は単なる農業イベントではなく、未来に向けた街づくり、東三河にたくさん根付くさまざまな産業、多くの人たちを一つにするために必要なイベントだと思っている。
株式会社リーフは胡蝶蘭の生産から販売までを行っている会社である。胡蝶蘭は現在、豊橋市が全国1位の産出額を誇っている。年間で1,000万株生産されているうち、豊橋市が18%の180万株、生産額は卸売流通ベースで150億円弱ぐらいのところ、豊橋市が20%の30億円となっている。リーフは、豊橋市の細谷町に本社を構え、代表の尾崎が25年ほど前に胡蝶蘭を育て始めたところからスタートしている。まさに農業界の内側の会社である。胡蝶蘭の全国シェアは10%程になっており、全国どこかで胡蝶蘭を見かけたら、10鉢に1鉢がリーフから出荷された花である。
「オープンファーム」は、“全国一斉農場開放デー”と言って、生産者と消費者の信頼関係構築のきっかけづくりを目的としている。同一日時に、全国の参加農園が一般消費者に農場を開放して遊びに来てもらうというイベントである。直売、農業体験、写真撮影、講習会など、それぞれの生産者が何をやるかを独自で決めている。各自の農場で行うということに大きな意味があり、消費者の立場からすると非日常の特別な場所であり、生産者の立場からすると一番輝ける場所である。「オープンファーム」には人が集まる。なぜかというと、同一日時の一斉開催だからである。一斉開催による大きな効果は、消費者にとっては家族のお出かけ場所として一日中遊べる、生産者としは集客コストが圧倒的に安いということである。
過去の実績は、初回の2020年11月の生産者10軒・来場者800人から、5回目の2023年6月は台風2号による大雨の影響を受けながらも、生産者55軒・来場者3,500人まで増えた。来場者の増加は告知力の伸びではなく、リピート率が高いイベントだからであると感じている。来場者からは、子どもを中心として家族全員が美味しい体験ができる、生産者や会場にいる他の来場者と交流ができるという声がある一方、時間が足りなくてまわれない、場所がわかりにくい、駐車場がないなどの声がある。また、生産者からは、ファンとの交流や新しいファンができる、自身の宣伝になるという声がある一方、開催時期に合わせられないという声がある。
「オープンファーム」では、野菜嫌いだった子どもが野菜を食べられるようになった、生産現場で素材の違いを知ることができた、ミニトマト農家さんの赤い服を着ていたらオマケあり企画を行ったところ、来場者全員が赤い服を着てきてハウスの中で一体感が出て、コミュニケーションも生まれた、というような話を聞く。こうした消費者の反応は、生産者の「やる気スイッチ」だと思う。ここで、農業界の内側にいるリーフだから言いたいポイントがある。ものづくりをする生産者は、誰のために、何のためにも忘れてはいけないし、そこからは逃げてはいけない。誰のために、何のためにやっているかといったことを楽しみながら築けるきっかけとしても、「オープンファーム」は存在していると思っている。
また、収穫体験をしていた方の就業申し入れ、畑の中の2時間のゴミ拾い企画に30名が集まり地域のゴミ問題へと発展したなど、買い手が作り手になったり、来場者同士の出会いやコミュニケーションが生まれ、地域のゴミ問題に発展したりと、想定していなかったことがたくさん起こっている。「オープンファーム」は、地域づくりのために必要なイベントだと考えている。
その一方で、私たちには一つの大きな欠点がある。それは、運営費用を全て持ち出しで行っているということである。消費者にとって新鮮な農産物が安く買えるというのは圧倒的な価値であり、それをどう実現できるかというビジネスモデルとして「さんち」を考えた。「オープンファーム」を運営する傍ら、新鮮な農産物をもっと安く提供できないかを常に考えている中で、どうしても最後に引っかかったのが物流コストだった。物流に乗せずに販売する方法、つまり消費者が農場まで買いに行けば当然安く買える。生産者にとっても、梱包コストゼロ、運送コストゼロ、価格の決定権がある、販売手数料が不要、規格外品が販売できる、ファン化につながる、などのメリットがある。消費者が農場に買いに来る流れとしては、「生産者がWebに掲載する」、「消費者がその情報を見る」、「消費者が農場まで足を運ぶ」、この3ステップで農場での会話が実現できる。どのような枠組みにすると運営費も賄えてみんなが得をするかということを考えた時、「販売手数料モデル」「マッチングモデル」はそれぞれ手数料が割高になることから「会費制モデル」を思い付いた。会員になると、生産者は「この日、この時間なら買いに来ていいよ!こんなのあるよ!」という情報をいつでも発信でき、消費者はいつでもそれを見ることができるというモデルである。情報のみオンラインで、商品の決済は現地で現金で行う。月額100円払って会員になれば、コミュニティに入ることができる。どこよりも新鮮で安いとはいえ、実際に農場まで買いに行くかどうかは分からなかったので、東三河版は「無料」で行っている。「さんち」というサービスは、消費者にとっての価値である「新鮮で安い」と、生産者にとっての価値である「手間なし」というトレードオフであった関係を両立できるサービスだと思っている。「オープンファーム」は、一日限りの大規模イベントで、それぞれが独自の内容を企画するのに対し、「さんち」は日常の買い物で、生産者ごとに日時を設定し、農場にて直売する。この2つは「ハレ(非日常)」と「ケ(日常)」のような関係を持ち、相乗効果を生んでいる。
「オープンファーム」はただの農業イベントではなく「街づくり」だと思っている。生産現場での直売とか体験だけでなく、今では前日に遠方から宿泊で来ている方もいる。現地では、来場者同士のコミュニケーションも多く生んでいる。また、「さんち」は農場直売というよりも、情報の発信受信ができるコミュニティという概念を根っこに持っている。つまり、取りに来てくれるなら売ってもいい、取りに行ってでも買いたい、という利用者を繋げるプラットフォームになる。将来的には農業とか農産物を中心に、地域コミュニティを育んでいけるような存在にしていきたいと思っている。
最後になるが、共感して一緒に取り組んでいただける企業の方がいらっしゃればすごく嬉しい。特に、お祭り的なイベントである「オープンファーム」は、食とか農業だけではなく、観光、福祉、教育、文化など、さまざまなコミュニティや企業に横串をさせる、数少ないコンテンツだと思っている。関わり方や連携方法なども一緒に考えていけると思うので、ぜひ共感していただけることがあったら担当者をご紹介いただきたい。