2024.05.28 第68回研究交流会 1.開催日時 2024年5月28日(火)14:00~16:00 2.開催場所 豊橋商工会議所 4階 406会議室 3.講 師 株式会社MTI 船舶物流技術グループ 自律船チーム長 中村 純 氏 4.参 加 者 32名 ◎テーマ 「自動運航船で実現する未来世界と自動運航船の開発現状」 開催案内(ダウンロード) 講演要旨 1.会社紹介 日本郵船グループは、東京の丸の内に本社があり、グループ全体では35,000人超の社員が在籍し、海運・陸運・空運を合わせた総合物流サービスを全世界で展開、1,818隻を運航している。船による貨物の輸送だけでなく物流、その他近年は洋上風車などの新規事業にも取り組んでいる。日本郵船の中長期計画は、港湾の方々と一緒に仕事をしている既存の事業に加えて、AX(両利きの経営)、BX(事業変革)、CX(人材・組織・グループ経営変革)、DX(デジタルトランスフォーメーション)、EX(エネルギートランスフォーメーション)で進めていくことを定めている。 株式会社MTIは日本郵船グループの研究開発子会社であり2004年に設立され、今年4月に20周年を迎えた。従業員として66名の研究員がおり、特徴として海運会社の中で研究開発専門の会社を持っている会社は、海外ではコンテナ船の最大手であるMAERSKぐらいであり、研究開発部門を設けているのは非常にユニークだと思っている。当社は日本郵船の子会社のため港湾の皆様との関わりもあり、現場に近いところでフィールドワークとして研究を進めていける強みがある。さらに「自走力」「協働力」「創造力」という形で主体的に研究開発を進め、海外の方々ともコラボレーションしながら学び、協働して新しいものを作って社会に新たな価値を提供していきたいと考えている。 2.自動運航船とは 自動運航船は陸上からの操船やAI 等による行動提案で、最終的な意思決定者である船員をサポートする船舶であり、基本的には陸上からの操船は遠隔操船と言われる。AIによる行動提案や、船が自動で動くというのは自律操船と呼ばれ、英語でもRemoteOperationとAutonomousという形で2つに呼称が分かれており、合わせて自動運航船と呼んでいる。陸上からの遠隔操船であれば通信などのインフラが重要になってくる。自動操船であれば自動的に考えたものが正しく振る舞うかどうか検証が必要になる。 なぜこの自動運航船が必要かというと、3つの要素がある。ひとつは安全性の向上である。次は船員不足への対応、最後は物流の安定である。安全性の向上について、航海系の操船事故の8割は人的要因、ヒューマンファクターと言われている。操船者の判断ミスや見落としなどが大きな衝突事故や座礁事故につながっていくため、これをいかに最小化するかである。 次に船員不足への対応であるが、世界的に見て船員が8.8%程度不足しているというデータがある。また今後、コロナ禍のような緊急事態の発生も考えられるため、船員の労働力の柔軟性を持たせておくことも重要だと思っている。日本の船員不足、特に内航における船員・労務力の不足は非常に大きく、2040年には30%の船員不足が想定されるというシミュレーションもある。内航の船員の高齢化も進んでおり50代、60代、70代くらいの方が多い。新しい船員も入ってはいるが、現在中心になっているのがこの年代であり、彼らが引退すると、船員不足がより顕著になると言われている。 最後は物流の安定ということで、トラックから海運・鉄道へのモーダルシフトの推進が内閣府の物流革新緊急パッケージの中でも書かれているが、2024年問題と言われるような形でトラックドライバーの労働時間管理が厳しくなっている。実は海運も同じで、例えば連続1日14時間以上働いてはいけないとか、1日の中で連続6時間以上休まなければならないなど船員の厳密な労働時間管理が求められており、労働時間の制約が非常に厳しくなっている。しかし海運は仕事量のピークとボトムの差が非常に激しいため、人を増やすか作業を効率化するかであるが、船員不足で人を増やすことも簡単にできない中で自動運航船というソリューションが問題解決の一助になれば良いと考え取り組んでいる。 3.自動運航船の開発現状 当社がやろうとしている自動運航船はバースtoバースでの自動運航船である。離桟操船から衝突・座標を防止してアプローチ、着岸操船していくという航海の一連の流れの全フェーズを網羅した形で自動運航船の機能開発に取り組んでいる。 今DFFASプロジェクト概要(MEGURIステージ2開発)ステージ2を進めている。日本財団のサポートを受けて課題として社会実装をどう進めるかを今やっており、前回30社ぐらいだったコンソーシアムが、今回は53社に拡がった形で実施している。4隻の(新造船+要素技術船)の実証と自動運航船技術の規格化、社会受容性の向上、新造船要素技術の実証と社会運航技術の企画化をやっている。前回のフェーズは、実証として特別に走らせて実験したが、今回のフェーズでは、既存のルールに適合できるような自動運航船をステージ2ではやるということで、顧客のコンテナを積んだ状態で自動運航が継続的にできるようにするといったことを課題に取り組んでいる。目標として、社会実装に向けて技術開発部分と環境整備で実証実験や技術の規格化を進めている。 4.まとめ 自動運航船の開発は、日本だけではなくて世界各国で進んでおり、日本は積極的に取り組んでいかないと世界から遅れてしまう分野である。現状は世界的にも日本は進んでいると評価されているため、これをさらに進めていきたいと思っている。日本財団の「MEGURI2040プロジェクト」において、技術革新、社会構造の変化、心理的変化に関して取り組んでいる。今後特に社会構造の変容、心理変化につなげるためにステークホルダーの皆様と議論を重ねていきたいと思っている。