2024.12.06 第248回東三河午さん交流会
1.日 時
2024年12月6日(金)11:30~13:00
2.場 所
ホテルアークリッシュ豊橋 4階 ザ・テラスルーム
3.講 師
alice garden design 浅田 つや子氏・浅田 拓也氏
テーマ
「RHS Chelsea Flower Show 初出展と『ありすめそっど』について」
4.参加人数
33名
講演要旨
私たちが日頃やっている「ありすめそっど」は、庭作りにおいてこれが良いのではというものを2000年から24年間試行錯誤した上繰り返し実践し形になってきた。「ありすめそっど」では植物や生物の有害無害について、図鑑などに書いてある内容のみで判断しないで、そこにいる理由を考えて庭の今の状態を知る情報源としながら、庭にとって必要かどうかを見極め、必要でない場合はそれが減る方法を考え薬品を使わない形で実践している。また、庭の中にプラスチックの材料は使わない。手入れで出た剪定枝・草花などは捨てずに資源として景観に合うように処理して庭で再利用していて、これを地表面の保湿のためのマルチング材、生物の住処や支柱などの道具としても使っている。古くなったフェンス・ウッドデッキなどの木材も、ボロボロになったからといって廃棄せずに使える部分は削って別のものに作り変えて最後は焚き木になるまで使う。私たちは神奈川の方までお客様の庭の手入れに年3回伺うが、大変大きな庭でどうしても剪定枝など多く発生する。それをゴミに出さず、持ち帰らず、全部その庭の中で次の資源として活用するようにしているので、車でいって、ゴミ袋を一切持たずに帰ってくるという他の植木屋さんでは見られない光景となっていて、道具についても手入れして長く使うことを心掛けている。
チェルシーフラワーショーに今回出るきっかけとなったのは、「ありすめそっど」が良いものだということが判ってきたため、自信をもって世界に向けて発信しようと考えたことである。お金も掛かり、スポンサーがいないとやりにくい側面もあり、最初はどうしようか迷っていたが、NHKの人と話したことに背中を押されて締め切り1週間前に1回目の応募をした結果、「デザインは良かったが、別のところに出てみないか」という返事だけもらって落選した。次の年の6月に再度チャレンジし、協会と英語でいろいろなやり取りを重ね、3回ぐらいの審査を経て「出られますよ」という返事をいただいたのが9月であった。今回「Tomie’s Cuisine the Nobonsai」という名前で、これはイギリスでエコフレンドリーな料理のシェフの仕事をしている娘のハンドルネームであり、「ありすめそっど」と繋げてスポンサーという形になってもらいこの名前をつけた。チェルシーフラワーショーの場合、必ずスポンサーの名前をつけないといけないため彼女に話をし、渡航費の負担などスポンサーとしての大きな役割をしてもらった。野盆栽は自然を切り取った盆栽であり、ランドスケープという景観的なものを小さな盆の上に表現したものと世界で理解されている。私たちはこのバルコニーを、少し大きめな盆栽に仕立てようと考えて野盆栽という名前をつけた。アリスガーデンのアリスにも繋がってくるが、小さな盆栽に生えている一本の木でも、その足元に自分が小さくなって入って見上げれば巨木になるので、不思議の国のアリスが小さくなってランドスケープの中を歩き回る世界と同じようなものだとイメージしたのが始まりである。地球環境を考えるにあたっても、自分ひとりの人間ができることは、本当に小さなものであるが、広い目で見ていくと、自分にもっとできることがあるのではないかという考え方も含んでいる。
今回私たちが作ったバルコニーガーデンについて、土台は主催者であるRHSの方で作っている。前のフェンスを最後に主催者が取り付けるために、あらかじめそれをデザインの中に落とし込んでいる。またバルコニーであるために荷重制限がある。ちなみにバルコニーとベランダの違いであるが、バルコニーは屋根がないもの、ベランダは屋根があるものと区別されている。バルコニーなので、水やり的には雨だけで完結することを考えて、雨どいを伝って下に水が落ちるような設計になっている。使った材料は自然のものが中心であり、木材はリサイクルウッドを使って、もとはボロボロの足場板・フェンスだったものなどをカンナやペーパーをかけたりして再利用しており、この細やかな仕事ぶりも評価されていた。リサイクルウッド屋さんにいって材料を調達し、今回の作品は全体的に色が黒いが、日本から墨汁を持っていって水で溶かして薄めに溶いて塗り重ね、この色を作り出している。墨汁を使った理由も多くの方に質問されたが、日本だからこうした色というわけではなく、剪定した時に切り口が腐らないように墨汁をつけるという技術があり、アンチバクテリアということで墨汁を使って防腐処置をした。他にも銅線を使っているが、アンチバクテリアという形で防腐効果のあるものとして銅を使っていて、レインチェーンという雨鎖も全部自分たちで巻いて作っており、そこから垂れた水が下の瓶の中に入った時点でボウフラが銅イオンによって生育しにくくなるという効果を狙っている。他に格子戸は、御油の松並木にある古い家の建具をイメージしデザインしたが、現地のリサイクルウッドが一本一本全部違う木であり、硬さや重さも異なっていたため、バランスやねじれを見ながら仕上げていくのが大変であった。
今回はシルバーギルトメダルをいただいた。ゴールド・シルバー・ブロンズなどあるが、シルバーギルトは金色であるが、イギリスならではの価値観なのでここで簡単に説明する。ゴールドとシルバーの間にシルバーギルトというメダルがある。「ほぼ金だけど、次はもっと期待をしているよ」といった賞らしい。シルバーギルトとはフランスのアンティークの技法であり、銀は触っていると真っ黒に変色してしまうため、大事な銀をいつまでもきれいに光らせるために表面に金を施してある。銀の上に、メッキではなく金を被せてあるのがシルバーギルトである。今回のチェルシーフラワーショーは大きなテーマにサステナブル・持続可能性があり、以前のチェルシーフラワーショーでは使ったものが廃棄されてしまうことが問題視されていたが、チャールズ国王に変わってからこのテーマが重要視されるようになり、今回は作ったものを別のところで作り直して使ってくださいという条件が入っていた。そのため作品をTomie’s Cuisine の家に持っていき、バルコニーがないので庭の中にトランスフォームさせる形でフェンスやゲートを作って、犬を放すことが可能になったと喜ばれた。6月にチェルシーフラワーショーが終わった後移設し、作り直したが、9月にもう1回その後どうなっているか、ちゃんと手入れされているかの状況を協会に提出しないといけないため、9月に再度渡英しチェックしてきれいにやり直してきた。イギリスも今年の夏は暑かったが、6月に3週間ぐらい留守をして娘が帰ってきた時、「庭の植物がみんな元気だったからびっくりした」と言っていた。実は地面から半分ぐらいのところまでチェルシーで使った段ボールが敷き詰められている。段ボールは木でできているのでそれを再利用して次第に土に戻っていくので、段ボールの使い道としてはすごく有効だと思う。段ボールを入れたのは単に土を減らしたいだけではなくて、土の中の水分量を適度に保つのと、バルコニーガーデンで荷重制限もあったので、重量を減らすためにも段ボールや新聞紙を使った。
今回とても重要なのがアリスのコンポスターである。アリスのコンポスターは素焼きでやっている。素焼きでやることで通気性が良くなるために、プラスチックのように匂わない。ちょうど人間のお腹の中と同じような状態になる。例えば自分たちが食べられるものをコンポスターの方に残ったからと入れたりとかする場合は全然問題がなく匂わないが、自分の体にも悪そうだなというものすごく辛いものなどを入れてしまうと、中にいる虫や微生物がお腹を壊すので少し臭くなる。これを理解しながらやっていくと、コンポスターは、めったに匂わないものになる。何がそういう生ゴミを処理してくれているかと言うと、微生物に加えて中にいる水アブの幼虫などのウジ虫である。一般的にはみんなが嫌がる虫がとても良い仕事をしてくれていて、夏は本当に入れた分だけ次の日にはなくなっている。それを繰り返していくので、夏は1個で足りるが、他の季節やごみの多い人はもう1個用意してもらえば良い。水アブの幼虫が何をしてくれるかと言うと、本当に毎日せっせと食べてせっせと糞をして良い土を作ってくれる。こうした生ゴミのコンポスターは大体お家に2個ぐらい作ってもらうと一生使える。構造として、地面から大体1メートル弱ぐらい穴を掘り、その上にルバーブポットまたは底を抜いた大きめの素焼きの鉢を逆さまに置き、素焼きの鉢底皿を蓋として被せて作ることで完成する。地面の中の水はけさえ良くしておけば臭くはならない。水はけが悪いと嫌気が発生して匂うが、水はけさえ良ければ一生使えるものになる。コンポスターの上の部分の素焼きの鉢は、わざわざ購入しなくても自宅にある使わなくなったものを利用すれば良い。コンポスターを使用するにあたって注意しなければならないのは、①水はけ②殺虫剤を使わないこと③素焼きを使うという3点だけである。これで家庭の生ゴミがほぼゼロになる。入れてはいけないものは、大きな骨や貝殻と卵の殻ぐらいである。卵の殻や貝殻は外に撒いておけば、足で踏まれて粉々になっていき、石灰代わりとして土壌のためにも良いものになっていく。
最後に話したかったことがもうひとつある。お客様に今年の夏はすごく暑かったから、私たちが手入れにいった時に「夏暑くて全然何もできなかったよ」と言われることが多いが、私たちの「ありすめそっど」では、夏は何もしないでくださいという考え方である。そのためお客様のお宅に訪問した際は、「6月に梅雨前の手入れに入っており、そこで切り戻しをしてあるので、夏には触らないで伸び放題にしておいてください」と伝えて、「そのぼうぼうに伸びたものが次の材料になっていくので触らなくて良いですよ、気づいたものだけ少し取るだけで頑張って草刈りをするとか、草取りをするとかっていうことはやらないでください」とお願いしている。なぜかというと、昔の美徳たる草取りがもう効かない環境になってきている。真夏に草刈りなどをしていて命を落とす方がたくさんいらっしゃるのと、今回「ありすめそっど」をどうしても広めたかったのは、やはり日本の昭和世代の方にこういう話をしても「いや、お盆前に汚いのではやっぱりご先祖様に悪いから」と言ってせっせと皆さん庭の手入れをされるが、実はそれをやることで逆に害虫が家の中に入ってきてしまう。もともとは害虫ではなくてただの虫であるが、外をきれいにしすぎて草の影などがなくなると暑いところにいられないので、涼しい屋内に入ってきてしまうという悪循環になる。善かれと思ってやったことが、結局裏返しになって家の中の虫を増やしてしまうことにもなりかねないのでなるべく夏に外では草をあまり刈らないようにしてもらいたい。ずっとやらないのではなく、やるべき時期があって夏はやらないでほしいということが「ありすめそっど」のお願いである。