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産学官民交流事業

2024.07.16 第477回東三河産学官交流サロン

 

 

1.日 時

2024年7月16日(火) 18時00分~20時30分

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

前 豊橋ステーションビル(株) 代表取締役社長 浅野 卓 氏

  テーマ

『デジタル化、マーケティングの取り組みが組織・地域を活性化する ~豊橋ステーションビルの挑戦~』

  講師②

愛知大学 名誉教授 樋口 義治 氏

  テーマ

『学習心理学の視点から災害時避難行動と避難訓練を考える』

4.参加者

74名(オンライン参加11名含む)

開催案内(ダウンロード)

※講演順序が逆になりましたのでご承知おきください。

講演要旨① 
 カルミアはJR東海の子会社で持株比率は60%であり、豊橋市をはじめ多くの会社に出資を仰いでいるため私はステークホルダー経営が非常に大事だと日々感じていた。カルミアという名前の由来について、豊橋市の花はツツジということを皆さん知っていると思うが、ツツジの一種であるカルミア族からとったと聞いている。理念行動指針は、JR東海の行動指針、理念、東海道新幹線沿線の社会基盤であることを参考にして「豊橋市駅周辺、豊橋市だけではなく東三河の生活基盤でありたい」「いろいろな方が祭事や行事などに積極的に関与することによって集う空間でありたい」という想いを込めて作っている。行動指針としては、「普段のお客様、出張で使われるお客様、観光で使われるお客様、そうした方々に寄り添う施設でありたい、テナント構成でありたい」と考えている。そのためナショナルチェーンばかりを入れるのではなく、地元の親しまれている名店をバランスよく入れていこうと考え経営をしていた。また運営管理として、こちらはデジタルの話にも関係するが、お客様だけではなくてテナントに選ばれないと床が埋まらないため、テナントに他の大型商業施設ではなくカルミアを選んでいただけるか、居続けていただけるかに注意を払ってきた。
 駅ビルビジネスの基本として、皆さん駅ビルがどのように収益を上げているかご存じだろうか。アパートやマンションの場合には1ヶ月の固定賃料であるが、駅ビルは固定の賃料に加えて、売上が伸びれば、その一定割合を手数料としていただくというビジネスモデルであり、売上が伸びれば駅ビルもテナントも利益が上がる共存共栄モデルである。空きスペースを生まないように努力を続けて定期的にリニューアルを実施し、授乳スペースを入れたり、バリアフリーの設備を整えたり、社会基盤的な要素を適時取り入れていくことが重要である。計画を立てリニューアルし続けることが望ましいが、リニューアルのお金を貯めながらどのタイミングでどれくらいの規模の駅ビルを作っていくかを考えるのが経営で最も難しいのではないかと思っている。営業収益を20年のレンジで考察すると、2006年から2019年まではフラットに稼いでいたが、コロナの時に落ち込んで少しずつ戻ってきているが、全盛期まで戻っていないという厳しい状況である。駅ビルは固定費の比率が高い。人を削るわけにもいかず、光熱費も高くてコストが下がらない。メンテナンスもしなければいけない。固定比率が高いために損益分岐点も高くなっており、思うようにリニューアルのキャッシュも貯まらない厳しい状況である。テナントの売上も長期的に下落傾向であり、20年間ぐらい右肩下がりで最盛期の4分の3程度になっている。郊外施設などとの競合もあり、豊橋駅周辺の活気と相関関係があるのではないかと思っていて、どのように元に戻していくかが非常に重要な経営課題である。豊橋市の人口は、2020年の段階では37万人であるが、2050年には30万人まで減少することが予測されており、こちらも将来的に明るい展望を描けない。売上を戻さないと駅ビル建替の費用が工面できないが、人口動態を見ても先は厳しい。
 皆さんの持っているスマートフォンは、個体ごと常に微弱な電波を出している。その電波を受ける機械を設置すると簡単に人の流れの情報がとれるということで、こちらが人流データの分析として今流行っているソリューションである。こうしたものが安価に手に入るようになってきており、しっかり活用しないと会社経営的にはマイナスである。カルミアの場合には、市電や渥美線沿線に居住する方が多く来店されていることがデータから判り、カルミアの経営にとって豊橋鉄道とのリレーションシップが非常に大事であると再認識した。こうした客観的なデータの裏付けを持って社員が腹落ちすることが大切になるため、これがデジタルの力だと私は思う。商業施設を経営されている方は、人流分析をしっかり見ていただくと良いと思う。カルミアの売上の減少傾向は止まらないが、これはおそらく豊川市や蒲郡市の駅周辺施設も同じ傾向ではないかと思う。理由は簡単で、バスや電車など公共交通の利用者が減少していることである。バスに乗るよりは車で買物にいく、大型商業施設との競合、ZOZOやAmazonといったECとの競合もある。こうした状況をどう乗り切るか、しっかり考えてきたつもりである。
 デジタル戦略に関連して「DX認定」という制度がある。当社は小さな会社であるため、この制度を利用してしっかり戦略を立てようと取り組んできた。外部エコシステムの劇的な変化にどう対応するかは、しっかり内部のリソースを使って考えなければならない。これまでと同じような仕事のやり方をしていたらダメで、ズルズルと負け戦になってしまう。社員のマインド、仕事の方法も変えなければならないのがDXの本質である。どういう手段を使ってDXを進めていくかは、クラウドを使っても、LUUPのようなモビリティを使っても良いと思う。ビッグデータデータ分析、SNSの活用などもしっかりやっていく必要があるが、あくまでこれは道具に過ぎない。こうしたツールを使ってどのような商売をするかをしっかり考え、戦略を練る必要がある。これがDXの本質だと私は理解している。
 DXの取組について質問した場合、「契約書を電子化した」「FAXを辞めた」といった回答が多いが、これは単なるデジタイゼーションに過ぎない。デジタライゼーションになると、少し仕組みが変わってステークホルダーを巻き込むことになる。例えば「取締役会が終わるごとに印鑑を集めて皆さんの貴重な時間を無駄に使っているため、電子化することによってお互い楽になりましょう」という形になると、デジタライゼーションの色彩を帯びてくる。しかし、もう一段上のデジタルトランスフォーメーションになるとなかなか難しいということを頭に入れていただければと思う。
 小さな組織が既存の考え方で考えてもうまくいかない場合、枠を超える必要がある。どうやって枠を超えるかであるが、私はITをしっかり活用していくこと、また自分たちだけでは限界があるため、部外の専門家と議論する道を選んだ。具体的に何をやったかと言うと、愛知県中小企業デジタル実証事業を活用した。いきなりデータ活用、DXと言っても社員は納得しない。なぜDXやデジタル化をやるのかということを腹落ちさせなければならない。私がどのように腹落ちさせたかと言うと、会社のメールを全て廃止してビジネスチャットに置き換えた。最初は非常に社員の反発を受けたが、なぜチャットにしたのかと聞かれた時に「テナントとのやりとりでいちいち事務所に来てもらうと大変で感染するリスクもあるからチャットを入れたら良い。テナントが事務所に来る確率が減り、皆さんや家族が倒れて家で仕事をする場合、接触の機会を減らすためにはチャットを使うのが良いと思う。」と繰り返し説明して腹落ちしたため、メールを廃止してビジネスチャットに移行した。テナントとのやりとりも9月からチャットに全面移行する予定であるが、チャットの力は強く現場で撮影された1枚の写真が瞬時に共有され、情報共有の新しいツールとして非常に有効であった。これは愛知県のデジタル技術導入モデル優秀賞に選ばれ、パンフレットに掲載された。RPA(業務プロセスの自動化)としてルーチン業務や定型業務の自動化を行うことで、業務の効率化、省力化を実現した。
 部外との協力では「マナビDXクエスト」地域企業協働プログラムというものがある。「豊橋市駅周辺を活性化するために人流データをしっかり分析して需要予測をしたい。」という要望を出すと、マッチングシステムになっており、このテーマに共感するグループが一緒に研究したいと手を挙げ、うまくマッチすると一緒にDX戦略を考え研究を進めるという仕組みである。実際にマッチして、私どものビジョン、DX戦略をどのように考えようかということを議論し、2時間のセッションを8回くらいやって外部の若い方の発想を取り入れることができた。「カルミアは街路樹で、やっとコロナの痛みを少し乗り越えて、まだ根が張っていない。でも10年間人流分析やテナントの満足度向上に取り組むと立派な木になるかもしれない。」といった内容を絵で表現して、頭の整理をすることができた。
 こうしたものを踏まえて、私どもの経営ビジョンに掛け合わせたDX戦略として①地域連携強化のためのエコシステムを構築。②デジタルでテナントとのやりとり、人流分析、需要予測などコア事業をトランスフォーメーションする。最後に地域の皆さんに還元すれば良いと思っているが、③周辺の方も含めて利用客のデータ分析とAIの活用。この3本柱でこれからDXを実現していきたいと思っている。地域連携のためのエコシステムの強化については、地域と連携した魅力的なテナント、イベント、催事の誘致に務めていく。また地元事業者向けのマルシェ「すてきマーケット」を継続し、AIカメラを使った人流分析ができるソリューションを出展者の方にも紹介していきたい。何人通って、何人立ち止まり、何人実際に商品を手にとって購買に結び付いたかといったデータの提供と分析は、地域の事業者の成長の後押しになると思っている。
 次に駅前地区活性化の話をする。日本全国を見ると駅前地区活性化は失敗事例が多い。例えば、「コンパクトシティ青森」は最初もてはやされたが、その後うまくいかなかった。ではどうしたら良いのか。私がポイントだと思うのは、市民のニーズを的確に捉え、魅力的な施設づくりを行うことである。そこで先ほど言ったマーケティング分析、人流分析も含めた客観的なデータをしっかり収集して、行政だけでなく民間事業者や地域住民が一体となって駅前地区活性化に取り組むことが重要になると思う。それ以外にまちなか活性化センターが実施しているワークショップなどで、地元の方がどういった施設が欲しいのか、どのくらいの規模の投資が必要なのか、これらをしっかり議論していくことが大事である。適切な規模も重要であり、大きすぎる建物を建てると非常にコストが掛かる。必要なエスカレーターやエレベーターへの投資、SDGsを考えた電気代・ガス代の節約につながる施設づくりなどシミュレーションを行い、専門家のアドバイスを受けて議論を進めていくことが大事だと思う。中心市街地を活性化させたいと思う狙いは結構単純なものであり、余暇を過ごす、ショッピング、その時豊橋駅周辺に来てもらいたいということである。そのため市街地の魅力を増やす必要があり、その検討のために市民の知恵をしっかりと借りましょうということだと思う。ICT技術を活用にこだわるのは、若者の仕事の創出につながる可能性があると考えるからである。ICT技術に関連した仕事が伸びており、若者の地域への定着のために、ICTを活用することが大切だと思っている。
 ここで具体的な取組事例案として3点ほど提案したい。1つ目は「車、公共交通の利用を便利にすること」である。豊橋鉄道との連携も大事であるが、駐車場の使い勝手の向上も大事である。今、豊橋市と一緒にやっているのは、駐車場の満空情報をリアルタイムに更新していこうというもので、補助金が付いた。試行的に1つの駐車場だけで実施しているが、将来は豊橋駅周辺の駐車場の満空情報をリアルタイムで見えるようにしたい。また、決済をデジタル化したいと思う。デジタル化することによって、駐車場の利用データが蓄積していく。そうすると、この時は割引しても良いのではないか、金額がこれぐらいだと良いのではないかというような最適化ができる。そうした道筋でこの事業に取り組んでいきたい。2つ目は「楽しく過ごしていただく、お得にお買い物していただく」ことである。カルミアでも2倍、3倍ポイントデーにはお客様が増える。これもしっかり勉強する必要があるが、地域通貨が復活した時には楽しくショッピングできる要素を盛り込むと良いと思う。3つ目は「地域の事業者を増やす、支援する」ということである。まちなか活性化センターで空き店舗に入居する時の補助金事業をやっているが、新しく商売する人や既存の駅で商売している人を後押しするためにしっかり需要予測の提供に努めていきたいと思っている。私が考えている最終形は、利用客データ分析とAIの活用である。さまざまなデータがまちなか活性化センター、各所と連携して集まってきて、それを掛け合わせる。健康データ、交通情報や各種イベント、そうしたデータを全て合体してAIに学習させると、明日はこれくらいお客様が来る、男女比率や年齢はこれぐらいなど精度が高い予測ができるようになっていくため、事業に活かしていただきたいと思う。これを地域単位でやるケースは少ないが、ソフトバンクは竹芝に本社ビルがあり、ビルの中ではすでにこうしたことが実現できている。ビルの中ではなく、地域で皆さんと一緒にというのが私の想いである。
 最後にまとめであるが、私は地域を活性化するために大切なことは3つあると思う。1つ目はさまざまな関係者・市民が参加して、ダイバーシティー、エクイティ&インクルージョンを考慮してチームで議論することが大事だと思う。2つ目にICT技術、オープンデータを活用して現状をリアルに把握し、今後の見通しを共有することもポイントになってくる。3つ目は適切なビジョンを創り、議論し改善を進めていくことである。豊橋市にはすでにビジョンがある。これを皆さんに理解していただき、一緒にブラッシュアップしていきたい。この3つをしっかり考えていくことが大事である。産学官に加えて、専門性が高い市民が加わった良いチームを作り、お互いに刺激を与えてDNAの螺旋のように発展していく。これは欧米で有名な概念の「4重螺旋構造モデル」で、これを私は実現したいと思う。単に不満を言う人ではなく、豊橋、東三河を良くしようと思う良識ある人、専門性ある人、多種多様な市民を集めていくことが大事ではないかと思っている。 
 セクショナリズムとか自分の仕事の枠を超えてここにいるメンバーで良いチームを作っていこうというのが私の提案である。その際、繰り返しになるがダイバーシティー&インクルージョン、平等公平公正を考えていただくと良いと思っている。チームを作るために大事なのが心理的安全性である。本音の話ができる安心感がないと、なかなかチームとしてはうまくいかないということである。ビジョンを共有するということで、豊橋まちなか未来会議では「豊橋まちなか未来ビジョン」というものを作っている。ぜひご覧いただきたいと思う。10年後はAIがすごく盛んになっていき、全く別の世界が見えると思う。その時に、このままの今のように失敗を恐れて石橋を叩くように渡るとか、会社の体質を変えないと生き残れるとは思わない。OODAループとかアジャイルという発想で失敗を恐れずチャレンジする、ダメなら素早く軌道修正する。お互いを信頼し尊重してコミュニケーションをとり、まちなかを良くするための議論していかなければならない。私は皆さんと一緒に良いチームを作って東三河をもっと良いエリアにしたいと思っている。

講演要旨② 
 昔から日本は自然災害の多い国である。最近においても、東日本大震災、熊本地震、そして本年1月の能登半島地震と枚挙にいとまがない。災害時、人々は時に合理的、時に非合理的な避難行動をとる。学習心理学の観点から、豊橋市民への災害に関する意識調査を含め、こうした避難行動について考察し、有効な避難訓練について考えていく。
 私は心理学が専門である。心理学には2つの分野であり、心理主義的な心理学と行動主義的な心理学がある。心理主義的な心理学というのは普通世間では心理学と考えられているもので、心を対象にする心理学である。よく聞かれるのは、災害でもトラウマや心のケアと言われる臨床心理学。これが世間では心理学と考えられている。学問としての心理学は、行動主義的な心理学が実は主流である。科学的な心理学が19世紀に始まったときに、物理学の方法論を導入し、人間・動物の計測可能なものを扱おうとして心理学は混乱し、その結果、アメリカで行動を扱えば良い、心ではなくて行動を扱おう、行動であれば計測可能であるということで実験心理学が始まり、科学的心理学になった。今日のテーマである学習心理学は、こちらの方の心理学で、学習というのは、非常に簡単に言ってしまえば、これは経験ということで、生まれつきとか本能的に持っている人間のさまざまな行動ではなく、生まれた後に経験するものすべて学習と言っている。このように心理学の中の学習という言葉は、生まれた後に獲得するものすべてを学習の対象として考えて、その獲得の方法であるとか、維持の方法であるとか、 その獲得された行動をどのようになくしていくのかという分野であると理解いただきたい。
 災害に遭ったときに、その人が助かるかどうかという視点からは、人は合理的、時には非合理な避難行動をとってしまうことがある。人は突然の災害に遭遇した場合。パニックになることが多く、その結果として以下のような不適切な行動をとることがある。1つ目は混乱することである。 災害の突然の発生により、何をすべきか分からなくなり、混乱して茫然自失の状態になることがある。2つ目は無計画に動き回ることである。 避難経路や安全な場所を知らないため無計画に動き回ることが多く、これにより危険な場所に向かってしまうことがある。3つ目が叫ぶ・泣くである。 恐怖や不安から叫んだり泣いたりすることがあり、これにより周囲の人々もパニックになることがある。4つ目が他人にしがみつくである。 周囲の人々に助けを求めてしがみついたり、無理に連れていこうとすることがあり、これにより他の人々の避難行動を妨げることがある。5つ目が誤った情報に基づいて行動するである。 パニック状態では冷静な判断ができなくなるため、誤った情報や噂に基づいて行動してしまうことがある。これにより安全な場所から遠ざかったり、二次災害に巻き込まれたりするリスクが高まる。6つ目に物資を奪い合うである。食料や水、医薬品などの物資が不足している場合、他人と奪い合う行動に出ることがあり、怪我をするリスクが高まる。7つ目が自暴自棄になるである。 助けが来ないと感じ、状況が絶望的だと判断した場合、自暴自棄になり無謀な行動をとることがある。
 こうしたパニック行動を最小限に抑えるためには、事前の防災教育や避難訓練、冷静な行動を促すための情報・知識が重要である。また、地元の指示に従い、適切な避難行動をとることが求められる。これらは、よく知った自宅や学校、勤め先においても大なり小なり生じることである。こうした災害時にパニック行動をとることは、特に異常でもなく、多くの人において生じる可能性がある。ただ起こることを前提にして、どのようにしたら少なくできるのかということが今日のテーマである。
 豊橋市民の災害に対する認識を調査してみた。これは大学から助成を受けたアンケート調査であり栄校区と福岡校区を対象に実施、回収数は栄校区約2,400戸、福岡校区1,900戸であった。心配している災害について複数回答可で質問をした。栄校区と福岡校区における災害心配度の違いについては、福岡校区では洪水・浸水を心配する人が多く(10.7%)、津波・高潮を心配する人もいて(5.3%)、 合計 810人が心配しており、その割合は16%であった。柳生川の氾濫や南海トラフ地震津波、高潮を恐れていることが背景にあると思われる。栄校区では 洪水や津波、高潮の心配は少なく、竜巻への不安が多かった(18.2%)。 両地区は隣接しているが、地域的な状況によって災害への不安が異なっている。
 自由記述で地域住民が災害に関して不安に思っていることは、①避難所と避難生活に関する不安があり、内容は生活環境のキャパシティとして設備・備蓄、女性や子供の安心として人間関係・医療体制・感染症対策、駐車場の有無、プライバシー確保、避難所の数、避難所の温度管理など挙げられていた。 ②個人と家族の状況に関する不安もあり、身体・精神面、持病、近所と没交渉の人、単身者、帰宅困難者、要支援者や高齢者に関するものが挙げられていた。続いて③行政・自治会の災害対応に関する不安があり、避難指示・救助、物資の配給、災害ゴミの回収、被災者支援、災害時のリーダーシップ、在宅避難の支援、復旧のためのボランティア体制の整備など挙げられていた。また④大学と地域の連携に関する不安として、避難場所としての大学の夏休み、夜間の受け入れ、耐震性、備蓄・設備、地域との交流不足、避難所としての情報の周知に関するものが挙げられた。次に⑤避難方法に関する不安は、災害後の火災、津波被害、二次災害、深夜・早朝の災害、避難所までの道路状況・距離、要支援者や子供を連れた避難方法などがあった。最後に⑥漠然とした不安として、災害未経験による現実感の欠如、家族との話し合い不足、備えの不十分さ、冷静な行動の自信の欠如、共助への自信の欠如があった。
 学習心理学というのは先ほど言ったように生まれた後に経験すること、それが学習と言われている。 それをどのように獲得していくのか、維持するのか、なくするのか、ということになるが災害に関係するものは非常に大きな問題が2つある。ひとつは、災害が繰り返されるのに学習されないという問題である。三陸沿岸では過去から地震により犠牲者が繰り返し多数発生している。昭和三陸地震の際に地震学者の寺田寅彦は、「津浪に懲りて、はじめは高い処だけに住居を移していても、五年たち、十年たち、十五年二十年と経つ間には、やはりいつともなく低い処を求めて人口は移って行くであろう。そうして運命の一万数千日の終りの日が忍びやかに近づくのである。」と予言していた。これは、前の地震からの年月が経つと、学習の効果が失われることを示している。このことが、災害による人的被害が繰り返される大きな理由である。
 次に過去の経験が仇となる問題である。杉ノ下高台の悲劇として、宮城県気仙沼市階上(はしかみ)地区は三方を海でかこまれ、明治時代の津波(明治三陸地震・津波、1896年)でも集落が全滅する被害を受けた。住民は、おそろしい津波をかたりつぎ、高台への避難訓練を繰り返し、行政も、避難場所の整備に力を注いでいた。しかし2011年3月11日、津波は、避難場所に指定されていた杉ノ下高台(標高13mの丘)に襲いかかり、およそ60人が犠牲になった。行政は、慎重に検討を重ねた上で避難場所を指定したつもりであったが、どんな盲点があったのか。東北地方の沿岸部にはいつの津波がここまで来た、何人亡くなったという碑が多く建っている。ここまで津波が来たということは、逆にここまでしか来なかったという発想につながってしまう。こうした学習のために返って失敗することがある。
 学習心理学の基本的な理論として、条件付け(古典的条件付けとオペラント条件付け)、社会的学習理論、認知学習の視点を説明する。これらの理論が、避難行動や避難訓練の効果を高める方法にどのように応用できるかを具体的に示す。①古典的条件付けとして、災害時のサイレンや警報音が危険を示す信号となるように訓練することの重要性を強調する。避難訓練でこれらの音を繰り返し経験することで、実際の災害時に迅速な反応が期待できる。次に②オペラント条件付けである。避難行動に対する正の強化(例:避難訓練後の褒め言葉や認証、報奨)を用いることで、適切な避難行動を強化(形成し、維持し、強める)できる。次は③社会的学習理論である。モデルとなる人物(例:教師やリーダー)が適切な避難行動を示すことが重要である。これにより、他の人々もその行動を観察し、模倣することで学ぶ。また、グループでの避難訓練を行うことで、相互の影響を通じて学習効果が高まる。続いて④認知学習である。知識や技能を獲得する過程で、思考、記憶、問題解決、理解などの認知プロセスを活用する学習の形式を指す。この学習は、単なる反復や暗記に依存するのではなく、情報を理解し、整理し、適用する能力を重視する。災害発生時に冷静に対応することも、災害時の正確な情報を持っていることにより、達成される。最後に⑤災害時の避難行動の具体的な訓練方法である。シミュレーション訓練として、学校や職場、家庭における、災害時の現実的なシナリオ(地震、洪水、火事、竜巻など)を使った避難訓練を行い、実際の災害時に近い環境を体験させる。これにより、実際の災害時に適切な避難行動が取れるようになる。
 避難行動や避難訓練の効果を高める方法をまとめると、古典的条件付けの視点から、繰り返し訓練を実施し、反射のようになるまで、例えばサイレンや緊急地震情報が提示されたら、反射的にヘルメットをかぶり机の下にもぐるような行動を学習させる。オペラント条件付けの視点からは、こうしたシミュレーション訓練における避難行動が、目標とする効果を挙げたときには、誉めることや、認証、報奨を与える。このことで、避難行動を形成させ、維持させることができる。社会的学習理論の視点からは、学校や職場、家庭において、単なる管理職ではなく、避難行動をリーダーとして率先する人を育成して、避難訓練の先頭に立ってもらい、他の人は、このリーダーの避難行動を模倣・学習する。避難行動のシミュレーション訓練は、継続的に実施されることはもちろんであるが、できれば定期的(毎年9月1日のように)ではなく、不定期に行うことで効果が上がる。認知学習の視点からは、不断に以下のことを行うと効果がある。災害の生じるメカニズムを知る。現在の学校や職場、家庭の地理的所在とハザードマップからの危険度、安全度の理解。災害時の工場やオフィスの機器類の管理。災害時避難行動の重要性を理解させることで、避難が成功した場合の災害からの安全の確保がなされる。
 人は認知し、思考し、理解し、記憶することのできる生物であるので、地震、洪水、火事、竜巻発生のメカニズムや、災害に関する歴史、効果的な対応法を認知学習することで、災害時に冷静に対応できるようになる。