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産学官民交流事業

2025.1.21 第483回東三河産学官交流サロン

1.日 時

2025年1月21日(火)18時00分~20時30分

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

愛知大学 地域政策学部 教授 本多 尚子 氏

  テーマ

『東三河から育てるグローバル人材 ~愛知大学地域政策学部特化型ベトナム(ハノイ)・インターンシップ事例を中心に~』

  講師②

愛知県立時習館高等学校 校長 寺田 安孝 氏

  テーマ

『中高一貫教育と国際的な教育プログラムの導入』

4.参加者

62名(オンライン参加10名含む)

講演要旨① 
 現在、愛知大学を含め、国公私立を問わず大学における人材育成のあり方が改めて問われており、18歳人口の減少とも相まって今後ますますこうした傾向及び大学に対する地域のニーズは高まると予想される。こうしたニーズを敏感に察知し、地域で活躍できる人材を自信と責任を持って送り出す、私自身もこうした思いを胸に日々学生たちと共に学んでいる。特に最近は、地元での多文化共生施策やグローバルな視野を持ちながら地元のために活躍したいと考える学生たちがより増えてきたと感じている。
 実際、東三河地域におけるニーズのひとつとして、グローバルな視野を持ちながら地元のために活躍できるグローバル人材の育成が挙げられている。東三河振興ビジョンの中でも主要プロジェクト推進プランの中に含まれており、特に、「東三河振興ビジョン2030」では「世界経済のアジアシフト」も大きく注目されている。
 こうした東三河地域のニーズを踏まえ、大学のブランドスローガンとして「知を愛し、世界へ」を掲げる愛知大学、そして、学部創設以来「地域を見つめ、地域を活かす」を学部の教育理念としてきた地域政策学部では、グローバルな視野を持ちながら地元のために活躍できる人材育成への取組を強化してきた。本日は、その一例として、愛知大学地域政策学部特化型ベトナム(ハノイ)・インターンシップについて紹介し、その概要と期待される成果、こうした成果がどのように東三河地域に貢献し、特に東三河地域の産学官交流・連携という点で良い展望をもたらすのかについて共有させていただく。
 本インターンシップの目標は、地元愛知県の大学生が将来グローバルな視野で海外との接点を持ちながら活躍できる人材となることを支援することである。こうした海外インターンシップに学生が参加するメリットとして主に以下の5つが挙げられる。①グローバルな視野を広げること、②コミュニケーションスキルの向上、③国際的な人脈の獲得、④キャリアの可能性を広げること、⑤異文化理解を、実体験を通し深めること、である。本プログラムの大きな特徴としては、ベトナム(ハノイ)で約1ヶ月間実際に生活し、多くのインターンシップ活動を行う中で、現地の人々、特に現地の未来を担う大学生同士の人脈が生まれ、地域のニーズをそれぞれの五感で捉える、まさに本学部での学びの特色である「学生自らが課題を発見し行動する学び」を体現するものであるということが挙げられる。
 愛知大学地域政策学部は現在5コースからなり、それぞれ「公共政策コース」、「経済産業コース」、「まちづくり・文化コース」、「健康・スポーツコース」、「食農環境コース」となっている。それぞれ視点やアプローチの仕方は異なるが、地域政策において不可欠である広い視点と深い洞察力を、実際の地域をフィールドとして理論と実践の両面から育むカリキュラムが行われている。そのひとつとして、本学部では2013年度よりインターンシップという科目を設け、それぞれの学生が現地での体験を理論と実践の往還の中で捉え直し、自分たちの卒業後のキャリアに活かすことで、その成果を地域社会に還元している。また、学部1年次から参加可能な課外活動の一環として、学生自らが地域の抱える課題を解決するための事業を計画し、支援教員のアドバイスなども活かしながら地域の人と共に実行する「学生地域貢献事業」も10年以上にわたり継続的に実施、関係する地域の方々からも高い評価を得ている。こうした学びに対し、より主体性と行動力を持って「自らの地域貢献力」を高めたいという意欲に溢れる学生たちを、本学部ではより積極的に受け入れたいと2024年度入試から学部独自の新たな入試として、「地域政策学部プレゼンテーション入試」もスタートしている。実際に当該入試で入学した学生が中心となり新たな「学生地域貢献事業」団体を初年度から立ち上げ活動する等、目覚ましい活躍が見られ、他の学生たちもより刺激を受けている。こうした背景の中から生じた新たな取組が、紹介する「学部特化型ベトナム(ハノイ)・インターンシップ」である。本プログラムは、愛知大学地域政策学部における学びにおいて大切にしている、「地域の抱える課題を解決するために学生一人一人が自らできることを考え、実際に行動すること」と本インターンシップ内容の一致からその実現につながっている。
 ここで、ベトナム及び首都ハノイについても簡単に紹介する。ベトナムは近年、経済成長が著しく、教育市場も拡大を続けており、日本の歴史にあてはめると、まさに高度経済成長期にあたる。GDPで6~7%の経済成長を実現している将来性のある市場であり、大きな成長が期待できるフィールドである。2000年代から2010年代前半にかけては、日本企業は安い人件費を求めて製造業を中心に進出し、技能実習生などのベトナム人材がいわゆる出稼ぎで日本へ来て、日本企業の人材不足解消という点で貢献するという流れであったが、2010年代後半~現在にかけては、ベトナムに進出する日本企業は製造業からサービス業へと変わり、日本に入国するベトナム人の目的は日本文化・生活スタイルの体験、観光となり、日本で働くベトナム人材の募集に陰りが見え始めている。こうした状況の中で、互いの学生たちがグローバルマインドと異文化理解力を高め、その後のキャリアに活かしていくためのひとつのステップになればとの思いから、愛知大学地域政策学部との間で学部特化型ベトナム(ハノイ)・インターンシップ事業を計画、始めるに至った。ハノイ市はベトナムの首都であり、歴史と文化が融合した魅力的な都市でありながら、物価が比較的安価で生活しやすい環境を備えており、インターンシップに参加する学生にとって充実した生活を送ることができる都市である。日本貿易機構(JETRO)のハノイ事務所もあり、ベトナムに進出した日系企業の各種相談を受付する体制が整っている等、会社設立や投資などベトナムに進出した日系企業に対する支援が充実している地域でもある。近年は日本以上にDX化や特にビジネス・マーケティングにおけるSNSの利活用(特に、TikTokやFacebookによる情報発信)が進んでいる。ベトナム(特にハノイ)の方の国民性として親日家の方が多く、日本製品やサービスへの需要が高いこと、勤勉・器用で家族を大切にする等、日本人にとっても価値観を共有できる点が特徴として挙げられる。近年は、JICAのODA等を通じて安全保障的視点・経済協力的視点から日本とベトナムとの間で強い協力関係を構築することが官民問わず行われており、こうした国民性も、愛知大学地域政策学部の学生たちが現地の大学生と将来に活かせる素晴らしい人脈を得るのに欠かせないと考えている。
 次に、本インターンシップの期間・内容等詳細であるが、本インターンシップは大学の春休み期間中に約1ヶ月現地で行なう。この期間に実施するのは、学生たちの大学における正規カリキュラムや諸課程の資格取得などに影響を及ぼさないためと、現地の気候条件を考慮し、学生たちが暑さ等で体調を崩してしまう恐れの少ない時期を選んだためである。インターンシップの開始前に、学内で整備・活用しているライブキャンパスUという教育プラットフォームや、各ゼミでの指導教員による周知を行った上で、金曜5限と月曜5限(いずれも他の授業や諸課程の行事等と重なりにくい時間帯)にインターンシップ先企業と地域政策学部長、当方の3者で学生向け事前説明会を実施している。その後、Web上での書類エントリーを受付し、ZoomによるWeb面接・候補者選定を行う。参加予定者には、その後より詳細な事前準備説明会を行い、春休み中のインターンシップに向け、教員の支援も受けながら準備を進めるという流れとなる。費用は約1か月間で、航空券・宿泊費・食費・現地交通費・その他交際費・海外旅行保険等込みで、為替レートなどにもよるが、日本円で1人あたり22万円から25万円ほどとなる。参考として、同じく約1ヶ月間の海外派遣プログラムをカナダや欧米圏で実施した場合には、最近の円安や燃油サーチャージ料の高騰の影響で1人あたり85万円から100万円ほどかかると言われており、費用の面からも魅力的なプログラムになっている。
 続いて、本インターンシップに含まれる主な活動について紹介するが、主に6つの活動が盛り込まれている。第1に、日本貿易振興機構(JETRO)でのブリーフィングの実施である。ここでは、ベトナム国全体の経済や文化について分かりやすく紹介され、学生たちは全般的なマクロ情報を理解する。これを基に、約1か月間の現地滞在中に、ハノイ市内のまち歩き等、自分たちの五感で体験した現地情報と比較・検討し、より詳細な現地の地域理解につなげていく。第2に、インターンシップ先での教室運営支援に現地スタッフと共に携わる。実際の教室で子供たちの授業指導をサポートし、教材の準備やイベントの企画運営にも参加する。こうした体験を通して、学生たちはベトナムの教育事情を肌で感じ、現地スタッフと共に働くことでコミュニケーション力や異文化理解力も磨くことができる。第3に、インターンシップ先での教材開発へ現地スタッフと共に参加する。ベトナムの子供たちのニーズに合わせた新しい教材(プリント等はもちろんオンデマンド動画教材など)を開発するが、こちらのインターンシップ先にはハノイ在住の日本人の子供も通っているため、日本語とベトナム語の両方のスキルを活かすことができ、ベトナムの教育への貢献につながる。第4に、インターンシップ先においてSNSを用いた広報活動へ現地スタッフと共に参加する。ベトナムでは、教室の広報活動にSNSやイベントの利活用が欠かせない。この活動に参加することで、現地におけるマーケティング・集客の経験を積むことができ、ベトナム語での簡単なコミュニケーションスキルを活かすことができる。第5に、ベトナム進出の他の日系企業の訪問である。学生たちは、現地で実際にビジネスを起業した日系企業でインタビューし直接話を聞くことで、企業のベトナム進出の背景や、これからの日本とベトナムの関係性についても学びを得ることができる。第6に、ベトナムを代表する大学や人材育成センターとの交流がある。具体的には、ハノイ大学日本語学部に通うベトナム人学生との異文化交流ワークショッププログラムや、日越大学日本語学部に通うベトナム人学生とのビジネスマナー等に対するプレゼン発表会、ベトナム日本人材協力センター(VJCC)での具体的なビジネス場面を想定したグループワークプログラムを行う。
 ハノイ大学は、外国語教育を基盤にし、グローバルに活躍する人材を育成する高等教育機関として知られている。日越大学は、日本やベトナムの企業でのインターンシップも実施されており、学生は実践的なスキルを身につけることができ、グローバルな視点でのリーダーシップ育成にも力を入れている。ベトナム日本人材協力センター(VJCC)は、ベトナムの貿易大学内にある、日本とベトナムの協力のもとに設立された教育・文化交流センターである。ベトナムの経済発展を支える人材の育成を目的として、日本の経済発展に関する技術や知識を提供し、日本とベトナムのビジネスや人材育成に関するプログラムを提供している。こうした各機関の強みや魅力を活かす形で、本インターンシップの各種交流プログラムが設けられており、帰国後、本インターンシップ実施後の成果報告を行う。
 愛知大学及び本学部は、東三河地域のさらなる発展のために、地域現場での体験に基づいた「地域貢献力」とグローバルなマインド・経験を併せ持つ「グローバル人材」の育成をより一層強化していく必要があると考えている。今回ご紹介した学部特化型のインターンシップはもちろん、今後地域現場での体験から寄せられると思われる多様なニーズに十分応えられるカリキュラムや諸資格課程の充実に努めていきたいと思う。さらに、今後はこうした取組を多くの方に知っていただき、受験生・市民の方から選ばれる大学になることが重要であると考える。愛知大学は1946年の豊橋キャンパス誕生より、東三河の地で皆様と共に歴史を刻み、多くの卒業生を多様な分野で輩出し、地域の皆様との信頼と絆を豊かに育んできた。こうした本学ならではの強みを活かし、本学部では、東三河の地から多くのグローバル人材を、責任と誇りを持って今後も育て送り出していきたい。
 尚、本学部特化型ベトナムインターンシップは、株式会社森田グループ様、クレイベトナム株式会社様の海外教育プログラムにより実現に至りましたこと、感謝するとともに皆さま方にご報告致します。

講演要旨② 
 最初に学校の役割について話をする。キーワードは、「地域の子どもは地域で育てる」である。18歳になる高校3年生の時に選挙に参加する時、子どもたちは市民として初めて地域に向き合う。地域と世界で活躍し貢献する市民になるためには、生まれ育ったふるさとへの愛着を持つことが大切になる。そのために、高校を卒業するまでは地域の学校で学び、その上で世界に羽ばたいてほしいと考えている。本校は、地域の子どもを地域で育てるための学校としてアップデートするために、中高一貫教育を導入する。
 東三河の人口は急速に減少しており、今後は中山間地域や半島地域をはじめ都市部の人口も減少、特に若者人口が急速に減少していく。2035年には、愛知県全体で現在から約1万人の高校入学者数が減り、東三河においては1,683人減ることが分かっているため、東三河の公立高校はサイズダウンするかもしれない。こうした中、東三河にはひとつしか高校がない地域がいくつもあり、学校がなくなると子育て世帯が流出するため、その地域は消滅する可能性がある。学校は、電気やガス、水道と同じように地域において必要不可欠な社会インフラである。日本全体が人口減少する中、定住人口の確保はなかなか難しいが、学校や仕事、観光などによる交流人口や活動人口を確保することは十分に可能であり、そうした意味において地域に学校を残すことは、地域の持続可能性に大きなメリットをもたらすため、人口減少地域に見合う持続可能な学校づくりが求められているといえる。
 人口減少地域に見合う持続可能な学校づくりを理解いただく参考として、私が校長を務めた3つの学校の取組を紹介する。最初は福江高校である。就任当時の福江高校は、定員割れが続く苦しい状況にあった。活性化するには、生徒の定員を満たし、教育活動を盛り上げることが大切であると考え、定員割れがなぜ起こるのか原因を調べた。人口減少に伴い、田原市内の中学校3年生の数が年々減っていく状況の中、3人に1人が市外の学校へ進学する状況により定員割れとなっており、地域の子どもから選ばれる魅力的な学校づくりが必要だと分かった。そこで、「新たなニーズとは何か?」を知るために、生徒全員を含め、教職員・保護者・地域の方々から聞き取りを行った。その結果、一人ひとりの多様な特性に関わらず、地域のあらゆる子どもたちが合理的に学べる「インクルーシブな学校」であってほしいとのニーズがあることが分かった。当時、田原市内には特別支援学校がないことが積年の教育課題であり、渥美半島の先端近くで生まれた障害のある子どもは、遥か遠くにある学校へ通学せざるを得ない状況であった。そこで、障害のある子どもたちのニーズがどれくらいあるかについて調査し、小さな特別支援学校を作る程度の需要があることが分かった。ここで思い浮かべたのは、中山間地域にある田口高校に併設された、「山嶺教室」である。「山嶺教室」は、中山間地域の障害のある子ども達のために設置された、豊橋特別支援学校の分教室であり、田口高校は地域の名門校で人口減少のために定員割れが続いているが、「山嶺教室」の併設もあり、地域に必要不可欠な学校と認識されている。そこで、「山嶺教室」のような分教室を、福江高校も備えれば、大きなメリットが生まれると考えた。地域の方々や県教育委員会に相談したところ、当時の教育方針とも合致して話が進み、わずか1年ほどで福江高校の中に豊橋特別支援学校の分教室である「塩風教室」が設置された。「塩風教室」の設置にあたり重視したことは、高校との接続を円滑にして多様な特性を備える子どもたちが学べるインクルーシブな学校を作ることである。発達障害や学習障害のある子どもたちを支援するために、「通級による指導」を取り入れ、通常学級と「塩風教室」の間がきれいにつながる学校を作った。こうした学校づくりが地域の方々からの共感を呼んだ結果、翌年の高校入試では9年ぶりに定員を満たし、V字回復をさせることができた。
 福江高校で3年間勤務した後、豊川市内にある御津高校、現在の御津あおば高校の校長として異動した。御津高校は、英語の専門学科があり、「あいちスーパーイングリッシュ・ハブスクール」に指定されるなど、東三河の英語教育の拠点校である。御津高校には、ブラジルやフィリピンなど、外国にルーツのある多様で素晴らしい生徒たちが大勢学んでおり、多くの生徒が、ポルトガル語やスペイン語、英語に堪能なマルチリンガルであるなど高い言語能力を備えていて、県立高校というよりも、インターナショナルスクールといった雰囲気のある学校である。こうした特色ある御津高校であるが、就任当時は、大幅な定員割れが続き苦しい状況であった。生徒をはじめ、教職員・保護者・地域の方々など、大勢からの聞き取りを行った結果、外国にルーツのある人たちにとって日本語指導のニーズが非常に大きいことが分かった。これは日本全体の教育課題のひとつであり、愛知県は日本語指導が必要な子どもたちの数が全国でもトップレベルであり、愛知県の教育にとっても喫緊の課題であった。東三河にとっても、外資系企業や農業などの働き手として外国人材が不可欠であり、彼らの子どもたちのための教育インフラを整えることが非常に重要である。しかし、日本語指導を充実させるだけでは全く足りないことも分かった。日本語指導を必要とする子どもたちの多くが、言葉の困り感を抱えて不登校の状態にあった。また、外国ルーツの子どもだけではなく、多くの学校に不登校の子どもたちが大勢いて問題になっている。そこで不登校である子どもたちの困り感を解消する手立てがあれば、より多くのニーズを受け入れることができると考えた。さらに、人数は多くないが、病気や怪我などで長期療養している子どもたちの教育の機会の確保にも対応することとし、いま多くの学校で拡がりつつある、いわゆる遠隔授業につながる仕組みを取り入れた。こうした多様なニーズに応える学校づくりについて県教育委員会に相談したところ、高校再編の大きな流れに乗ることができ、新しいタイプの学校として御津あおば高校をスタートすることになった。
 御津あおば高校では、全日制単位制の仕組みを取り入れ、生徒一人ひとりのニーズに応じた個別最適な学びができるようにした。また、少人数の昼間定時制を新たに併置し、日本語指導を必要とする外国ルーツの生徒や、学び直しを必要とする不登校経験のある生徒が、4年間かけてゆっくりと学べる仕組みを取り入れた。さらに、困り感を解消できず進路変更する生徒のために、学校を辞めなくても在籍途中で全日制と昼間定時制を校内で異動できる仕組みも取り入れ、外国ルーツや不登校であるなど生徒一人ひとりの多様な特性に関わらず、地域のすべての子どもたちが合理的に学べるインクルーシブな学校づくりを進めた。その結果、翌年の高校入試において当時最高倍率の7.48倍に達するなど、大勢の子どもたちが学びたいと感じてくれる地域の学校にすることができた。
 御津あおば高校で3年間勤務した後、時習館高校へ異動し、中高一貫教育と国際的な教育プログラムの導入というミッションに関わることになった。時習館高校は、東三河のトップ校、創立以来130年の歴史を誇る伝統校、社会や時代をリードする人材を育てる拠点校といった特徴があり、自らの人生の理想の最高峰にこだわる学校である。イギリス、ドイツ、そしてマレーシアに4つの海外姉妹校を持ち、幅広い国際交流を経験できることも大きな強みであり、世界に羽ばたいて活躍したい地域の子どもたちを応援している。加えて、東三河で唯一の「スーパーサイエンス・ハイスクール(SSH)」であり、高いレベルのサイエンスを学びたい地域の子どもたちにとっての魅力となっている。
 本校は2026年度(令和8年度)からの導入を目指す、中高一貫教育と国際的な教育プログラムで大きく変わろうとしている。この背景には、県立高校が抱える深刻な定員割れの状況において、県民のニーズに応える持続可能な学校づくりに積極的に取り組む必要があり、東三河においてその役割を担う学校として本校が選ばれた。さらに、世界には人口減少をはじめとする答えのない課題が山積し、子どもたちには、答えのない課題に向き合い、果敢にチャレンジし、探究し、自ら答えを導き出すことが求められている。こうした人物像を県教育委員会は「チェンジ・メーカー」と呼んでいる。これからの時代を担う「チェンジ・メーカー」を育成するために、本校は中高一貫校へとアップデートするのである。このミッションを実現するために、本校に対するニーズを明らかにすることから始めた。生徒や教職員、保護者、地域の多くの方々から聞き取りを行った。その結果、生徒たちの多くが、「世のため、人のために貢献したい(ノブレス・オブリージュ)」と望んでいることが分かった。また満足度が90点を超えるなど、学校や地域に対し深い愛着を感じていることも分かった。こうした捉え方は、高校生活だけで達成できるものではなく、地域とのつながりによる「学びの物語」を通して実現できるものであり、東三河のすべての学校ネットワークにおいて、本校が果たすべきミッションという視点から捉える必要があった。アップデートする本校は、これまで以上に多様な個性を持つ地域の子どもたちを受け入れていく。
 ここで当校の中高一貫教育について具体的に説明する。愛知県における中高一貫教育の1次・2次導入校11校のうち、本校を含む7校は、探究学習重視型の中高一貫教育を導入する。探究学習とは、身近なことや興味関心のあることから課題を設定し、情報を収集、整理分析しまとめ、表現をするものである。その過程で知識やスキルを習得し、これらを何度も繰り返しながら最適な答えや誰もが納得できる答えに近づいていく学習である。探究学習重視型の中高一貫教育では、問いを立て続け、互いの良さを活かし積極的にチャレンジする人、将来社会に変化を起こす「チェンジ・メーカー」を育成する。中高6年間の教育理念は、『自他及び社会の幸せ(ウェルビーイング)の実現を目指し、多様性を尊重し、未知なる課題に対して正面から向き合い、「自ら考え自ら成す」の精神で行動できる人材を育成する』である。附属中学校の教育課程は週30時間・1日6時間授業となる予定であり、総合的な学習の時間を週2時間以上とし、3年間で国英数と芸術科目をバランスよく増やして表現力と対話力を重視し、文系理系に偏らない、高い感性と教養を備える人材の育成を目指す新しい高校の学びにつなげていく。授業後には、「自考自成タイム」を設定し、部活動は開設しない予定である。授業後の時間の使い方を自分で考えて自分で決める。その上で、中学生が高校の7限授業を受講できる仕組みを作ろうと考えており、中学校段階で高校生と同じレベルの授業を受講できるようにする。また附属中学校では、総合的な学習の時間だけではなく、言葉や概念など基本的な知識やスキルを身につけるためにすべての教科で探究学習を行う。
 総合的な学習の時間については、2つの展開を考えている。1つ目は3学年混合で行う「探究ゼミ」である。生徒が自分の興味のあるゼミを選択し、探究していく機会とする。2つ目は「総合探究」である。学年ごとに、共通のテーマを決めて探究を深めていく。附属中学校では、40人を単位とする「生活クラス」を2クラス設ける。朝や帰りの会、給食、道徳や特活の授業に取り組むものである。それ以外の場面は、「授業チーム」に分かれ、国際的な教育プログラムは少人数指導が標準なので、27人程度を単位とする3つの授業チームを構成する予定であり、このように多くの場面で少人数指導を行い、他者と関わりやすい環境のもと、きめ細かく支援できるのが附属中学校の特徴となる。附属中学校の校舎は、本高校の敷地内に建設する予定であり、第1期生となる現在の小学5年生が入学する頃には、新校舎と新体育館が完成する。高校と同じ2階建ての校舎となり、中を光や風が通り抜ける開放的な素晴らしい学校になると期待している。
 高校もこれまで以上に圧倒的に魅力的で持続可能な形へアップデートする必要があるため、ポイントをいくつか説明する。まずは、令和8年度の高校入学生から、「全日制単位制高等学校」へ改編する。全日制単位制高校とは、学年による教育課程の区分を設けず、決められた単位を修得すれば卒業が認められる高校であり、愛知県の進学トップ校としては、初めての単位制高校となる。特色としては、自分の学習計画にもとづいて、興味・関心などに応じた科目を選択し学習できること、学年の区分がなく自分のペースで学習に取り組めること、などが挙げられる。必ず履修しなければならない科目(必履修科目)は、1年次からできるだけ多く受講することを想定し、2年次以降は、一人ひとりの興味関心や進路希望などに応じた多様な選択科目を設けることにしていて、先程述べたように第7限の科目は中学生も受講できることが本中高一貫校の大きな特色になる。選択に困らないようにあらかじめ4つのコースを設定し、一人ひとりにとって最適な科目選択モデルを示すとともに、各コースは興味関心や進路希望などに合わせてカスタマイズできる形である。コースのイメージとして、①「国際的な教育プログラムコース」は、国際的な教育プログラムの取得希望者を対象とする予定であり、外国語(英語)に加えてもう1科目を英語で学び、資格を取得することで、国内外の大学進学への足がかりにして多様な進路希望の実現を目指す。これまでは東大や京大等の国内難関大学を目指すことのできる学校であったが、これからは海外の有名大学への進学も叶う学校になる。②「探究コース」は、総合的な探究の時間を2時間連続とし、SSHのようにより深い探究活動に取り組めるようにする。③「理型コース」と④「文型コース」は、習熟度別の標準科目と基礎科目を組み合わせて選択し、個別最適に学べるようにする。各コースとも、理型・文型の科目が大きく偏らないよう教養に必要な国数英を重視する予定である。他にも国際的な教育プログラムとして、附属中学校と連携し「日常的な国際交流」を推進しながら、海外姉妹校との間で、オンラインによる日常的な国際交流、留学生を積極的に受入れ校内で交流できる機会の充実、海外研修旅行などを企画し、在学中に外国を訪問する機会を設けることの検討なども進めていく。加えて中長期にわたる留学や、海外の大学を希望する生徒を積極的に支援するとともに、「留学先の学校で得た単位を本校の単位として認定」する仕組みを検討し、「2学期制」へ移行して学期の区切りを9月頃にし、春とともに「秋に卒業する」という概念を取り入れた海外留学や進学の推進も検討する。
 こうして本校は、多様な特性やキラリと光る個性にもしっかりと対応できるよう、中高一貫したサポート体制を整えていく。生徒の満足度の向上や困り感の解消に向けて合理的に支援し、いわゆる「ギフテッド」である生徒のためのサポートも取り入れる。また、中高合同の教育活動も充実させ、例えば「高3・中1」など、年齢の異なる生徒たちが互いに交流する機会を積極的に取り入れる予定である。アントレプレナーシップ教育にも積極的に取り組み、この教育で身につける心構えは、「チェンジ・メーカー」の人物像とぴったりと重なるものとなる。アントレプレナーシップ教育の取組例として、学校設定科目の医学探究(案)を検討しており、医学探究(案)では、医療分野への進路希望や興味関心のある生徒たちが、医療分野における自らの人生の理想について深く探究し、中学生も受講できるようにすることを想定している。こうして本校中高一貫校は、地域の子どもたちのためのインクルーシブな学校づくりを進めていき、才能ある地域の子どもたちが東三河の中高一貫校でしっかりと学べる学校づくりに取り組んでいく。歴史上初めて人口が大きく減少に転じるステージを迎えているが、中高一貫教育は本校の歴史における大きなチャンスになるものと考え、東三河の学校教育の「チェンジ・メーカー」として取り組んでいく。