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産学官民交流事業

2024.01.23 第471回東三河産学官交流サロン

1.日 時

2022年1月23日(火) 18時00分~20時30分

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

愛知大学 理事長・学長 広瀬 裕樹 氏

  テーマ

『保険法と模擬裁判~大学生活半世紀の中間報告~』

  講師②

公益財団法人浜松地域イノベーション推進機構 副理事長
次世代自動車センター浜松 センター長  望月 英二 氏

  テーマ

『次世代自動車の時代に生き残るための中小企業支援
 ~次世代自動車センター浜松による中小企業支援の取り組み~』

  参加者

58名(オンライン参加者3名含む)

講演要旨①
 今回、タイトルを保険法と模擬裁判、サブタイトルを大学生活半世紀の中間報告とさせていただいた。私は1971年生まれ、2024年時点の本学の定年は70歳のため、大学に入ってから定年までが50年、ちょうど折り返しを過ぎたあたりである。残り20年弱ということで、中間報告的なお話しさせていただく。学長としていろいろなお話ができればということもあったが、まだ学長としての成果をお示しできる段階ではないため、本日は私のこれまでの歩みを中心に話をする。
 最初に、大学院に入って研究を始めたところのお話をさせていただく。専門の研究分野は商法になる。商法は、わかりやすいものでは、会社法や手形法というところである。当初は手形を研究しようと思っていた。私の指導教員が手形法の権威で、日本でも有数の先生であったからである。指導教員に手形法を研究したいと伝えると、「もう手形はやめておけ、未来はない」といわれた。先見の明があったというか、約束手形は手形交換所が再来年なくなる予定で、歴史的な役割を終えようとしている。実際1995年ぐらいから既に学問分野としても下火になり、「新しい考えが持てない」「新しい裁判例も生まれない」「実務が固まっており、法学者としてやることが無い」といった状況であった。
 そこで指導教官から「保険で良いのではないか、少し勉強してみなさい」といわれて数カ月迷った末、保険を研究しようという気になった。具体的に何をやれば良いか相談したところ「自分で調べなさい」という答えであった。いろいろ調べた結果、たまたま読んだ本の著者が責任保険の得意な先生であったこともあり、責任保険に関する研究で論文が書けそうだと思い、偶然に出会ったテーマの勉強を開始した。通常はテーマを決めるときに、「このテーマでいきます」と指導教官に相談した場合、その分野を研究していると、「そのテーマは先にいける。あるいは先がない」と指導されることが多いが、そうしたことが全くなく、何とかなりそうと辿り着いたものが、実はつながるテーマだったということで、ラッキーなことに研究スタートをさせることができた。
 その内容を簡単に紹介する。責任保険は少し特殊である。普通の保険は契約している人と会社との間の問題を扱うが、責任保険の場合は必ず被害者という存在が出てくるという特徴がある。通常の契約の問題であれば、最後お互い納得すれば良いと割り切れるが、第三者が関係すると、その調整が難しくなる。私が特に興味を持ったのが示談代行である。自動車事故をしたら保険会社が、加害者の代わりに被害者と交渉してくれるというのは皆さんご存じだと思う。これは実は法律的に異例な形であり、本来は加害者と被害者が話をつけるべきところに、保険会社が出てくるというということである。
 ここで大きな議論があった。「保険会社が出てきたら被害者が不利になるのではないか、相手が強すぎるのではないか」ということが懸念されたためであるが、保険会社側が自分たちをコントロールするといった調整があって認められた。この制度が導入されるとき、最初は被害者との関係が問題になった。しかし、制度を導入してみて、ほかにも問題が出てくることが考えられるようになった。
 示談代行自体は加害者、保険会社双方に都合が良いものであった。事故を起こしてしまった場合、加害者は何をすれば良いかわからない、悪い表現をすると気持ちが逃げてしまうという状況に陥りがちで、なかなか被害者救済が進まないということがある。これが保険会社に変わると心理的な負担も減少し、適切に話が進むということで非常に都合が良い。保険会社側からすれば、被害者との話で損害額が決まる、つまり保険金として支払う額が確定するため、直接的な利害関係がある。ここを加害者任せにして、いい加減な損害額になるのではなく、直接交渉することにより、保険会社側も支払う保険金の額をコントロールできるのは非常に意味があるということで、それがウィンウィンというところからスタートしている。日本ではこのウィンウィンで終わっており、サービスが続いていて保険会社のCMでも積極的にPRされている。
 しかし、これがアメリカでは大きな問題になっている。なぜかというと、アメリカは、この示談代行が自動車保険だけではなく、いろいろな保険で一般的なため多くの種類の責任保険があり、そこに問題が生じた。例えば被害者から加害者に4,000万円請求があった場合、この4,000万円の請求が妥当かどうかを検討し、保険会社が入って話し合う。保険支払い金額の上限について、日本の自動車保険の人身部分は、無制限のケースがほとんどであるが、アメリカは多くの種類があるということで、上限金額があるケースが出てきた。上限金額を3,000万円とすると、保険会社が出てきても3,000万円を超えたら保険会社の支払金額は一定のため、もういくらでも良いので被害者の希望を認めた方が早く手間もかからない、交渉のコストも抑えられると、保険会社が被害者の請求金額をそのまま認めるという形になることもあった。加害者は当然上限金額の3,000万円以内にしたいという意識があるため、保険会社と加害者の利害が対立してしまう。ウィンウィンであったものから、対立するという構図が発生してしまった。
 こうした事例をどのように解決するかというのがテーマで、アメリカでは長期間多くの裁判例もある問題となっており、それを参考に日本でもこういうことが整理できないかという研究をしたというのが、最初にやり始めた保険のテーマの内容である。先程もいったが、日本の場合は示談代行の上限金額がないため実際こうした問題が発生していない。保険会社もこうした対立の可能性があるときは、示談代行しない、手を引くなど基本的に回避している。このため理論的な問題だという話になる。裁判の争いが多くあると日本でも研究しなければならないという機運が高まり、研究者数も増加するが、裁判例がない状態であるため、研究が進まない状況で、理論の話も滞りがちになっている。ただ日本でも水面下で蠢いているのではないかということをいい続けている。
 会社が企業保険に入っているケースは多いと思うが、こうした責任保険の場合、事故など何かあったときに保険金が実際支払われるかどうかが大きい。例えば、事業上被害者に損害を与えた場合、保険金でいくらか補填してもらえるかといったときに、この事故は保険金を支払いませんよといわれたら、加害者は困ることになる。本来どうあれば良いというのではなく、それぞれの利害の中で事故の処理がされてしまうという懸念もあるため、利害対立の状況が発生し得ると考えており、明確なルールを理論的に示せないかと模索している。基本的には加害者の利益をベースとして、事故処理をしなければならないと思うが、学会でも私以外に数人しか研究していないテーマであり、議論が深まっていないことを含めて、こうした研究をしていることを、皆さんにお伝えしておきたい。こうした研究から愛知大学に勤務することとなり、教育に携わることになった。
 2002年から専門演習も22年間担当しており、500名以上の学生に教えてきた。振り返ると結構な教育成果があると思っている、また、法科大学院でも教えており教え子が多く弁護士になっていることも教員冥利に尽きる。今日ご紹介するのは、模擬裁判企画であり、2007年より担当し毎年実施している。
 この企画がスタートしたのは2005年である。当初は私でなく、別の教員が始めた。その頃、当時30代前半の教員が集まり、「何か面白いことやろう、大学の名が上がるような企画をやりたい」と話をしたが、少し不純な動機もあった。どのように不純かというと、「自分たちが一生懸命企画すると大変だから、学生にやらせよう、学生に汗をかかせて学生を動かそう。自分たちは楽ができて、学生が動いて、素晴らしい企画になる」と考え、模擬裁判という企画を立ち上げた。しかし、その目論見は見事に外れた。学生を動かすためには、教員がその倍動かなくてはいけなかったのである。
 最初に担当した先生が頑張って立派な模擬裁判企画を立ち上げた。しかし、その先生が別の大学に変わることになった。私は先程商法が専門と話をしたが、その先生は刑法の先生であり、模擬裁判は刑事訴訟法という刑法の授業の一環であった。刑事訴訟法は商法とすごく距離があり、右端と左端といったような感じである。せっかくこんな良い企画が始まり、担当の先生がすごく苦労して頑張り立ち上げた。これは続けなければいけないと思い、私が分野は違うが引き継ぎますと手を挙げたのが2007年である。それ以来昨年まで、この企画を続けている。
 この企画は刑事訴訟法の勉強の基盤となる実践的な企画であり、2つの大きな特徴がある。1つが現実の裁判員裁判を忠実にシュミレーションしているということである。『裁判を舞台にした劇』ではない。一般の裁判員を招き、その場でガチンコの議論をしている。もちろんシナリオはある。それは、こういう事故や事件がありましたというシナリオ。シナリオを作り、それに沿った証人も用意するが、証人を見てもらい、裁判員がどう受け止め、議論をするのかというところからは、シナリオがない。まさに本当の裁判員裁判と同様である。だから劇ではない。シナリオが最後までのあるわけではないというのがひとつと、それを学生主体でやる、この事件の設定も裁判の運営もするということがもうひとつのポイントで、教員はフォローをするだけである。そのために学生は1年間基礎からしっかり学んで、準備を進めるということが必要になってくる。
 これが本学の特徴となっている。実は学部レベルでこのレベルの模擬裁判をやっている例はほとんどない。大学院において、シナリオを教員が全部書いて非公開で実施しているという例はあるが、学生主体で、シナリオも学生に作らせて、学生が作り上げた模擬裁判を公開しているのは、全国的にも少ない。チラシやポスターなども学生がインパクトのあるデザインを考えて作成し、配布して見に来てくださいという広報活動も行っている。これによって学生の企画力が大きく上がっている。法律の実際的な適用について学んだところが、現実の場面ではどうなるのかということを勉強する機会になっている。刑事裁判は最終的に、人権教育である。一般の方には理解しにくいかもしれないが、刑事被告人の人権を守るというのが刑事裁判であり、それは全て意味がある。ひとことでいえば、「疑わしきは罰せず」、言葉を知っている人は多くいるが、具体的にどうしたら守れるのかがわかることは、なかなか難しい。私は法学部の教員をやってきたが、法律を勉強するときに一番大きいのは人権感覚であると思っている。大体の人は人権に対して抽象的なイメージしか持っていない。それでは人権は守れない。人権を守ることがどういうことかをこの実践を通じて学生に学んでもらっている。1年前、ぼんやりと準備をスタートした学生も多くいるが、模擬裁判直前の1・2カ月は見違えるようにきびきび動いて、自分たちの意思で勉強してくれるため、本当に良い教育の場であると自信を持ち、教員生活において、私の心に残る大きな成果になっている。
 法学部長を2回経験し、今回学長になった。学長・副学長・学部長もそうではあるが、管理職は、基本的にわれわれ教員が得意な仕事ではない。ではなぜ学長になったのかというと「こうして研究と教育を育んでくれた愛知大学が素晴らしい場である」と思い、「誰かがこれを守らなければいけない。皆さんから信頼を受けるのであれば、精一杯努めなければいけない」と思った次第である。先程話をした保険の研究テーマもたまたま縁があって見つかったものであり、教育の中心となった模擬裁判も、運と縁で巡りあったようなところがある。本当にプログラムをされていないキャリアであったと思っている。
 最後にこれからの愛知大学という話をする。私がとにかく大学に求めたいのは、大学キャンパス特有のワクワク感である。豊橋校舎に来たことがある方もいらっしゃると思うが、キャンパスに入った瞬間にうっそうとした森があり、何か違う大学特有の空気が流れている。「ワクワクして何かができるといった空気感」を大学として醸し出したい。そのために直近で何をするかというと、まず教員が楽しまないといけない。何か面白いことをやりたいと思っている教員を焚きつけ、障害を取り払ってワクワク感を高め、愛知大学を発展させていきたい。これは、プログラムされた未来ではない。何が出てくるかわからないが、私は何が出てくるかを楽しみにしている。いろいろな未来が大学から飛び出していくことを一生懸命支えていきたいと思っている。

講演要旨②
 本日の講演は自動車の話である。出席者を見ると、ものづくり関連の方は少なくて、私の話と自分の商売がどのように結びつくのかがわかりにくいかもしれない。自動車はデジタル化による革新を受けて、エンジンが電気になる。どの産業分野も、デパートがイーコマースになる、銀行がキャッシュレスになるなどデジタル化による革新の影響を受けて大きく変化している。この変化の中で何をすれば良いかを、自動車を例に話をすると考えていただくとわかりやすいと思っている。
 自己紹介としてのポイントは2004年の秋に発売されたスズキのグローバルカー「スイフト」のチーフエンジニアを務めたことである。その後購買本部長として、開発購買・集中購買・グローバル購買を担当した。こうしたバックグラウンドがあり、次世代自動車センター浜松(以下当センター)のセンター長をやることになった。常勤監査役のときに就任し、今6年目になっている。また、浜松商工会議所の副会頭も務めている。
 当センターは公益財団法人浜松地域イノベーション推進機構の中にある。浜松市と静岡県が主な出資者であり、他に浜松の企業からも支援を受けている。設立目的は、「次世代自動車の時代に生き残るための中小企業支援」である。「ガソリン自動車」が「電気自動車(以下EV)」になると、エンジン部品を製造している中小企業のビジネスが減少する。次世代自動車になっても、ビジネスを獲得できるように、中小企業が「固有技術」を活かし、生き残ることができるように支援するものである。ガソリンエンジンがゼロになることはないが、中小企業は2割売上が下がるとだいたい赤字になる。売上が2割減る前にそれを補う商売を考えないと、赤字の企業はエンジンが8割残るとしても存続できない。そのため、得意とする加工技術で次世代自動車に搭載する部品を作ることを支援するのである。
 組織体制はスズキだけではなく、ヤマハ発動機と地域のために立ち上げ、今は完成車メーカーのトヨタ自動車・本田技研工業のOB、シートメーカであるティ・エステックの技術部長といった人たちが集まり、技術コーディネーターを務めている。会員制で、入会資格は事業に賛同していただけることである。会員数は現在524社。内訳は、静岡県内で7割、県外3割、当初は県内が多かったが、県外の大企業が増加した。規模別では、中小企業が4分の3、大企業が4分の1である。事業別では、圧倒的に製造系が多い。特に金属加工業が241社と半数近くになっている。
 ここで次世代自動車の話をする。CASEはConnected(コネクテッド・つながる化)、Shared & Services(シェリング・共有化)、Autonomous(自動運転化)、Electric(電動化)の頭文字をとって2016年パリモーターショーで、当時ダイムラーAGのCEO、メルセデス・ベンツ会長であるディエター・チェッチェ氏が発表した中長期戦略の中で、「次世代自動車の技術」の総称として唱えた言葉である。コネクテッドは、簡単にいうと自動車のIoT端末化。クルマとネットワーク、クルマと車、クルマとインフラ、クルマと歩行者などいろいろなものとつながるという話である。ソフトウェア・ディファインド・ビークル(SDV)といって、車のOSを作りましょうというのが現在の傾向になっている。
 次は自動運転化。自動運転はエンターテイメント性があり、スマホ感覚でハンドルがないEVを想像するかもしれないが、実際の実験車両はセンサーを中心に多くの機器が取り付けられているため、値段が高く1,000万以上になる。そのために個人用の車より、公用車が先行して形になる可能性はある。ただし、日本は行政が縦割りなので、それがなくならない限りは難しいというのが実情である。
 次がシェアリング。わかりやすいのが電動キックボードのシェアリングサービスである。去年、ミュンヘン市内にモーターショーでいったときも市内にあった。スマホで解錠して乗って、乗り捨てても良く、全部GPSがついており、料金はスマホ決済というものである。この車版をイメージしてもらうと良い。もうひとつ「MaaS」というモビリティとラストワンマイルとしての移動という「ラストワンマイル・モビリティ」がある。「MaaS」を端的にいうと、乗換案内という鉄道のアプリの拡大版と捉えると良い。飛行機からレンタカーまで全部含めて、目的地にいくにはどうしたら良いかをスマホなどで検索すると、全部のスケジュールが出てきて、決済もできるというイメージである。「ラストワンマイル・モビリティ」は自宅最寄りのバスの停留所で降車した後、自宅まで残りをどう移動するかというものである。ワンマイルは1.6キロメートル。例えば電動キックボードがその役割を担うといったことである。
 最後は電動化。欧州の高級ブランドはベンツやジャガーも含めて電動化に動いている。高級ブランドだけでなく、小型車から商用車まで全部EV化に向かっているのが欧州であり、中国も同様である。対して日本は、EVのシェアが2%程度である。こうした状況に対して当センターがどのような活動をしているか話をする。
 「中小企業における自動車産業のデジタル化への対応」として、当センターの事業方針は以下の4項目である。①EVシフトを含めた次世代自動車(CASE)への対応。②電動化の推進などカーボンニュートラルへの対応。③デジタルものづくりの推進。④コロナ禍(ウィズコロナ・アフタコロナ)の対応である。この中で、本日は①の次世代自動車対応支援の話しをする。どういう考え方でやっているかは、先程説明したように、次世代自動車に搭載する部品のビジネスをするということである。このためには、提案力と収益力の向上が必要になる。最初に提案力の向上について話をする。提案力を向上してビジネスを拡大するには、次世代自動車に搭載される部品を試作してみる、試作したものについて、「こうしたものができました」と客先に提案し、ビジネスを獲得するということが必要になる。
 そのため、次世代自動車のビジネスを獲得するための支援事業スキームをいろいろやっている。大まかな流れは、最初は固有技術の探索活動といって、自分たちがどんな技術を持っていて、それをどのように活かすと、次世代自動車に搭載される部品ができるのかを分析・認識して活動をするというものであり、当センター独自のチャートを作っている。次に、EVなどをバラバラにして、作れる部品を探してみる。続いて勉強をして知識を習得する。その上で試作テーマを設定し、試作部品の製作及び工法を開発する。この試作部品等製作には、委託事業としてはお金もだしている。そして先行開発企業発表会として報告・共有するといった順序である。
 最初のチャートは、それぞれの企業が作っている部品を、どのような技術で開発し、生産検査するまで行ったかを、プロセス上に全部書いてあるという作り方で、60社以上が作成しており、仕上げるのに3ヶ月ぐらいかかっている。チャートの書き方は基礎講座といって、私が講師で教えているが、各企業が持つ他に見られては困るような固有技術なので、NDA(秘密保持契約)を結んで伴走支援しながらこれを作成している。
 当センターには「部品ベンチマークルーム」という部屋があり、会員企業が試作テーマを探すための分解部品の展示をしている。写真撮影、重量計測などの作業スペースもあり、希望があれば2~3週間の部品の貸出にも対応している。ただし、それには報告会において調査結果を報告することを条件としている。私も自動車メーカー出身であり、ベンチマークの分解の経験があるが、こちらは普通の人がわかるように名札が付いて、どのような構成になっているか理解できるよう整然と展示されている。車両分解活動としてフォルクスワーゲンのID3や中国のEV、また電動パワートレインは全部で17機種を分解・展示している。EVのバッテリーは人間と同じように暑くても寒くても仕事をしない。車室内と同じように冷房と暖房が必要である。こうした熱のコントロールをするシステムを熱マネジメントシステムと呼び、テスラやフォルクスワーゲンのID.3などに搭載されているが、これも分解している。
 実物を見るだけでなく、「次世代自動車対応技術動向講演会」「試験装置メーカーによる技術動向講演会」「自動車工学基礎講座」を開催している。サスペンション、衝突安全、振動騒音、熱マネジメントなどにおいて、例えば熱力学を勉強して、熱のマネジメント部品を試作するといった手順になっている。「自動車工学関連講座」では、モーターやEVの講義を行っており、非常に人気があってWEBで300人以上受講希望者が集まっている。電動化でどうなるかというと、エンジンの場合はベルトでウォーターポンプやコンプレッサーを駆動している。このエンジンのベルトがなくなるため、ウォーターポンプにモーターが内蔵される、コンプレッサーにもモーターが内蔵されるというように、それぞれの部品にモーターが付き、それで回るという形になり、モーターのこと知らないと部品が作れないということもあって、「モーターと電気自動車の基礎」という講座も開設している。
 最終的には、部品を見て調べ、勉強することで試作のテーマを見つけて欲しい。この試作のテーマを見つけるアプローチ方法は2通りある。1つ目はEVに関わる「技術的な課題」を解決するアプローチである。最初の課題として、EVは重いバッテリーを搭載して車が重くなる。そのため完成車メーカーは部品を「軽量化」する設計を行う。部品を作っている中小企業も「軽量化」をテーマに部品を作ったらどうかというテーマ選びになる。鉄のパイプをアルミやプラスチックなど、より軽量な素材に変更する、鉄について高張力鋼板を使用し薄くするなど方法はあるが、金型など工夫しなければいけない部分も多い。次の課題として、EVはエンジン音がなくなり、モーターは静かなため、他の音が耳につくことである。そのため音が出るような部品は駄目ということになり、「振動騒音改善」もテーマになる。他にもEVはエンジンという熱源がないため、「遮熱・蓄熱の熱マネジメントに関する部品開発」を行うテーマというように、EVに関する課題解決からテーマを絞り込む方法である。
 2つ目のアプローチは実際のEVの部品などベンチマークを利用したテーマ設定である。ベンチマークの部品を見ながら、「この加工方法なら自社でも対応できる」「機械加工から鍛造など別の方式で製作可能である」「自社ならここをもっと改善できる」といった見方などからのテーマ設定もできる。
 テーマ設定の終了後は、試作費に関する費用の支援も可能である。ただし条件として、「当センターの会員企業で中小企業であること」「固有技術のレベルアップを目的としていること」「自費で試作製作・工法開発に取り組むこと」「応募企業が試作可能な技術力や製作設備を有すること」「試作品製作による成果の検証が可能なこと」という5項目がある。ここでのポイントは、固有技術をレベルアップするために必要な内作である。型・治具の製作、計測などを自社でやることがレベルアップになる。国などの補助金は領収書が必要なため、内作では出ない。当センターは工数を計算してもらい、上限金額300万円、補助率3分の2という条件で、委託という形で支援を実施している。
 最後に、こうして試作品を作った、新しい部品を作ったという先行開発企業の成果報告会をやっている。目的のひとつは同じ部品メーカーがこんなことやっている、自社も挑戦してみよう思うきっかけ作りのためである。もうひとつは作った部品を売り込む販路開拓である。当会会員と大企業、大手部品メーカー、完成車メーカーが参加するため、そうした会社にPRできる。
 以上が当センターの活動内容の概略であるが、課題もある。2022年は1年間にセミナーやイベントを合わせて48回開催した。しかし会員498社の中の146社、29.3%は1回も参加していない。5回以上参加している会員が191社という状況である。当センターの会員になりたいと入会しても、30%は講義に来ないのである。参加しない理由を分析すると、社長にやる気がないところはまず来ない、最初に意気込みが大切である。
 次が一番の問題である。社長にやる気があっても、「カネ・ヒト・時間」がない企業がある。実際に当センターが支援をしていて、そのように感じている。儲かっていないから、やりたくても「カネ」がない。社長以外に参加する「ヒト」がいない。忙しくて誰かひとり休むと社長がラインに入るような会社である。忙しくて参加している「時間」がない。自転車操業、こうした状況を改善しないと支援ができない。中小企業は勉強をしないといけないが、その勉強機関が当センターである。ただ、勉強したくてもできないのがこの「カネ・ヒト・時間」がないという問題である。「カネ・ヒト・時間」がない状況でどのように勉強させるかという点も、支援機関のひとつの課題となっている。
 最後にまとめとして生き残るために必要な話をする。ポイントは2つである。最初は「提案力の向上」を図ること。会社内も同じで提案をしてくれる部下はどんどん登用される。これはサプライチェーンの中でも全く同じで、提案する企業には仕事の依頼が増えていく。2番目は「収益力の向上」を図ることである。これはどういうことかというと、次世代自動車が増えることにより新しいビジネスが発生する。新しいビジネスは潰れそうな会社には来ない。健全な会社であるからこそ新しいビジネスが来るということを前提に、収益の向上を図らないと次のビジネスが取れなくなる。それがまさに「カネ・ヒト・時間」を作り出すことと同じだということを申しあげたい。収益力と提案力を向上させる支援事業が当センターのある意味リカレント教育である。あくまでも主役は地域の中小企業で、まずは収益力の向上が重要である。良い会社、儲かる会社にするということを簡単にいうと5Sである。整理・整頓・清掃・清潔・躾をきちんとやる。それからベンチマーク、勉強、試作をして提案力を向上させ、ビジネスを進めるということである。本日は自動車について話をしたが、どの分野もみな同じでデジタルという革新があり、それに対して何らかの方法をとらないと生き残れない。そのための手法もほとんど同じだと思う。それぞれの会社が持っている固有技術と、他社をベンチマークしながら次のビジネスのことを考えることの大切さをお伝えして結びの言葉としたい。