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産学官民交流事業

2024.10.04 第246回東三河午さん交流会

 

1.日 時

2024年10月4日(金)11:30~13:00

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5階 ザ・グレイス

3.講 師

Le.sits 株式会社(レシッズ)代表取締役 陶山 剛臣 氏

  テーマ

『ゴミになる前にやれること ~みんなの知らない本革について~』

4.参加人数

27名

講演要旨
 当社は豊川高校のサッカーグランド、野球グランドのフェンスの隣に工房を構えており、ここで職人4名と日々仕事をしている。会社自体が何をやっているかであるが、まず一番は革製品の修理・修復・染め直し・色変えや、ソファーや椅子の貼り換えをやっている。ランドセルのリメイクについては、新聞に取り上げられて紹介され、豊川市の広報に広告を掲載したものの依頼は2件しかなく、話題性はあったが実際の需要は少なかった。その他に革製品の製造販売として革の小物類を作って販売も行っている。売上の構成としては、皮革製品の修理とソファーや椅子の貼り換えが95%を占めている。そのために、この2つの分野でどれだけ技術力を磨いていけるかが重要と考えている。
 最初に私がどうしてこの仕事を始めたかという話をする。私は前職において、産業廃棄物処理の会社に勤務しており、一般の方や企業から処分を依頼されたソファーを重機でバラバラに壊して潰し処分していた。その中には修理したら使えそうな革のソファーも多くあり、どうして座れそうなものを捨てるのだろうと日々考えながら潰していた。もったいない、どうにかこうしたソファーが使えないかと思い、ネットで検索すると革研究所というフランチャイズを見つけた。問い合わせをしてみるとソファーを多く修理しており、先程潰したソファーももしかたら直ったかもしれないと興味が湧いてきてフランチャイズの状況を聞いたところ、店舗はまだ全国に5店舗しかなく、愛知県内には存在していなかった。当時私は39歳であったので、チャレンジしようと思い妻や友人に相談し反対されたが、近所の先輩が本当に応援してくれたこともあり、2013年1月に加盟することを決断した。
 この決断に踏み切った理由としては、あまり知られていない業界でやっている人が少なくライバルも少ないと考えた点と、フランチャイズで技術やノウハウをある程度教えてもらえるために私でもできると思ったことであり、研修が始まって自宅で開業という流れになった。革製品を直す研修は5日間あり、そのうち2日間が営業、3日間が実作業といった内容であった。開業後は、いくら良い技術があっても直す商品が集まらなければ全く意味がなく、営業活動に徹した。しかし、私は過去に営業をやった経験がなかったため、非常に苦労したことを今でも思い出す。ネットでの集客も10年前ぐらいから盛んになってきており、日々夜はブログの更新などホームページの構築作業をし、昼間は客先の訪問を中心とした営業活動を行なう形でやっていた。営業先に関しては、簡単に言うと革製品を扱っているお店をターゲットとしてクリーニング店・家具販売店・ブティックなど地元店舗を中心に訪問した。その中で気が付いたこととして、営業先とした地元店舗の人も革のことをあまり知らないという事実があった。開業当時は現在ほど商品の原材料表記も厳格ではなく、本革と説明され信じて購入したものが実は合皮といった事例もあったほどである。
 では、ここから革の話をする。まず皆さんは「革」と「皮」の違いが判るだろうか。革は人類の歴史上、最も古くて偉大な発明とさえ言われている。狩猟によって得た獲物を食用にし、その皮を加工することで衣服や靴を作るといったことは、人間にとって間違いなく最初期からの活動であり、その歴史は人類の歴史とほぼ同じ長さを持っている。動物から得た皮は、そのままではすぐに固くなってしまうため、より柔軟性をもたせ、且つ丈夫にするために、様々な工夫が施された。例えば、皮を動物から採取した油脂でこすったり、叩いたり、揉んだり、噛んだりといったようにである。ここで先程話した「革」と「皮」の違いを説明する。「皮」は簡単に言うと生の皮と思っていただきたい。その生の皮を加工することで革製品になり、「革」という字の革になる。日本においての皮革産業は大正時代に生産量年間6万枚程度であったが、現在は年間40万枚程生産されている。ただしコロナの影響等もあり、最近では原材料が高騰して東京で革を作っている会社が4社廃業している。
 皮から革へ加工するために、主に2つの鞣し方がある。それが「タンニン鞣し」と「クロム鞣し」であり、簡単に言うと自然植物性のもので鞣し革にするか、それとも化学薬品などを使って鞣し革にするかという違いである。「タンニン鞣し」は仕上がりが茶褐色で日焼けしやすいが、丈夫で摩耗に強く伸びが小さいのが特長で成形性は良好である。ただしクロム革と比べて重く耐熱性が劣り、主に靴底・中底・馬具・鞄・ベルト・革工芸用などに使用されている。「クロム鞣し」は世界の革の約80%はクロム鞣しで作られており、染色前は青色をしているためウェットブルーとも呼ばれている。柔軟性・弾力性・引張強さ・耐熱性・染色性に優れているが、可塑性(成形性)がやや劣り、あらゆる革製品に使用されている。 
 革を作っている現場は体力勝負というところがあり、匂いも強烈である。今現在日本国内に200社程度あると思うが、以前はもっと多く存在していた。本当に重労働であり、ここで「タンニン鞣し」の主な工程を紹介する。生の皮からスタートすると、皮はどうしても腐ってしまうものであるために腐らないように塩漬けで保管をし、加工前に大きい洗濯機のような機械で洗浄する。牛の皮を水で濡らして、鞣していこうとすると一人で持ち上がらないぐらいの大きさと重量があり、通常は背中でカットして2つに分割する。薄い濃度の石灰から徐々に高濃度の石灰に漬けて少しずつ脱毛し、不必要な脂分を抜いていく工程を繰り返していく。というのは、皮の中に入っている脂分をある程度落とさないと新たに鞣すための液体が入らないため、洗って汚れを落としていくのである。さらに、横型の洗濯機のようなイメージの機械において、中に棒が何本かあって皮が持ち上げられ、回ると上から重力で落ちてくるがこれを繰り返すことによって、皮の中に鞣す液体が入って、皮の繊維をほぐしながら液体を入れて革にしていくという工程になっている。人間の皮膚もそうであるが、寒くなると乾燥する。できたての革は意外と硬く、仕上げに革に必要な脂分を加えて柔らかくし、再度水洗いし余分な水分を除去することにより製品として革になっていく。ただし革はもちろん天然の放牧されている牛の皮などが原材料になっているため、人間もそうであるが虫刺されや怪我などの痕跡が当然多くの革の表面に存在している。
 革の加工方法の種類は、人類が最初に作りだした合成染料の原材料、革の中に染み込む染料を使用した「アニリン仕上げ」、染料と顔料を併用して仕上げ、顔料を必要最小限とし、最近では顔料の上に染料で仕上げ、さも染料のみで仕上げたかのような外観のものもある「セミアニリン仕上げ」、顔料のみを使用し、下地の色を完全に隠蔽する仕上げの「顔料仕上げ」がある。「アニリン仕上げ」は先程話した虫刺され跡など丸見えになるため、100頭に1頭ぐらいからしか染めただけの革はできない。そのためどうしても高価になる。靴などに色落ちしますというシールが貼ってあるケースを見たことがあると思うが、染めたものは革の中に入っている色素がどうしても靴下などに移動してきてしまうため、色落ちしますと表示されている。このように最初から黒、ピンク、茶色などの革はなく、塗ってあるか染めてあるかの二択である。またベージュに関しても私たちが色を塗って修理するとどうして塗るのかと言われることが多く、元々塗られていることを知らない方が意外と多い。革の加工方法にもこうした差があることを知っておいていただきたいと思う。
 また革は一生ものと聞いたことがあると思うが、最初の工程にもよるものの、誰かが手を加えてあげないと一生は使えない。革は放置して干からびるとひび割れてしまう。人間の皮膚はクリームを塗れば治るが、革は基本的には治らない。常に革に潤いを与えながら使うようにお手入れをすると、ずっと長く使えるようになるため、自分の皮膚と同じように考えていただけたら良いと思う。
 ここまでの話を含めて、本業の革製品の修理修復の話をする。修理として一番多いのがブランドバッグの角スレの補修で、エルメスのバーキンなど多くの依頼がある。こうしたブランド品は、現在値上がり傾向であり、原材料の高騰、円安、輸送のコスト上昇、職人の不足、ブランドイメージ維持のための生産の絞り込み、中国人の爆買いなど様々な要因が重なり、20年前ぐらいに15万円か20万円ぐらいで買えたバッグが今では150万円を超えているものもある。よって買い替えではなく、ブランド品を直して使おうという方が増えている。そのためバッグ自体の色をリニューアルして変える、ブランドの文字を奇麗に残しながら変えるといったオーダーもある。シミを直して欲しいという話もよくあり、ヴィトンなどは革でない部分も多いが、そうした部分の修復も傷んだパーツの交換という形で対応している。またエナメルの靴の修復依頼も多い。エナメル加工は、革の中で一番光沢のある加工になる。エナメル革は、革の表面にウレタン樹脂の膜がコーティングされているが、どうしても退色してしまうため色が変わってしまったものの修理依頼が多くなっている。
 家具ではソファーも革の表皮の修復や顔料による着色の案件が多いが、破れなど傷んだ部分だけ一部貼り換えることもできる。革ではないが美容院の合成皮革の椅子も扱った。こちらは革のような修復はできないため貼り換えで対応した。車のステアリングなど内装の多くに革製品が使用されており、自動車販売店や個人の方からの依頼でステアリングやシートの擦れなどの補修も行っている。
 こうしたリペア事例は、基本的に革製品の汚れや傷みが気になって依頼いただいたものが多い。当社を知らなければ、そのまま使われるか捨てられるかの2択になると思うが、修理という選択肢をこれからも周知していきたいと思っている。また、革の貼り換えなどの修理作業においてはどうしても端材が発生する。こうしたものの有効活用を考えており、ゴルフバッグのネームプレート、革のコースターなどの小物を作っている。ギフトやノベルティとして会社名など入れることも可能であるため、ぜひ気軽に相談して欲しい。
 皆さんには革製品が直して使用できることを、ぜひご家族など近くの方々に伝えていただきたい。修理して使うことが拡がるとゴミを減らそうと頑張っている人たちにも喜んでもらえると思うし、本当のSDGsになると考えている。