2024.12.18 第482回東三河産学官交流サロン
1.日 時
2024年12月18日(水)18時00分~20時30分
2.場 所
ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス
3.講師①
豊橋技術科学大学 建築・都市システム学系 助教 豊田 将也 氏
テーマ
『東三河の水害(洪水・高潮・気候変動)に係る危機管理について』
講師②
中部電力パワーグリッド株式会社 豊橋支社 支社長 小林 敏博 氏
テーマ
『停電時における電力復旧について』
4.参加者
74名(オンライン参加6名含む)
講演要旨①
豊橋技術科学大学の建築・都市システム学系は、主に建築と土木に分かれており私は土木を専門としている。土木工学の中でも海洋に関するものと災害に関係した分野を研究対象としている。直近の研究テーマとして2023年6月2日大雨の検証、気候変動による複合水災害の評価、産学官による災害に高レジリエンスな街づくりにも力を入れている。本日は最初に2023年6月2日の豪雨災害に関して、最新のシミュレーション結果と豊橋市と共同実施したアンケート結果について、次に気候変動後の台風に伴う東三河地域で発生する可能性のある災害について話をする。
2023年6月2日の豪雨災害では多くの方が被害に遭われている。特に住家の被害が大きな災害であった。東三河で床上浸水が331棟、床下浸水が711棟と1,000棟以上が浸水被害を受けた。こうした災害がどうして発生したのかというと、台風2号の進行方向前方に梅雨前線があり、台風の進行方向は東北東で梅雨前線に常に暖湿空気が流入していたため台風と梅雨前線のバックビルディング現象による線状降水帯が発生したのである。当研究グループでは、災害直後に被災地に入り、浸水痕跡高調査を行った。それに加えて豊川・柳生川・梅田川・佐奈川の時間当たりの流量の経過を検証した。豊川は1級河川であり2級河川と比べるとピークが遅れてやってくるが、最大流量は4,100m3/sとなり、過去最高の4,650m3/sに迫る値を記録した。2級河川の梅田川は愛知県の整備計画では1時間平均600m3/sまで耐えることができるとなっているが、当日16時30分から17時の間は600m3/sを超えて氾濫した。どれぐらいの雨か示すために水文統計という考え方を使って、この雨が1年間の中で何パーセントの確率で振りうる雨なのかということを分析している。便宜上何年確率という表記をするが、1ミリ以上の降水有の事例を1時間ごとに720年分積み重ねていき、24時間の積算降水量を検証すると100万事例あった。アメダス豊橋で観測された419ミリをあてはめてみると162年に1回の降水量となった。これは今回経験したから次は162年後という意味ではなく、今年も来年も同様に162分の1の確率で起こりうるという認識である。これが温暖化が進行すると162年に1回よりも短い期間で発生する可能性もある。
実際の浸水についても計算して柳生川と梅田川の浸水状況をシミュレーションしている。柳生川は境橋周辺で氾濫が発生し、実際にバロー豊橋店では柳生川の方向から突然多くの水が流れてきたという証言もあった。また、柳生川沿いにある家屋の痕跡高も水がかなり来ていたことを示していた。梅田川については、御厩橋周辺で氾濫し、深いところでは1m近く浸水した。シミュレーションしたデータと実際の痕跡高を比較してみると、誤差0.18m,相関係数0.73となっており、再現性は良好といえる。柳生川の洪水は、海の潮位の影響を大きく受ける。また、満潮と柳生川の水位のピークが平常時も重なっており、満潮時刻と重なると洪水への影響が大きいと判っていたが、今回の洪水はこれらが重なった最悪の条件下で発生した。シミュレーションで満潮の影響がある場合とない場合を比較してみると、満潮の影響で浸水面積が1.5倍に拡がっていて、特に下流域で影響が大きくなっている。このように複数の現象が重なって発生する災害を複合災害と呼んでいる。これが現在、国が対策を考えなければならないものとなっている。
2023年6月2日の豪雨災害の課題をうまく活用するために行政・研究者・市民の連携が必要になるということで、豊橋市と一緒に住民アンケートを実施した。4,938通発送し、有効回答数が2,125通で回答率は43%であった。当初は20%程度回答率があれば統計分析できると考えていたが、予想の2倍と多くの回答をいただいた。回答者の年齢は世帯あてに送付しているため20歳未満は少ないが、50代までが53%、60代以上が47%となっており、全体として年代に大きな偏りはなくバランスの良いものになっている。回答方法については40代までは圧倒的にGoogle Formでの回答が多く、60代以上は圧倒的に郵便での回答が多かった。小学校の校区ごとに回答数をまとめており、最低50世帯であとは人口比で割り振って送付していて、牟呂・福岡・二川南・汐田・高師・玉川・牛川・栄校区では50通以上の回答が返ってきている。これは柳生川・梅田川周辺地域の校区で被害に遭った人が積極的に協力していただけたと推定される。続いて校区の被災数について調べてみると、被災に関する全回答中,53%が交通障害(車の浸水,道路の冠水)であり、10%が床下浸水,3%が床上浸水,3%が土砂崩れという結果であった。被災の回答は牟呂で10件、鷹丘で8件、岩田が9件、花田が10件であり、実は回答率が低い校区においても被害を受けた方が多いことが判った。災害の情報をどのような媒体から知ったかという質問に関しては、第一選択肢として「テレビ」からの情報入手が圧倒的に多い結果であった。「テレビ」以外では、「スマホ関連」からの情報入手が多く、「ラジオ」からとの回答もあり地元FM局も重要な情報源となっていることが推察された。続いて有効だと思う防災情報を日常・非日常を問わず選んでくださいという質問に対しては、1位が「テレビ」で28%、2位は「防災無線」で23%、3位は「回覧板」で19%であり、SNS・緊急通知・ネットニュースなど「スマホ関連」も15%程度となっていて、52%の回答者が3つ以上の媒体を有効と回答した。「防災無線」や「回覧板」などアナログ的なものを有効だと考える回答が多く、堅実性の高いものが選択されたと推察される。次に今後参加したい防災イベントについて質問をした。こちらの回答は「参加しない」が最多回答となってしまったため、市としても今後何かやるときのやり方を考えなければならないという課題を突き付けられた結果であった。
最後のパートとして、気候変動後の台風に伴う災害についてのシミュレーションについての話をする。伊勢湾・三河湾を対象に21世紀末の台風による沿岸部の災害調査として台風20ケースの経路を比較して計算を行い、三河港と周辺5河川を対象にシミュレーションした。雨が現在とどの程度変わるかというと、愛知県全体で降水量が増え、河川流路上のほとんどの地域で100~150mmの降水量となり、豊川の上流では250mm以上の地域も有り全域で雨が強くなることが予想される。台風時の高潮についても、将来気候では最大で3m以上の高潮が三河湾全体で発生し、伊勢湾台風と類似した経路の場合は広い範囲で浸水害の可能性がある。東三河地域ではよく津波のリスクについて話をされることがあるが、実は津波以上に大雨や高潮の危険性が高く、今後もハザード規模が増大していく。現在進行しつつある気候変動の適応策は研究者、行政に加え「企業」の協力・連携が不可欠となっている。環境だけでなく、防災面からも持続可能な経営・運営を考えた戦略が必要となるため、本日の私の話は皆さんが防災を考えるきっかけになればと思っている。
講演要旨②
電力設備は屋外の厳しい環境下におかれており、設備の損壊や自然劣化などにより期せずして停電してしまうことがある。停電することによる暮らしや経済への影響は計り知れないため、本日は停電時における電力復旧について当社の取組を紹介する。まず、中部電力パワーグリッド管内の電気の流れについて話をする。送電線は50万Vの基幹系統と27.5万Vの超高圧、15万V、7万、3万Vの特別高圧に区分されており、50万Vの基幹系統は日本の大動脈で関西や北陸など隣接する送配電事業者と連系されている。電気は超高圧変電所から柱上の変圧器と段階的に電圧を落として一般家庭に送られている。2015年のJERA設立により火力発電部門が、2020年の分社化により小売部門が別会社となり、私たち中部電力パワーグリッドは電力ネットワーク設備を建設・維持する会社となった。分社といっても中部電力パワーグリッドは膨大な設備を保有しているため、要員数は分社前の中部電力の従業員総数1.6万人のうち1万人が中部電力パワーグリッドの所属となっている。当社の保有設備は超高圧変電所、鉄塔、一次・二次変電所、配電用変電所、電柱などあるが、本日は配電用変電所から一般の家庭や工場に電気を送り届ける配電設備について話をする。配電線は街中の至る所に敷設されており人体でいう毛細血管にあたる。毛細血管とはいえ電圧は6,000Vで誤って人が触れると即死するレベルの危険な電圧である。各国の供給信頼度について、日本は先進国のなかでもドイツと並びトップレベルの安定供給を果たしている。1966年以降、停電回数、停電時間は少しずつ減少しており、近年では1お客さまあたり年間で0.1回、7分間程度しか停電しない。皆さんが子供の頃は雷が鳴ると必ずといってよいほど停電したと思うが、現在では耐雷性能の向上により停電しにくくなった。配電線の構成は配電用変電所から最初の電柱にケーブルが立ち上がり、そこから送電方式が3相交流のために3本の高圧線が各電柱に敷設されていて、ところどころに設置されている四角い機器が遠隔操作可能な開閉器である。豊橋の場合は神明町(しんめいちょう)に支社ビルがあり、このビル内の指令室から配電線を監視・制御している。各家庭には柱上変圧器という「バケツ」のような機器により100V、200Vに降圧して電気を送っている。
ここから配電線故障により停電が発生した場合の電力復旧について話をする。配電故障は大きく分けて地絡故障と短絡故障がある。地絡故障は、電線が切れるなどして電気が漏電すること、短絡故障は倒木などで電線相互が混触してショートすることにより発生する。遠隔操作できる開閉器により1区、2区、3区、4区といった形で区間を作っており、この区間が故障点の絞り込みに有効となる。平常時は電源である変電所Aや変電所Bからそれぞれ送電されているため順送の状態であるが、配電線で故障が発生した場合は、通常時運用が「切り」の開閉器を「入り」にして反対の配電線から送電する逆送を行う。例えば3区内の変圧器が落雷で故障した場合、変電所Aでは故障電流を検知し変電所Aの元のスイッチが自動的に「切り」となり、その変電所が供給していた配電線は全て停電し、あわせて各区間に施設されている全ての開閉器も自動的に「切り」となる。60秒後に変電所のスイッチが自動的に「入り」となり、そこに9秒を足した69秒後に1区の開閉器が自動で投入され1区が送電される。さらに9秒後、つまり78秒後に今度は1区と2区の境界の開閉器が自動投入され2区まで送電される。さらに9秒後の87秒後には2区と3区の境界の開閉器が自動投入され、故障区間に電気が送られると再度故障電流が流れ、変電所Aの保護リレーが再度異常を感知し、再び変電所Aのスイッチが「切り」となる。ここで最初の停電から87秒後に停電が発生したことから、3区内に故障点があるとリレー自身が判断する。このように変電所は故障電流を検知するまでの時間によって故障区間を特定し、故障区間以外には電気を送る。再度変電所Aのスイッチと開閉器が順次投入され2区までの送電が完了するが、電気が送られて即遮断された2区と3区の境界の開閉器はロックがかかり投入されない。こうした機能は全てリレーが判断して自動で行われ、4区は対になっている変電所Bから逆送されて故障区間である3区を除き健全区間の送電は完了となる。
具体的な故障原因にはどのようなものがあるかを紹介する。先程電気の敵である落雷による機器損傷の話をしたが、これ以外にもカラスの営巣材やカラスが運んだ木の実も故障の原因となる。営巣材や木の実のみならず時にはカラス本体が故障原因となることもある。雷や鳥獣接触以外にも車両の衝突やクレーンの操作誤りなど故障原因は多岐にわたり、復旧には相当の労力と時間が必要な場合もある。
2018年には2つの大きな台風が日本列島を直撃した。台風21号と24号である。台風21号では関西国際空港に向かう連絡橋にタンカーが激突した映像が何回も放映されたため皆さんも記憶にあると思う。東三河エリアに甚大な被害を与えたのは9月30日に非常に強い勢力を維持したまま和歌山県田辺市に上陸した台風24号である。東三河地方は台風の進路の東側に入ったため甚大な被害を受けることとなった。豊橋市の最大風速は27.1メートルと観測史上1位を記録し、瞬間最大風速は50~60メートルに達したと言われている。この猛烈な暴風雨により中部電力パワーグリッド管内は一瞬にして広域な停電に見舞われ、中部地方に最接近する10月1日の午前1時には停電戸数のピークを迎えた。豊橋支社においても停電戸数が11万2,726戸を数えたが、懸命な復旧作業により30時間で解消した。全社でみると3日経過時点で96%のエリアで停電が解消しており、行政や警察・消防・病院などの重要負荷のお客さまには3日間程度稼働する自家発電の導入を強く推奨している。全社的な復旧までは1週間程度かかっているが、これは倒木や土砂崩れにより道路が封鎖され現地に入れないといったことが大きな理由である。本年元日に発生した能登半島地震でも同じことが起きていて、東三河地域においても同じリスクがある。昨今の林業の衰退や後継者不足により、山林の荒廃が進んでいることは皆さんもご承知だと思うが、そうしたエリアでは倒木や土砂崩れが頻繁に発生し、山間地域では道路啓開を図りながら電気設備を修復していかなければならず大変な労力と時間を要するため、道路啓開については行政との連携を密にしながら進めていく必要がある。こうした森林整備に関わる解決策の一つとして、当社は地元行政や東三河地域研究センターとともに森林資源の健全化、レジリエンスの強化に向けた調査研究の活動に参画している。
平地において東三河地域はハウス栽培が盛んな地域であるが、そのハウスやトタンが暴風により巻き上げられ、巻き付いたビニールがちょうど帆船の帆のようになり、電柱折損・倒壊を引き起こすことがある。また、こうした飛来物を除去するには大変な労力を要し、復旧に長時間を要する。このように自然界の厳しい環境に置かれている配電設備は絶えず設備損壊のリスクに晒されており、一旦、広域に故障が発生するとこれらを1本ずつ復旧しなければならない。作業員は不眠不休で復旧活動にあたっているので、もしこのような現場に出くわしたら、是非暖かい言葉をかけていただきたいと思う。
続いて他電力応援について話しをする。これまでも非常災害時には紳士協定の範疇で他電力応援が実施されていたが、2018年の台風21号24号以降、レジリエンス向上施策として全国で仕組み化・制度化がされた。従来電力会社は被災電力会社からの要請を受けてから応援を行っていたが、それでは応援要員が稼働するまでに数日間を無駄にしてしまうために、各電力会社はあらかじめ「災害時連携計画」を経済産業大臣に届け出ており、各電力会社は被災電力会社からの要請を待つことなくエリア境で待機することとなっている。能登半島地震では最大震度7により北陸電力送配電管内で46千戸の停電が発生し、当社グループからも約1,800名が北陸電力管内に応援に入り、電気工事会社であるトーエネックにも応援に入っていただいた。極寒のなかでの過酷な作業であったが1月29日をもって応援を完了した。
最後に停電情報の発信について話をする。大規模な停電時には中部電力パワーグリッドに電話は繋がらないことが多い。なぜならオペレーター数は限りがあり最大限動員しても1日18,000件の入電に対しては焼け石に水である。台風24号では10月1日深夜1時に停電戸数のピークを迎えたが、その時の着信数は比較的落ち着いていた。お客さまも「停電した」と思っても即時中部電力に電話しようとは思わず、夜も遅いので寝ようということになったと推測される。朝起きてもまだ停電が継続しているということで朝5時から入電数が増していく。しかし、限られた要員では全ての入電に対応できないことから応答率はわずか数%に過ぎなかった。お客さまのフラストレーションが増大していった原因は停電そのものよりも電話が繋がらないことや情報が入ってこないことに起因する。長時間停電が継続すると復旧見通しを知りたい方が大半であることから、私たちは次の2つの施策をとっている。1つ目が他電力会社のコールセンターとの相互応援であり、2つ目が停電情報お知らせサービスによる情報発信である。皆さんが中部電力パワーグリッドに用事があって電話した時に繋がる先は青森や川崎などのコールセンターである。こうした受付業務は、現在、コールセンターに外部委託されており、他の電力会社も同様である。普段、オペレーターはそれぞれの電力会社管内のお客さま対応を行っているが、大規模災害時は一斉に被災電力会社のお客さま対応にあたる。これによりオペレーターが増員されることになるが、オペレーターが仮に2倍、3倍に増えたとしても先ほど述べたとおり集中する入電数には追いつかない。そこで、中部電力パワーグリッドでは停電情報お知らせサービスによる情報発信を行うこととした。実はオペレーターも停電情報お知らせサービスの情報に基づき電話対応をしており、このアプリが最新の情報になる。このため、停電原因や復旧見込みなどの情報を正しくかつ迅速にアプリに反映することが重要となる。このアプリは簡単にダウンロードできるので是非活用いただきたい。
停電は発生しないに越したことはない。しかしいざ停電が発生した場合は、設備部門は安全かつ早期に電力復旧を行うこと、お客さま対応部門は情報をタイムリーにかつ正確に発信することが重要となる。これからも当社はお客さまの暮らしに欠かせない電気を安全に安定的にお届けしていく。今後も当社の事業活動にご理解とご協力をお願いしたい。