【自動車物流事業における社会変動の影響】
① 脱炭素の流れ
CIIと呼ばれるが、船の二酸化炭素の放出実績を指標として運行船社はレポートをするというルールがあり、1年間の二酸化炭素の放出実績を毎年国際機関に対して報告する。それに基づいて国際機関から、燃費の良い順にABCDEという5段階の評価を受ける。D評価は3年連続、E評価を1回でも受けた場合は、その船の燃費効率を改善するための措置計画を作って提出することが求められる。しかし燃費効率の改善は簡単ではなく、多額の資金も必要となる。
また別のルールとして、EUが導入している排出権取引制度というのがあり、これは排出権取引制度の中では世界で最大とされているもので、2025年から海運・道路輸送といった交通のセグメントが適用対象となる。展開する事業を進める中で、EU域内で発生させた排出量に対し課金を受け、その分について、償却するために必要な排出権を市場で買って、それにより充当することが求められる。当社の自動車輸送のビジネスでも巨額の排出権を買わなければならないといったインパクトがあり、顧客への価格転嫁もさることながら、これをどうやってコントロールしていくかを考える必要性に迫られている。
② 自動車の荷動きの変化
当社の調査グループが調べた完成車の荷動きは、2022年と25年を比較すると25年には、341万台自動車の荷動きが増える予想となっている。欧州は、EVを普及促進する補助金制度や社会の仕組みの整備が非常に進んでいるエリアであり、EVの製造販売に非常に積極的な欧州メーカーの域内輸送と中国で生産されたEVのヨーロッパ向けの輸送の合計が176万台で341万台の半分強がここで増えるという形である。
中国の完成車輸出台数は、2021年に214万台から22年23年と続けて1年間で100万台ずつ増加、2023年には382万台、今年は400万台に達するといわれている。中国車の輸出先は、アジア域内23%、欧州23%と2つのエリアで46%を占めている。EV化に伴う自動車メーカーのシェアの変化が今後起きてきて、特に欧州・中国間航路では、中国メーカーの取扱台数の伸び率が非常に大きくなるとしている。
こうした情勢下、中国船社のコスコは、自動車専用船事業を強化するための野心的な計画を発表しており、2024年から2025年にかけて、17隻をすでに発注している。他に、上海汽車の物流会社が5隻、BYDが8隻のRO-RO船を発注したとされる。このように中国から海外へ輸出するための海上物流輸送能力を、自分たちの手で確保しようとする動きが進んでいる。
③ 物流とテクノロジーの融合
欧州も含めた多くの国々で、物流関連労働者の確保が難しくなっている中、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の影響もあり、トラックの運転手やターミナルにおける荷役作業員の確保も非常に難しくなっている。こうした中、フォークリフト型やAGV型といった、プログラミングされた自動荷役機器を使って完成車を動かすということが本気で考えられている。優れたセンサーの機能も有して車と車の間の停車車間距離もコントロールできるといった高性能なものもあり、当社も実証実験を拠点で重ね、実用化を目指している。