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産学官民交流事業

2024.08.02 第244回東三河午さん交流会

 

1.日 時

2024年8月2日(金)11:30~13:00

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5階 ザ・グレイス

3.講 師

株式会社ゆたかわ 代表取締役 石川 卓哉 氏

  テーマ

『流域農業で上流と下流、生産者と生産者、生産者と消費者を結ぶ』

4.参加人数

35名

講演要旨
 当社の会社名は「株式会社ゆたかわ」であるが、販売は「ゆたかわファーム」という名前で行っている。私の出身は田原市であるが、田原市・東栄町・豊川市の3拠点で、それぞれの気候や土壌に合わせた農業生産と販売をしている。ゆたかわファームのある田原市は、全国でトップクラスの農業生産地であり、当社は冬野菜・お米・メロンなどを栽培している。東栄町でも農業を始めたが、田原市とは対照的に専業として露地の畑や稲作で生活している人はほぼいないと思う。獣害や日照不足は比べてしまうとあるが、周りの環境的には有機栽培を考えた場合は適地と言って良い。また、最近始めて2年ぐらいになるが、豊川市の篠束町と宿町辺りの農地を借り受けた。ここでは生産もしているが、東栄町と田原市で作ったものを持ち寄って、配達や発送をする拠点としている。田原市のみで農業をしていても経営的に成り立つようになってきていたが、なぜこのように株式会社ゆたかわを立ち上げたのかを説明する。
 私は農家の生まれではあるが、これまでいろいろな経験をしてきた。これら経験を活かして事業ができないかと考えて、今の形になってきたのである。私は大学を卒業してから、田原市で近くの農家と一緒にNPOを立ち上げた。夏休みは子どもが数百人規模でキャンプに来たり、宿泊型の野外センターや民宿に泊まったりしながら田んぼや海で遊んだり、畑で野菜を収穫して料理をするといった農業体験の事業を行っていた。地元の子ども向けの田んぼの学校や、保育園向け、小学校向け、いろいろな事業をやったが、私は農業の技術や現場を知らなかったために、農業が持っている食べ物を作って売るだけの価値ではない教育的効果や遊び・癒しの価値の可能性を感じていた。
 その後、結婚を機に自分で農園をやり始めた。親は一般的な農業である慣行栽培という形で渥美のメロン・トマト・キャベツを作っている農家であったが、その経営は引き継がず、近くの土地で新規就農をした。やりたいことが実家の農業と多少違っており、ハウスや畑がその頃まだ空いていなかったこともあって、田原市は稲作がお金にしづらい地域柄ではあるが、水田の稲作中心に農業経営を開始した。できたお米は名古屋の朝市で販売したり、個人の消費者のお宅に配達したり発送したりというように、有機栽培で栽培したお米を直接販売するというスタイルで始めた。
 農場は2009年に6,000〜7,000㎡ぐらいからスタートした。最初の年にお客さまとして年間買ってくれる方は15人ぐらいであった。実はその15人のうち、9人は今も常に買い続けてくれている。子どもが生まれたことがきっかけで安全なものを食べさせたいという意識が生まれたお客さまの当社のお米しか食べていないよというご子息が高校に入学したりしている。私たちはお米を届けているだけであるが、何となく親戚の子どもとかに近いような親近感の湧く関係性で、作ったら買ってくれる、常に届けるという信頼関係の中で、品質が良い年もあれば、悪い年ももちろんあるが安定して買ってくださっている。これは私が子どもの頃見ていた親の農業とは少し異なっており、こうした売り方は面白くやりがいがあると感じている。
 その後父親が病気になり、実家の農業の引き継ぎを始めて、慣行栽培でJAや市場に出荷しながら少しづつ特栽・有機栽培へ切り替え、売り先も開拓していった。やり始めた頃は、農薬を使わない、化学肥料も使わないと白黒をはっきりさせていた部分はあったが、やってみると、結構面白いものもあり、例えば注文に応じて出荷するとなると、どうしても旬を若干過ぎてしまったものやまだ完熟しきっていないものも出さなければならないといったこともあるが、市場出荷は一番良い時期に、一番良い状態のものを全量出荷できて栽培に集中できるという技術者的な面白さがあった。相手先が求める安定供給・経営効率といった側面において、普通の農家がやっているこうした農業の価値はすごくあると感じた。
 農業体験のNPOを経験し、新規就農者として有機農業を行い、慣行栽培の一般的な農業もやってみて、それぞれの良いところも悪いところも体験した中で、ゆたかわの事業をやろうと思ったのは、お米は消費者直売で販売していたが、野菜を消費者に直売しようと思うと年間通じていろいろな野菜がないといけないとか量の調整などのハードルがあり、田原市だけではうまくいかないと思ったからである。奥三河である東栄町の農地と縁があってそちらでも農業をやり始めた。株式会社ゆたかわと言う名前に込めた想いは、豊川流域という意味と豊かな輪(ネットワーク)を事業を通じて作っていこう考えである。東栄町は実は豊川流域というよりは天竜川水系である。最初は設楽町で、その後東栄町に相談にいったが、東栄町役場の方の熱心に誘ってくれたわけではなく、やりたければどうぞ、やるなら応援するよ、というスタンスがとても心地良かった。東栄町にはほとんど専業農家の方もいないため、やりたいなら大変だろうけどやって良いよ、といった雰囲気と、順調に農地が集まったこともあり最初はすぐやるつもりではなかったが、説明会にいってから1ヶ月後には農地を借りたぐらいのスピード感で、これも運命かなと思いスタートした。豊川流域というところで異論があるかもしれないが、豊川用水にはしっかり東栄町の水も入っている。広い意味で「豊川流域の上流・下流をつなぐ」「生産者と生産者をつなぐ」「生産者と消費者をつなぐ」こうしたビジョンのもと経営を行っている。
 経営について話をするが、現実はまだ進んではないことも多いため、実際にやっていることというより今後やっていきたい内容と捉えて聞いていただければと思う。まず流域内で人・もの・お金を循環して、生産はもちろんするが、流通をしっかりやっていきたいと考えている。具体的には、東栄町と田原市という東三河の両端から農作物を中間の豊川市の農場に持ってきて、それぞれの野菜を組み合わせて野菜の詰め合わせセットなどを作って帰りの便で配達する。行きはキャベツを持っていき、帰りはキノコや山菜をお客さまに届けるといったように、行きは出荷、帰りは配達という形で物流の効率性を図っていきたいと思っている。自社で生産している農産物だけではなく、卵・肉・山菜・海苔・魚介類なども一緒に流通させることで、東三河の人が東三河中のものを生産者から直接受け取って食べることができるような流れを考えている。連携することにより他の生産者の農産物や、物づくりの人の商品、サービスを含めて、東三河の豊川流域の中のものを生産者が協力して販売する形にしていきたい。具体的には豚肉はまだしっかりとは売っていないが、新城のお茶屋さんや卵は旧赤羽根町の卵屋さんなどと連携して、自社の野菜やお米と一緒に販売していくような小型の生協のイメージである。但し流域内でもちろん売るが、実際問題として東三河地域は農産物を売る場所としてはレッドオーシャンというか、皆さんが食べ物は比較的身近に手に入れることができる地域であり、高値で大量に販売するのは難しい。そのため実際は金曜日にものを集めて土曜日に名古屋へ毎週販売にいっており、また東京に送るなど地域外への販売もしている。
 事業においては、会社自体がまだ小規模なので個別の農場で全ての機械を持つのは大変であるが、田原市で使っていた機械を豊川市で使い、さらに東栄町に運んで使ったり、社員やアルバイトなどの働いている人も忙しい時期は東栄町に行ったり、田原に来たりといった形で人と物とお金を融通し合いながら協力して事業を推進している。
 就農サポートと書いたが、新規就農したい人の研修や終わる農と書いて農業を終農する方も増えてくるため、新規就農したい人と終農したい人をうまく結びつけて、当社がその販売や生産をサポートする形ができると良いと思っている。生産者と消費者をつなぐということについて、もともと私は農業体験や交流イベントを行ってきたこともあり、ただ食べ物を作って売るだけではなく農業体験、交流をする中でお互いの信頼関係を深めていき、ものの価値だけではないところでお客さまと結びつくと良いと思っている。現実的にこの人の生活を支えたいから買うとか、作る側としてはこの人のために作るといった信頼関係は、経営の安定につながる。またお互いに気持ちの良いものでもあるため、そうした方向性つながるような農業体験などもやっていこうと考えているが、現実には生産で手一杯なこともあってできていない。
 お米の販売で言ったように長くやっていると、買っていただいているお客さまの中から、次に農業をやりたいとか、農業をやりたいとまではいかなくても、域外よりも東三河に住み続けたいとか、遠くのお客さまがこちらに移住したいとか、第2の拠点として別荘のような形を作りたいなど、食を通じたいろいろな結びつきが生まれてくる。実際に昔農業体験に来ていた子が地域で就農したと事例もあるのでこうしたことが増えると良いと思っている。
 現状の課題として、当社は5期目が8月末で終わるが経営状況としてはようやく収支が安定してきた。しかし、人の定着がしっかりできていない状況であり、東栄町や豊川市の農場を安心して任せられるような人材が育っておらず、まだ入れ替わりがある。販売先の会員数はお米からスタートして、目標は会社を作った時に1,000人と思い、5年時点では500人くらいを想定していたが、実績はその半分ぐらいという状況で、まだまだ足りていない。先程も話をしたが、お米と野菜を自社で育てていて、提携先から卵やお茶を仕入れて販売している。これを今後伸ばしていき、東栄町であれば山菜や鮎などの川魚、奥三河の木材を利用した木工品や家具、田原市であれば魚介類や他の農家が育てている農産物など、東三河で商品を循環させて会員さんのお宅に届けるようなことを進めていきたいと思っている。
 体験や交流のイベントも、個人事業としてやっていたときより減ってしまっている状況であり、生産を増やすことに経営資源を集中投下していて、お金を生みづらい事業が後回しになっており、私の中でも歯がゆさがあるため改善しないといけないと思っている。農地は比較的集まっているが、まだ集出荷に使う建物は仮設の状態であり、農機具も中古のものを何とか使っているような状況である。お客さまが先に増えるのか、人が先に増えるのか、お金が先に来るのか、土台として柱ができれば全部がうまく回り出すと思うが、今はあるもので何とかやっている状況であり、技術や販売など一緒に協力できる方が見つかると嬉しいと思っている。