2023.08.22 第466回東三河産学官交流サロン
1.日 時
2023年8月22日(火) 18時00分~20時30分
2.場 所
ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス
3.講師①
豊橋技術科学大学 総合教育院 准教授 稗田 睦子 氏
テーマ
『今の時代だからこそ運動が必要』
講師②
西島株式会社 代表取締役社長 西島 豊 氏
テーマ
『一流の製品は一流の人格から ~一生元気、一生現役~』
4.参加者
68名(オンライン参加者 4名含む)
講演要旨①
私の研究分野は、「運動生理学」という学問になる。「運動生理学」は、読んで字のごとく、運動をしている人の生理を研究する学問である。この学問はいろんなところに応用されており、スポーツにおけるトップ選手のトレーニング方法にも活用されている。また、夏の甲子園大会で「クーリングタイム制度」が設けられたが、身体の循環が変わることで逆に怪我を起こすという懸念もあり、今後運動生理学者が検証していく材料になるのではないかと思っている。運動生理学の分野は幅広く、健康づくり、子供の運動能力開発などでも応用研究されている。また、研究者によって着目しているものが異なる。筋肉、体温調節などに着目するケースがあるが、私は「動脈」に着目して研究を行ってきた。ウィリアム・オスラーという有名な医師は、「人は血管とともに老いる」という言葉を残している。血管は、年々機能が悪くなり、ずっと若い状態ではいられない。この結果、加齢とともに血管動脈の機能が低下していく。動脈機能の評価方法には、「血管内皮機能」と「動脈伸展性」がある。これをそのまま放っておくと、心血管疾患、例えば心臓病とか、脳血管疾患を起こすことになる。「動脈伸展性」には、血管のしなやかさを測る「動脈コンプライアンス」という方法があり、若年者と高齢者の超音波B-mode画像を比較すると、若年者の血管は拍動によりダイナミックに動くが、高齢者の血管は拍動が小さくなり、しなやかさが失われていることが分かる。もう一つ、動脈の硬さを評価する「動脈脈拍伝搬速度(PWV)」という方法があり、物質の特性と同様、血管が硬い人は心臓から拍出された拍動が末梢に伝わりやすいが、血管がしなやかな人は拍動が全身に伝わる速度が遅いという性質があり、加齢とともにPWVが上がるという現象が見られる。
今、世界では心疾患で亡くなる方が一番多く、これを食い止めるために薬学的なアプローチや栄養学的なアプローチなどいろんな研究が行われているが、私は「運動」は動脈機能にどのような影響を与えるのかということで研究を行ってきた。運動をしていない人は、加齢とともに一気に血管のしなやかさが失われていくが、運動している人はある程度維持されることが分かった。運動習慣のある人は血管の柔らかさがある。私たちの研究の中で、「運動介入」というものを行い、運動すると動脈が柔らかくなるということを証明した。また、閉経後の女性はエストロゲンが無くなり血管が硬くなるが、運動を行わせると血管の硬さが和らぐという症状も見られる。このように運動介入させると、血管の機能が改善され、心血管疾患のリスクを下げるという一定したエビデンスが今得られている状態である。また、運動は神経系にも良い影響を及ぼし、最近では運動を定期的に行うことで大腸がんのリスクを減らすというエビデンスが得られている。それから、認知症も低下させることが分かってきている。いろんな部分に運動することで有益な効果が得られており、現在、様々な研究が進んでいるといった状況である。
科学的なエビデンスがなくても、皆さんの頭の中で「運動は健康にいい」ということは理解されていると思うが、今後この「健康」がますます重要になってくる。今日本は、異常気象、超高齢化、少子化、老々介護、人口減少、大規模自然災害など、いろんな問題を抱えている。特に、これから深刻になってくるのが高齢社会である。人口に占める高齢者の割合が増えていくことで「介護」の問題が出てくる。介護というのは、社会的に大きな負担を強いるものになり、平成21年から令和にかけて見てみると、介護の人数が増えている。介護の原因には、脳血管疾患、心疾患、骨折などがあるが、運動すれば心疾患のリスクが減るというエビデンスが今得られており、運動することで脳血管疾患、心疾患になる割合を減らすことが可能になる。また、運動することで筋肉がつき、転倒リスクも減らすことができる。このような側面から見ても、運動というのはこれから非常に重要になってくる。身体機能は、何もしなければ加齢により低下する。理想は、ある程度まで機能を維持して、最後に亡くなる「ピンピンコロリ」だと思うが、ほとんどの人がこのようにはいかない。その場合、社会的負担、経済的負担がかかる。もし、運動をしてある程度維持ができれば、その介護にかかる期間を少なくすることができる。異常気象、大規模自然災害がこれから懸念されるが、避難するには体力が必要になる。2011年に起きた東日本大震災を見ると、亡くなった方の年齢割合は高齢者が約66%以上で、「逃げ遅れ」が原因である。避難には体力が必要であり、運動をして体力を維持し続けるということがいかに重要かということが分かる。
週1回の運動は日本の約50%の人がしているが、厚生労働省では「週2回以上、1回30分以上、1年以上、運動をしている」これを続けている人を運動習慣があると定義付けている。この定義に当てはまる人は国民の約3割と言われており、約7割の人が運動不足ということになる。運動が体に良いことは分かっているが、実際運動はしたくないという意識の人が多く、この意識を少しずつ変えていこうというのが厚生労働省の「アクティブガイド」に掲載されている「いつでもとこでも+10」運動になる。例えば、朝起きて犬の散歩、車を使わないで歩く、テレビを見ながら筋トレをするといったように、生活の隙間にまず気付き、始めるということが大切である。これらの運動を続けることにより、生活習慣の発症リスクを下げ、認知症の発症を防ぐことができる。10分でも多く身体を動かし、18歳から64歳の方であれば歩行以上の強度の身体活動を毎日60分行うこと、65歳以上の方であれば強度を問わず身体活動を毎日40分行うことが理想であると謳っている。運動習慣のない方は、まず「+10」から始めてみると良いと思う。スポーツ庁では、従業員の健康増進のためにスポーツの実施に向けた積極的な取組を行っている企業を「スポーツエールカンパニー」として認定している。現在、900社ほど認定されており、豊橋でも4社が認定されている。
健康は個人だけのものではなく、日本社会の安心及び経済力に維持という点でも重要である。定期的な運動は、健康の維持・増進をもたらし、日本が抱える社会的課題の対処法の一つとなる可能性が大きく、今後、運動の重要性が高まっていくであろう。「自分の健康が社会に役立つ」と考え、明日から是非時間を見つけて、まず10分から体を動かすことを始めていただければと思う。
講演要旨②
弊社の使命は「モノをつくる」ことであり、それに相対する「ひとをつくる」ことを大切に経営している。私が35歳の時に父が他界し、4代目として社業を継いでいる。創業は大正13年で、来年100周年を迎える。社員は140名で、150名以上にはしないというこだわりを持って経営している。社員教育に質を持って対処し、適正規模を維持するということが非常に大事だと思っている。経営理念として「一流の製品は一流の人格から~一生元気、一生現役~」とあるが、一流の製品をつくるには、その人格形成が最も大事な仕事であるということで新入社員教育がスタートする。社員は原則的に正社員雇用し、定年のない「引退制」を採用することで、本人が望む限り、会社が存続する限り、雇用は守られるという社員にとって安心要素の一つになっている。
弊社の沿革としては、2004年に愛知県の「モノづくりブランドNAGOYA顕彰企業」認定、2017年に経産省の「はばたく中小企業・小規模事業者300社」認定、2018年に経産省の「地域未来牽引企業」認定、また2021年に人を大切にする経営学会の「『第11回日本でいちばん大切にしたい会社』大賞・審査委員会特別賞」を受賞した。
長く経営をしていく中で必要なことを代々受け継いでいる。会社には「変えてはいけないもの」があり、それは『創業者精神』であり『社風』である。経営理念や社員教育も、この社風を作っている一つの要素である。弊社はモノづくり企業であるため、創業者精神と社風だけ残して、技術力向上のための環境整備、設備投資、組織運営など、全てのものを強制的に変えていかなければ長続きしない。常に「今のままでは10年後の会社はない」という危機感を持って経営している。
弊社は、加工機だけではなく、加工、洗浄、測定、搬送、管理システムなどをフルオーダーし、全てオールインワンで提供する専用工作機メーカーである。私は業界として「縁の下の力持ち」だとプライドを持ってやっているが、何をやっている会社か知らない人が多いのはそういう背景だと思う。社員もプライドを持ってモノづくりを行っている。世界の一流のお客さまから一流のオーダーをいただくが、無理難題ばかりである。これを140人の正社員で「多能工」を育成し、少数精鋭の部隊として闘っていく必要があるため、とことん人に拘って会社運営をしていかなければならない。工業系以外では、医療系として2002年から「西島メディカル」を立ち上げた。日本国内で1,500症例ほど、西島メディカルで作られた人口膝関節が患者さんに提供されている。最近では、指関節、脊椎・頚椎などのインプラントや手術器械の受注が増えている。
「みんなが活躍できる組織の基盤づくり」には、やはり一生活躍できる組織の仕組づくりというところが必要になる。まず、「すべてのひとが必要とされ続ける環境づくり」が重要である。常に役割が変わり続ける中で、一生涯必要とされ続ける環境を会社が用意することがひとの力を最大限活かす秘訣である。また、組織としては「役職」ではなく「役割」の理解が最も重要であり、役割を理解し合うからこそ認め合い、すべてのひとが主体的に取り組む組織へと繋がる。とにかく、社会の「役職」ではなく、一人ひとりが持つ「役割」に注目すると、相手へのリスペクト、役割の関係性が生まれ、共存共有ができる組織の礎になる。これが、私が今日お話したい要となる。
定年がない西島組織の特徴は、①すべての社員に役職が与えられ、ライフステージに応じてその役割が変わっていく、②ライフステージに応じて必要なスキルを習得していく、③多能工からはじまり、管理職を経て、専任工・匠へ進化していく、ということである。ベテランには、技術と経験がある。技術開発というのは若者のブレークスルーも一部あるが、ほとんどはベテランが経験値から紐解いた判断をし、必要とされる技術に対して提案を行う。もう一つの唯一無二の役割は、技能伝承である。彼らの経験値を若手にいち早く伝達していく。ベテランから技能を早い段階で習得し、20~40代の若手社員がチームを組んで世界中に納品に行っている。世界中の工場に行き、言語対応能力を向上させながら、いろんな文化を吸収し、西島の良いところを残しつつ、新しいものを吸収していくという役割を担っている。
もう一つの特徴として、ベテランと若手の橋渡しになる中間管理職の若手管理者となる。課長が20~30代、部長が40~50代を原則に、早ければ早いほど良いということで事業伝承すべく管理職に就いていただく。しかし、管理職だけやっていれば良いということはなく、現場の仕事をしながら管理の仕事をする。西島は「多能工」を目指している。全ての社員が現場を経験しており、あらゆる人が複数の業務に携わっているのが弊社の特徴である。若いうちは「多能工」をし、経営の視点を持った感触を経て、最終的には「専任工」になっていく。管理の仕事だけやっていた場合、現場に戻れないという現象が起こる。弊社は専用機メーカーであり、100種類の機械を100通りの方法で作っていくので、3日も現場を離れると工場が分からない状況となる。定年のない会社の役割としては、役職ではなく、「エンジニア」が必要である。最終的には経営の視点を持って「専任工」としてスペシャリストになる。その人にしか出来ない役割にフォーカスしていく。働きたいという意思を持っている方は雇用するが、前提条件は「技術」があること。20~40代の時に努力しなくても会社はクビにはしないが、60~80代で活躍できなくなる。もう一つは、ライフステージに応じて役割が変わっていくので、新たな挑戦をしていくことが必要となり、厳しい意味で常に自己成長を見極め、努力をしていかなければならない。だからこそ、会社は福利厚生を含め、安心して働ける環境の創出とサポートが必要だと思っている。
社会で、仕事のやり方についてベテランと若手の隔たりをよく耳にするが、「役割」として明確に定義すれば良い。ベテランには「後継者の育成と技術の昇華」という役割がある。ベテランは変わらなくて良い。若手は「アイアンマンとして変われば良い」ということで若手管理職を抜擢している。3年スパンで部課長の入替を行っている。元々の人たちは経験者で、その技能や経験はあるが、新しい仕組みに変えることができなくなるので、変えることは大事なことである。ベテランと若手がお互いの「役割」を理解することで、尊厳、尊重が生まれる。もちろん、目上の人を敬う尊敬の念を忘れてはいけない。ベテランと若手の間に発生する尊厳という均衡は、どちらのパワーバランスも崩れてはいけない。
定年制がない会社として、弊社は「引退制」という言葉を使っている。「引退制」は退職を自身が決める。もちろん会社としてリスクがあるが、それ以上に大事なことは「本人が働く意思を持ち続ける」ということである。その人の活躍できる環境を与えることが非常に大事だと思っている。勤続年数最長記録は85歳で引退された方で、勤続66年を勤めたスピンドルマイスターという弊社の唯一無二の技術者だった。また、80歳で勤続64年まで勤めてくれた方が、ある日自宅で容態が急変してお亡くなりになった。私が社長になって9年、4人の社員を現役で看取ったが、全ての社員のご家族から「棺に作業着を入れたいのでもらえないか?」というお願いをされ、みんなが西島の作業着を身にまとって極楽浄土に旅立った。また、家族葬にもかかわらず弔辞のお願いをされ、万感の想いで務めさせていただいたこともあった。このような社員がいること、家族の理解が得られていること、本当に私は社員に助けられている。「引退制」は常に働く意思を持ち、自分でカウントアップしていくが、「定年制」はカウントダウンで、悪気はないがどんどん自分の可能性を狭めていく。会社は社員を本当に必要としており、社員は何よりもこの会社で働き続けたいとうことで均衡が生まれる。このバランスを常に会社として保つことが大事である。
弊社には、女性のエンジニア活用もある。事務職の女性社員は常に忙しいわけではないが、エンジニアの生産業務は基本的には常に忙しい環境となっている。事務職の中でエンジニアの手伝いをしたいという女性社員が現れ、基礎技術はないがパソコンが得意で、2ヵ月後にはCADシステムで生産業務を行うに至った。今では8人の女性スタッフが月産7,500点の部品供給におけるプログラムを全て担当している。全員エンジニアではなく、さらに5人が弊社の社員の奥様である。成果を出せば良いということで、パート社員として採用しているが、働かなくて良いという環境が、逆にもっと働きたいという社員の意識向上につながっている。設計の仕事は、設計者でなければできない仕事が6割、設計者でなくてもできる仕事が4割ある。これを女性スタッフが担当しているという成功事例である。4月から女性社員に3種類のユニフォームを支給することになり、その日の朝に自分がやる仕事の状況に応じて好きなユニフォームを着て欲しいということで、すごく笑顔になってくれた。
次に、やはり「社員とその家族の信頼関係の構築をする」ということが大事だと思う。衣食住で、運動にプラスして食事が大事である。引退していく一番の大きい理由は「体」である。ベテランは、年相応で注意される方が多いが、若手は偏食で体を壊すことがある。一流の仕事をするには、一流の健康管理も必要ということで、1ヵ月の献立を決めて強制的に食事を提供している。また、定年制がないので、「勤続30年、50年、60年表彰」を設定している。社員はもとより、パートナーである奥様に何よりも感謝している。会社と結婚して50年のお祝いとして社員には『勤(金)メダル』を、奥様には真珠をあしらった金のブローチをプレゼントし、年末に社長主催の夫婦ともに参加する晩餐会を開き、奥様への労いをさせていただいている。家族会もそうである。この家族会を通じて、入社してくれる子どもたちや奥様も多い。理想の会社像について聞かれるが、自分の信念を持って、貫いて、この仕事が、エンジニアが、この会社が、息子に対して「継がせたい」、「仕事をさせたい」と思えるかどうかである。弊社には、2世代、3世代で働いていただいている社員がいる。弊社の社員一人ひとりが、自分たちの子孫繁栄のために会社に妥協せず、課題があれば改善を要望してくる。これが弊社の強みであると思う。
弊社は定年制のない会社で、年齢、学歴、性別、国籍も関係ないと言っている。学歴や職歴はその人が培ってきた尊い財産であるが、それは過去のことである。大事なのは今その経歴を活かして、一生懸命職務を全うするかどうかである。昔話しをし出したら危ない。昔はこうだったという話をすると、今に満足せず、今の役割に向き合わず、過去に縛られているのではないかと思う。そこが定年制のない会社において、常に気をつけなければいけないところだと思う。
共有言語として「西島としての考え方・価値観を共有する」という項目があるが、それを成し遂げると、会社が「やるぞ」と決めたらそれを主体的に動ける組織ができると私自身は思っている。西島では「新入社員歓迎登山」、「新入社員歓迎会」をはじめ、「秋の研修旅行」など、2ヵ月に一度の会社行事を全社員で行うことを大切にしている。当たり前のことが当たり前にできる、社員が喜んで参加してくれるということが企業文化として大事ではないかと思う。