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産学官民交流事業

2024.10.22 第480回東三河産学官交流サロン

1.日 時

2024年10月22日(火)18時00分~20時30分

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

豊橋技術科学大学 電気・電子情報工学系 准教授 竹内 啓悟 氏

  テーマ

『6Gにおける新技術 ~通信とセンシングの統合~』

  講師②

愛知県立御津あおば高等学校 校長 森田 恭弘 氏

  テーマ

『地域のニーズに応える人材育成 ~学校教育の現場から~』

  参加者

  62名(オンライン参加7名含む)

講演要旨①
 最初に大規模MIMO (Multiple-Input Multiple-Output)という5Gで実用化された技術について簡単に紹介する。MIMOはマルチプルインプット、マルチプルアウトプットといって、4G時代の2010年頃に確立された送受信機が複数のアンテナを利用して情報伝送を行うことによって伝送速度を高めるという技術である。大規模MIMOは、基地局に数百本規模のアンテナエレメントを配置して通信を行うものであり、ビームフォーミングという技術で電波を届けたい場所にビームを向けてその人だけに送るというような技術になっている。この大規模MIMOのポイントは、ミリ波を使用するところになる。少し技術的な話になるが、通信を行うため使用する周波数28GHzは、電波の波長がミリの規模になることからミリ波と呼ばれている。この技術のポイントは、アンテナエレメントの間隔をどれぐらい空けなければならないかというところで、理論的には波長の半分空いていれば距離として十分離したことになる。ミリ波を使うことによって、アンテナをミリオーダーで集積することが可能となり、アンテナエレメントを数百規模で配置できることである。この技術は、スタジアム等の端末密集エリアでの使用を想定しており、通信を行う端末が密集している場所など通信需要が特に高い場所で安定して情報伝送を行うために開発された技術になる。そのため豊橋駅前程度の通信需要であれば大規模MIMOのような高性能な基地局が必要ないという判断で現在豊橋駅にはない。コスト面でもミリ波の送受信機を使うため、通常の5GHzや2GHz帯の送受信機に比べて高価になり、通信事業者としても現状は基地局を立てるメリットがないということである。
 通信業界では大体10年ごとに通信速度を上げていくことを目指している。6Gは第6世代の移動通信システムであり、今から6年先の2030年頃にサービスを開始できるように通信業界で開発していて、2040年に7Gを目指していくことが予想される。大規模MIMOという技術を5Gで作ったため、6Gでは大規模MIMOの需要を創出する必要があり、その用途のひとつとして「Integrated Sensing and Communication (ISAC)」という技術が注目されている。センシングはいわゆるレーダーだと思っていただければ問題なく、航空機や船舶の位置を探知するために使用されている。このセンシング技術とミリ波を使った通信の2つを統合するのがISACと呼ばれる技術になる。
 センシングの性能を上げようとした場合、2つの物体を分離して探知できる距離を示す距離分解能は、周波数のどれぐらいの広い帯域を取って電波を送るかという帯域幅を大きく取れば取るほどセンシング性能は上がり、2つの物体を分離して探知できる速度差を示す速度分解能は、電波の波長を短くすればするほどセンシング性能は上がり、2つの物体を分離して探知できる角度差を示す角度分解能は、アンテナの数を多くすればするほど性能が上がる。しかし、周波数帯を広く取るためには、低い周波数帯は多くの用途で既に使用されており、空いていないため必然的に高い周波数帯を使う必要が出て、ミリ波やもっと高周波の部分を使用することになる。こうした高い周波数を使うと、電波の波長は周波数に反比例するために、周波数を上げれば上げるほど波長は短くなる。最初に話したようにアンテナがどれぐらい配置できるかというのも、波長を短くすればするほど多く配置が可能であり、ミリ波に向いている用途がセンシングと言える。
 通信においては、伝送速度や同時接続数の仕様に関して帯域幅を広く取れば取るほど性能は上がる。また、アンテナを増やすほど性能は上がっていく。センシングとトレードオフの関係にあるのが、通信の品質に関して波長はなるべく長くしたいという要求項目である。なぜかというと、波長が短い電波というのは、光に近づいているということであり、光の特徴は直進性があるということである。通信として繋がるためには、細いところに回り込んで入ってもらう必要があり、直進するのではなく、波としての拡がる性質が重要になる。そのため、人類の歴史において低い周波数の繋がりやすい電波から使ってきたが、空きが少なくなって人類はミリ波の波長まで上げてきたのである。こうした意味で通信技術が高くなり、やっとミリ波が通信として使えるようになったのが5Gである。
 センシングと相性が良かったミリ波を使ってセンシングと通信を同時に行なうのがISACと呼ばれる技術になる。いろいろなISACの統合のレベルがあり、例えば基地局で統合するのは、同じ場所で行うだけのため現状でも可能であり、基地局にセンシング用の機器と通信用の機器を置けば実現する。基本的には周波数帯を統合することをISACという技術は指している。この周波数帯を統合することは、センシングを行う周波数帯と通信を行う周波数帯を同じ帯域で使うことが前提になる。デバイスとしては、センシングを行う送受信と、通信を行う送受信を同じ機器で行うことであり、機器の小型化やコスト削減も期待される。最後に変調という専門的な話については、信号の送り方はセンシングで使う信号と通信で使う信号は通常大きく異なるが、この変調を統合する部分は今学術界で活発な研究が行われている部分であり、現在進行形で研究が進んでいる。
 ここから少し難しく感じられるかもしれないが、センシングと通信の仕組みを簡単に紹介する。センシングは送信アンテナと受信アンテナがあり、電波を出して物体に当たると電波が跳ね返ってくるため、それを受信することによって物体の位置を推定する技術である。送る信号は、最初の送り始めはゆっくり振動し、だんだん速くなっていく特殊な信号であり、技術的には直線的に周波数が増加するような信号でチャープ信号と呼ばれる。チャープ信号を時間間隔ごとに送信アンテナから繰り返し送信し、受信アンテナで観測した受信信号の時間遅延を測定することによって、アンテナと物体間の距離を推定する。
 次に通信の仕組みとして、BPSK(2位相偏移変調)という特殊な名前がついている信号の送り方がある。送り方としては、信号はプラス1かマイナス1のどちらかしか送らないという信号でありBPSKという。この信号の送り方は2段階になっており、最初に通信路推定を行ない、その後に信号の伝送という順序になる。通信路推定として最初のステップではパイロット信号を送る。この信号から通信路利得の推定を行って、次にBPSK信号を送るがこちらも同様に推定が可能であり、同期検波と呼ばれる形になり受信が成功する。
 センシングと通信も通信の推定と情報伝送の2つに分けたが、結論としてはセンシングでやることと、通信の推定でやることは似ているという関係がある。相違点としては、レーダーの場合は送受信者は同じであるが、通信の推定では違う。また変調の仕方、信号の送り方、一番大きいものとしては推定しようとしている内容が異なっている。センシングの場合は、物体の位置、速度、到来方向である。それに対して、通信の推定ではこの通信の利得を推定しているというところが異なっている。ISACを実現する上での課題が、センシングと通信を行っている端末間での信号干渉の発生であり、これをどう防ぐかがこの技術を実現する上でのポイントになる。これまでなぜセンシング用の周波数と通信用の周波数を分けていたかというと、互いに信号干渉をしないようにするためであり、周波数帯が違うと基本電波が干渉することはない。ISACの目標としては周波数で分けることをしない、周波数資源は限られており、有効活用するために同じ周波数帯を使うということである。
 それを実現するための現状の技術が、空間分割という技術である。アンテナが複数あることによって、ビームフォーミングと本質的に同じ技術であるが、信号空間をセンシング用の信号を送る空間と通信用の信号を送る空間に仮想的に分離することが技術的に可能であり、そのような空間分割を行えばISACは現状の技術の組み合わせで実現可能である。学術界では、それ以外に変調方式を工夫して実現しようと活発に研究が行われているが、まだ結論は出ていないという状況である。
 もうひとつ、センシング環境に関する相違点について指摘しておく。従来のセンシングと、今後民間で活用されるセンシングは同じようで少し違うところがあると考えている。基本これまでのセンシングは、探知される物体はセンシングに協力しない。つまり自分から電波を出して見つかりにいくことはない。動物などイメージしてもらえば良いが、自由に動き回るものを一方的に補足するというものが、いわゆる従来のセンシング技術である。それに対してこれからのセンシングは、場合によっては自分が見つかりたい場合がある、つまりセンシングしてもらいたい場合があるという状況が異なる部分である。探知対象にメリットがあれば見つかりやすいように指示通りに動くということも出てくると思う。
 少し抽象的な話をしていると分かりにくいために、2つ事例を考えてみた。1つ目の事例が、公園で友人と遊んでいるときにピザが食べたくなったので、今自分がいる場所にピザ届けてもらいたいという状況の中にISACがどのように活かされるかという例である。将来ドローンなどでピザは届けられると思うが、ドローンで届けようと思った場合の障害がGPSの誤差である。本当はここに欲しいのに、全然違うところに届けてしまうということがおそらく発生すると思う。センシングをするとどう解決できるかと言うと、まずドローンはGPSを頼りにこの公園周辺まで飛んで来るが最後の正確な場所が判らない。そこでドローン自体が周辺環境をセンシングして届け先を探す。届けてもらう人は、自分に届けてもらいたいためドローンに発見してもらいたい。ドローンから見たら公園に人がいっぱいいて誰が届け先か判別できない。その時に例えば携帯のアプリ側でドローンは自分に近づいているといった通信をやり取りすることによって自分を見つけてもらう。見つかれば技術的にセンシングの方向に進むだけとなり、目の前まで届けられることが可能になる。
 もうひとつの事例は、無人の自動運転の車が走っている未来を想像したものである。横断歩道を渡ろうと待っていて無人の自動運転の車が来た場合、人からすると車が止まるかどうかが判らなくて安心して渡れない。本当に止まるかどうか信用できないので、怖くて渡れないという状況もあり得る。これも事例として、人が自動運転している車に対して自分が見つかりたいと思う状況である。人が持っているスマートフォンが自分の位置を正確に把握していると仮定する。周りをセンシングしたり、あるいは横断歩道から何か信号が出ているかもしれないが、こうした何かを探知して人が横断歩道を渡り始めると、持っているスマートフォンが今横断歩道の上にいるということを認識する。そこで車道方向に向かってセンシング用の電波をこのスマートフォンが出す。自動運転車には人が横断歩道を渡っているという電波を受信したら加速をやめて状況を見て、電波を受信したという合図を自動運転車が出したら、人は安心して渡り始めることができると思う。
 センシングと通信の統合という技術があり、正式に日本語名が定まっていないために、暫定的な直訳という形になるがISACという技術について紹介した。今後の展望としては、残念ながら完全な形でのISACが6Gで運用されることはおそらくないと思う。6Gサービス開始時に、完全な形のいわゆるこの変調方式を統合した完全なISAC出ていないと思うが、通信業界は未来に向けた高い目標や理想を掲げて研究しているフェーズになっている。2030年が近づいてくる2020年代後半になると、現状である技術で仕上げようというフェーズになる。よってISACは5G時代に確立された技術の範囲で使われるようになると思われ、そうした意味で完全な形のISACというのができるわけではないが、ユーザーからするとそのレベルで十分というのが、6Gでのセンシングと通信の需要だと思う。こうした意味で、大規模MIMOを普及させるためにはこのISACというキラーアプリが必要であるというのが私の本日の話の結論である。

講演要旨② 
 日本の多くの高校は生徒それぞれ違うのに、同じような学び方や同じような活動をさせている。理由のひとつは教員の定数が少なく、1クラス40名で多様な生徒がいるのにも関わらずひとつにまとめないといけないからである。こうした中、御津あおば高校は「みんな違ってみんないい」というキャッチフレーズのもと、それぞれの生徒にとって最適な学び方、自分のやりたいこと、得意なことを伸ばしていこう。自分の良いところを活かして、世界に一人だけの自分になれば良い。周りの人と合わせる必要はないという教育方針である。現在は全日制と昼間定時制の2つの課程があり、通信制を2025年4月にオープンさせる。例えば1年生から2年生への進学時に「昼間定時制から全日制へ」「通信制から全日制」、その逆といった動き方ができ、全国ではこうした学校はない。愛知県の「フレキシブルハイスクール」のモデル校としてこうした取組をしている。
 本校の全日制の定員は120名である。通常120名では40名の3クラスというイメージであるが、本校は30名の4クラスとしている。これは一人ひとりのニーズに合わせて、生徒自身が学びたいように学べることを考えてである。普通科の中には国際類型があり、こちらは外国人のための類型というものではなく、英語を中心に学ぶ類型である。他に普通類型の中には、他校同様に理型・文型があるが、本校は単位制という仕組みにしており、選択科目を多く用意している。よって単純な理型・文型ではなく、多くの選択科目があるために30名学級としているが、中には2名・3名で授業を受けるという生徒もおり、この少人数がポイントである。必履修科目といって、日本の高校生全てが必ず学ぶ科目以外の選択科目を充実させている。数学を例にすると、本校は通常の選択科目に加えて中学校での学び直しをできる基礎数学、教科書のレベルを超えた応用数学、それから就職したいという生徒に向けた実用数学といった科目を設けている。国際類型では、2年生から中国語、フランス語といった第二外国語を選択できるようになっており、それ以外にも生活ポルトガル語、スペイン語、タガログ語といった言語を学ぶこともできる。本校の全日制は3割が外国にルーツを持つ生徒であり、例えば日本に早く来て子どもは日本語が話せるが、親は日本語が全くわからないためポルトガル語を使っていると親子で意思疎通ができないという子どもたちもいる。こうした子どもたちが、例えば生活ポルトガル語で日常言語を学んで、少なくとも家庭の中で普通に話ができるようになる。逆に日本人の生徒でも周りにそういう子どもたちがいて、そうした言語を話したいといった生徒たちも学べる仕組みになっている。
 留学について本校は出入ともに多くあり、今ドイツとオーストリアから留学生が来ている。7月まではアメリカからの留学生が2人長期間来ており、1月から2月にかけては韓国とフィリピンとタイから短期留学生が来ていた。逆に本校の生徒は、現在メキシコとハンガリーに1人ずつ行っており、1年間カナダに留学していた生徒が2人7月に帰ってきた。また、夏休みに中国、春休みに中国と韓国へ派遣された生徒がいる。このように本校は3分の1が外国籍でありながら、留学生がいて、留学に行く生徒もいる。普通の学校で留学生が来るとどうしようかと大騒ぎになるが、本校では別に普通である。生徒たちも慣れたもので、普通に英語で話しかけ話しかけられ、逆に留学生は日本語で一生懸命話そうとしている。学校の中で私も留学生に英語で話しかけたりするが、言葉が詰まって出なくなると隣にいた生徒が普通に通訳してくれるといった環境である。
 続いて、昼間定時制について紹介する。日本語類型と普通類型があり、定員は20名で日本語類型と普通類型約10名ずつといった形である。日本語類型には日本語が全くできない生徒もいて、日常会話ができるかできないかという生徒もいる。こうした生徒がたくさん日本語を学べる仕組みを作っている。授業開始は昼間定時制の場合3時間目からであり1時間目と2時間目が空いている。昼間定時制の中にも選択科目に日本語という科目を用意しており、日本語類型の生徒は、日本語に関わる授業が1年生でも4単位履修できるようになっている。さらに全日制にも選択科目で日本語の授業が用意されているため、最大8単位もしくは7限も取って9単位というような形で1年間に相当数の日本語を勉強することも可能である。これは日本語類型の特徴であるが、卒業単位として最大21単位まで認められるように法整備がされたため、堂々と日本語の授業を受講して卒業に向けていくことも可能となった。
 普通類型は、ほとんどが中学時代に不登校の経験をした生徒である。基本的に中学校の学び直しをしながら高校への学びに繋げるイメージである。昼間定時制は基本的に4年間で卒業となっているが、3年間で卒業したいというニーズも多いため、3年間で卒業するための方法をいくつか用意している。全日制や通信制の授業も履修可能であり、合計で74単位揃えれば卒業できるため、1・2時間目は全日制の授業を受ける、通信制の授業を併修するといった形である。また2年生進学時に全日制に異動することもでき、いろいろな方法によって3年間で卒業が可能となるような制度設計をしている。
 昨年度の入学生は日本語類型が11人であるが、その中から2人の生徒は日本語がある程度身についたからと進学も考えながら全日制に異動した。普通類型については、中学校で不登校だった生徒が、入学して学校に通えるか心配していた。4月や5月の頃は、3人・4人のみ登校といった日が多かったが、2学期ぐらいからほぼ全員揃う日も増えてきた。不登校の生徒たちにとって10名程度というのは非常に居心地が良い人数であり、しかも同じ経験をしているという要素が大きいかもしれない。その生徒の中から5人が不登校を克服し全日制に異動した。逆に、全日制から1名が日本語をもっとしっかり学びたいと昼間定時制に異動している。
 続いて次年度スタートする通信制について、私は積極的通信制という言い方をしている。積極的通信制というのは、例えば自分は将来このプロサッカーのチームに入りたくて、その中のジュニアでずっと毎日昼間も練習をしているが高校は卒業したいとか、将来起業したいから自分はそういう活動に向けて毎日自分でプログラムを組んでいるといった生徒にぜひ来てもらいたいと思っている。もうひとつ積極的というのは、今は不登校だがもし学校に通えるようになったら全日制・昼間定時制に変わりたいという思いで入学してくれる通信制でもあると思っている。通信制におけるスクーリングとは、登校して先生の直接指導(授業)を受けることであり、スクーリングの必要出席回数は単位ごとに決められているため、それをクリアしなければ単位が取得できない。大抵の学校はこれを休日に実施しており、他の生徒たちと顔を合わせないイメージである。本校はこれを平日に行ない、通信制の生徒が全日制や他の課程の授業を受けることも可能として、こちらも3年間で卒業することが可能な仕組みとしている。
 全日制のほぼ全ての学校において、入学してから学校が自分に合わなかった、人間関係がうまくいかないといった理由で不登校になってしまう生徒が一定数おり、数多くの生徒が通信制の高校に移っている。本校の中で通信制ができると、全日制にいた生徒が、もし大変で耐えられないとなっても、朝が大変であれば昼間定時制に動くこともできるし、通信制で自学自習の形でレポート出す学び方もできる。これが「みんな違って、みんないい」という学び方であり、学びたいものを自分に合わせて学ぶことができる。そして何よりこの仕組みの特徴は、途中で学び方を変えることができることである。こうして本校では個別最適な学びができると自負している。
 令和6年の9月から校内における公用語は日本語と英語にした。例えば修学旅行のしおりの巻頭言としての私の言葉も日本語と英語で生徒に出している。2学期の始業式も私は英語と日本語で式辞を行った。本校3分の1が外国籍の生徒であり、入学してくるとこれまではポルトガル語を話す生徒、タガログ語を話す生徒がそれぞれ集まって固定化されてしまう状況が多く見られた。例えば日本からアメリカに留学した学生が、1年間現地で日本人と知り合い、日本人とばかり一緒に生活していたら、英語が身につかなかったというのはよくある話である。それと同じで、学校の中でそうしたことが起こっていては意味がないと考えた。外国人の生徒たちは、日本語を学びたい。日本人の生徒は英語を学びたい。だからこそ校内の公用語は日本語と英語とはっきりさせて、そうした状況でお互いに学び合い、教え合い、励まし合い、助け合いになっていくと良いと思っている。
 こうした成果として、こんなことが起きた。後期の生徒会役員選挙で6人の枠に10人が立候補した。会長には2人が立候補し、1人は日本人の生徒が立候補し、応援演説はフィリピン籍の生徒が行った。もう1人はペルー籍の生徒が立候補し、日本人の生徒が応援演説をした。そして副会長も2人立候補して、その1人は中学校の時に不登校で、昼間定時制で入学したが、学校に通えるか本当に心配した生徒だった。そんな生徒が学校に来れるようになって全日制に異動し、生徒会の役員に立候補したのはすごいことだと思う。もう1人の生徒は私が2学期の式辞で英語と日本語で話をしたように、所信表明演説で英語と日本語で話をしていた。こうした生徒たちの変容を見ていただけると、少しずつ言語の枠を越えて交じり合っている様子を感じていただけると思っている。
 3年間、もしくは4年間の中で学ぶ力、使える英語力、コミュニケーション力、この3つをつけてもらいたいと思っている。学ぶ力とはテストで何点取るかという話ではなく、生涯勉強である。進学するのはもちろんであるが、働くようになってからも学び直したり、人生やり直したり、いろいろな場面で学びが必要になってくる。だからこそ学ぶことが楽しいと思って卒業する生徒を育てたい。学ぶことで未来を拓いていくんだという意欲をもって卒業してもらいたい。次に、使える英語力とは、英語に限らず母語に加えて他の言語を使えるようにという意味であり、多文化共生社会に必要なことだと思っている。最後のコミュニケーション力は、誰とでもというところがポイントで、言語・文化そして考え方の壁を越えて他者と協働できる力のことである。
 まとめとなるが、本校は3つのモデルでありたいと思っている。1つ目は、「新しいタイプの学校モデル」である。「フレキシブルハイスクール」として課程間を異動できる学びの仕組みは本校にしか現在ない。来年の4月からこの仕組みが県内の4校に導入されるが、そのモデルでありたいと思う。2つ目は、「多様なニーズに応える学校モデル」である。個別最適な学びができる学校と考えており、本当に多様な生徒がいて、中にはストレッチャーに乗った生徒やオンラインで授業を受けている生徒もいる。いろいろな生徒がここに行けば学べる、ここの学校ならやっていけるということが必要である。過疎地などで学校が統廃合される話をよく聞くが、地域でやりたいことが学べる学校がないと生徒が地域の外に出て行ってしまう。本校のようにいろいろな生徒が学べる仕組みを持った学校がまちにひとつあれば持続可能になるといったモデルでありたいと思っている。最後3つ目は、「多文化共生の小社会モデル」である。生徒会の話をしたが、多文化共生の本校の中でいろいろな生徒たちが交じり合っていき、こうした人材が本校から輩出される。外国人も日本人も一緒になって学び、一緒になって活動できることが地域の多文化共生に貢献できると思っている。本校のコンセプトは、「Diversity(多様性)」「Inclusive(包括性)」「Global(国際性)」「Sustainable(持続可能性)」の4つであり、さまざまな人々が違いを認めて、協力しながら、視野は国際的に持続可能な未来を創ることを目指している。私は地域全体で学びの多様化を進めたいと思っており、本校は大学の通信制の授業も受けられるような仕組みを作っている。それが大学と単位を互換したり、地域内の他の高校の授業を受講できるようにしたり、企業とインターンシップのレベルを超えた継続的な連携で単位認定ができるような仕組みなど、地域全体に拡がっていけば、本当に自分に合った学び、自分の特性を伸ばして世界に一人だけとも言えるような人材を育てられると思っている。