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広域連携事業

2023.08.01 第65回研究交流会

1.開催日時

2023年8月1日(火)14時00分~16時00分

2.開催場所

豊橋商工会議所 4階 406会議室

3.講  師

日本郵船株式会社 自動車物流グループ グループ長 小西 敬之 氏

  テ ー マ

「社会変動下における海運・物流の潮流 ~完成自動車の物流を中心として~」

4.参 加 者

33名

講演要旨

【日本郵船の自動車物流事業の紹介】
 自動車専用船であるRO-RO船のロールというのは車の車輪が回転するという意味である。Roll On/Roll Offとは自動車が自走して行われる荷役スタイルを意味し、自動車を海上輸送するために開発された専用船を自動車専用船、RO-RO船と呼んでいる。巨大な立体駐車場が船として走っていくというイメージであり、5,000台から7,000台積載できる船が多いが、可能な限り多くの自動車を積載するために極限まで積載効率にこだわっている。こうした荷役を安全かつ効率的に行うのが自動車専用ターミナルであり、RO-ROターミナルと業界では呼んでいる。RO-ROターミナルの規模はさまざまで、例えば当社がヨーロッパのベルギーで運営しているターミナルでは、車両を約10万台保管できる。
 そこで提供するサービスはさまざまだが、荷物としての自動車の本船への積み下ろし以外に、保管をしてOEMからナンバープレートの取付、車の基本的なソフトウェアのインストール、ナビゲーションシステムのインストール、ディーラーオプションの取付といった付加価値機能と呼ぶ作業も行っている拠点もある。最近は、中国を中心にEVの生産、海上輸送需要が大きくなっており、荷下しをした先のRO-ROターミナルの中で、EVのバッテリーチャージのための設備を用意して充電をするといったサービスも拡大している。
 当社関連では、RO-ROターミナルが世界中に18カ所、完成車のトラックによる運送事業を中心に行っている会社が16社、例えばヨーロッパで陸上げされた完成車をさらにその先のヨーロッパの域内港まで配送するといったフィーダーサービスを手掛けるフィーダー船社がヨーロッパに1社、アジアに1社ある。加えて当社で運行する自動車船の事業を展開する拠点が41カ所あるというのが現在の状況である。

【自動車物流事業における社会変動の影響】
① 脱炭素の流れ
 CIIと呼ばれるが、船の二酸化炭素の放出実績を指標として運行船社はレポートをするというルールがあり、1年間の二酸化炭素の放出実績を毎年国際機関に対して報告する。それに基づいて国際機関から、燃費の良い順にABCDEという5段階の評価を受ける。D評価は3年連続、E評価を1回でも受けた場合は、その船の燃費効率を改善するための措置計画を作って提出することが求められる。しかし燃費効率の改善は簡単ではなく、多額の資金も必要となる。
 また別のルールとして、EUが導入している排出権取引制度というのがあり、これは排出権取引制度の中では世界で最大とされているもので、2025年から海運・道路輸送といった交通のセグメントが適用対象となる。展開する事業を進める中で、EU域内で発生させた排出量に対し課金を受け、その分について、償却するために必要な排出権を市場で買って、それにより充当することが求められる。当社の自動車輸送のビジネスでも巨額の排出権を買わなければならないといったインパクトがあり、顧客への価格転嫁もさることながら、これをどうやってコントロールしていくかを考える必要性に迫られている。
② 自動車の荷動きの変化
 当社の調査グループが調べた完成車の荷動きは、2022年と25年を比較すると25年には、341万台自動車の荷動きが増える予想となっている。欧州は、EVを普及促進する補助金制度や社会の仕組みの整備が非常に進んでいるエリアであり、EVの製造販売に非常に積極的な欧州メーカーの域内輸送と中国で生産されたEVのヨーロッパ向けの輸送の合計が176万台で341万台の半分強がここで増えるという形である。
 中国の完成車輸出台数は、2021年に214万台から22年23年と続けて1年間で100万台ずつ増加、2023年には382万台、今年は400万台に達するといわれている。中国車の輸出先は、アジア域内23%、欧州23%と2つのエリアで46%を占めている。EV化に伴う自動車メーカーのシェアの変化が今後起きてきて、特に欧州・中国間航路では、中国メーカーの取扱台数の伸び率が非常に大きくなるとしている。
 こうした情勢下、中国船社のコスコは、自動車専用船事業を強化するための野心的な計画を発表しており、2024年から2025年にかけて、17隻をすでに発注している。他に、上海汽車の物流会社が5隻、BYDが8隻のRO-RO船を発注したとされる。このように中国から海外へ輸出するための海上物流輸送能力を、自分たちの手で確保しようとする動きが進んでいる。
③ 物流とテクノロジーの融合
 欧州も含めた多くの国々で、物流関連労働者の確保が難しくなっている中、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響もあり、トラックの運転手やターミナルにおける荷役作業員の確保も非常に難しくなっている。こうした中、フォークリフト型やAGV型といった、プログラミングされた自動荷役機器を使って完成車を動かすということが本気で考えられている。優れたセンサーの機能も有して車と車の間の停車車間距離もコントロールできるといった高性能なものもあり、当社も実証実験を拠点で重ね、実用化を目指している。

【さらなる環境負荷の低減へ】
 自動車専用船においての脱炭素化計画は、動力が重油の船を減らして、過渡期としてLNG船を活用し、2030年頃までにはアンモニアを主燃料とする次世代燃料船に入替していく。
 ベルギーにある当社子会社ICOが保有・運営するゼーブリュージュ港の自動車RO-ROターミナルでは、洗車というサービスメニューに使用する水を、再生利用するための装置を導入して100%再生水で賄っている。また、LED照明を使い照明の電力使用量を減らすとともに、EVの充電装置を現在308機設置している。風力発電が現在11基稼働中であり、ターミナルの電力すべて賄っている上、さらに5基の増設を検討しており、余剰電力の電力会社への売電量増加を計画している。ベルギーの場合、これだけ大きな規模の風力発電が自動車ターミナルの中でできる大きな要因は、補助金の制度が充実していることである。
 配船効率、燃費効率というものを高める取組として、ハブ&スポークのコンセプトを実現できるようなRO-ROターミナルの作り込み、事業運営も一生懸命進めている。また、ターミナルではディーゼル燃料のトラックを多く使ってきたが、これをEVのトラックに置き換えようという取組も進めている。バッテリーをカセット式にして、スケジュールが非常に厳しい物流の現場において、実用化を目指し、パートナー企業と一緒に実証実験を行っている。このように当社は、いろいろな社会変動が起きている中で、世の中の期待に応えていこうという思いを持って取組を進めている。

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