2025.2.25 第484回東三河産学官交流サロン
1.日 時
2025年2月25日(火)18時00分~20時30分
2.場 所
ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス
3.講師①
豊橋技術科学大学 機械工学系 教授 横山 博史 氏
テーマ
『ものづくりにおけるデジタル技術の活用』
講師②
マルシメ株式会社 代表取締役社長 大熊 康丈 氏
テーマ
『化石化しないための其ノ一、老舗油屋の悪あがき』
4.参加者
55名(オンライン参加3名含む)
講演要旨①
私が所属しているのは、機械工学系の省エネルギー工学研究室である。研究している内容は、空力騒音の低減を中心に、全般的に環境負荷の低減を目的としている。CO2回収技術の開発や、工場の排熱や冷熱の有効利用、空力騒音の音のエネルギーの有効利用といったものも含めて、全体的に環境負荷を低減することを目指している。
学問的な分野としては、聞きなじみがないかもしれないが流体力学という分野になり、水や空気の流れを扱う学問となっている。音・熱・電気など他の分野とも関連した学際的な問題に挑戦している。空力騒音の定義は、空気の流れから出る騒音であり、特に気流中の渦などが原因で発生する。渦と音には関連がある。
空力騒音は多くの機械的な機器で問題となるが、特に冷却ファンなどの流体機械や新幹線・飛行機・自動車などの高速の輸送機関において顕著である。空力騒音は、速度の6-8乗に比例して急速に大きくなるという性質があり、これが輸送機関の高速化を進める中で問題になっている。空力騒音について、乗員により快適な環境を提供するという意味でも静粛性は重要であるが、より早く場所を移動することを実現するため、非常に重要な要素と思い研究をしている。この研究のアプローチとしては実験と数値解析の2つがある。実験は主に風洞実験であり、風洞というファンにより人工的に風を流す装置に測定対象モデルを設置し、周囲の流れや音を測定するやり方である。もうひとつの数値解析は、スーパーコンピューターなどの計算機を利用し、流体現象を支配する方程式を基に流れ場や音場を予測するやり方である。こうした実験と計算を両輪として研究を進めている。
ここで、実際に3つの具体的な形状での話をする。最初の例は平板列である。平板列とは、自動車のグリルやマンションのルーバーなど平板が並んでいる形状のものになる。マンションのルーバーに強い風が吹いている状況を考えると、平板列が振動して音が発生するわけではなく、風が渦を作って平板列の周りの気体が振動することで音が発生し、特定の周波数で強くなるという特徴がある。数値解析について具体的にスーパーコンピューターを使ってどのように計算をするかというと、平板の周りの空間に計算格子といわれる格子で区切っていく作業を実施し、格子点の集合体として空間を表現する。そのため、この計算格子の細かさが計算精度に大きく影響する。ここで流体や音の方程式は「Navier-Stokes」方程式を使用するが、これを計算するには結構複雑な方程式であるため、スーパーコンピューターが必要になる。全体的な計算の大きさとしては、48個のCPUが入ったノードを400個使用して行う場合が多い。計算からは場所における圧力の高低や、音が伝播していく状況、渦の発生などが確認できる。計算が合っているかどうかを確認するために、流れのさまざまな特徴量を実験結果と比較していく。比較する代表的な特徴量の項目としては、平均速度の分布という流速、スペクトルというどの周波数で変動が起きるかというもの、コヒーレンスという2つの場所間での関係性がある。また、こうした特徴量は十分な時間と確認が必要である。統計量は時間の長さを変えて比較を行い、高次統計量は特に長い時間と平均回数を必要とする。こうして音の発生機構を解明すると、音を減らす知見ができるようになる。
制御の例として、プラズマアクチュエーターといわれる流体制御のデバイスを紹介する。これは電気的なエネルギーを使って流れを制御できるデバイスであり、誘電体を挟む2枚の電極に高周波数・高電圧を加えると壁面に沿う誘起流が発生する。大体10kVぐらいの交流で、10kHzぐらいで振動する電圧を与えるとプラズマが発生するが、プラズマは気体が電離したものであり、気体が電離すると正と負に帯電するために、一方向に気流を発生させることができるというメカニズムになっている。また、電気的にオン・オフを切り替えられるために、比較的時間応答性も早いというメリットがある。そして、非常に薄く0.1ミリメートルといったオーダーも可能なので比較的どこにでも貼りやすい。プラズマアクチュエーターを使ってオン・オフを比較してみると、オンの場合気流の渦が制御されて空力騒音が軽減されている。
次の事例は溝部(キャビティ)周りからの空力騒音である。皆さん新幹線の車両連結部分がラバーで覆われているのを見たことがあると思うが、このラバーがキャビティ音を防ぐ目的で設置されている。飛行機も着陸するときに着陸装置格納部から着陸の車輪が出てくるが、車輪が出たときにこの格納部分にキャビティができていて、結構強い音が発生してしまうという問題がある。新幹線も飛行機も乗客に対してという面もあるが、周辺環境のために空力騒音を減らさなければならない。新幹線の場合は沿線住民の生活環境、飛行機の場合は空港周辺の生活環境に加えて、基準のデシベル以下にしないと着陸するための空港の使用料金が変わってきたりすることもあるので結構シビアな話である。
このキャビティ音に対しても数値解析と実験の両方やっている。キャビティという溝部を通る流れに渦ができて、その渦とキャビティ角部の衝突により音が発生する。風洞実験では、流速によって渦の個数が変化することが観察された。数値解析においては、先程の平板列と同様に流れ場や音圧スペクトルは格子解像度によって結果が大きく変わる。細かい解像度で計算すると細かい渦構造や乱流も予測できようになってきており、まだ現象を完全には捉えていない状況であるものの、しっかり計算をすると実験の結果を計算でかなり再現ができるようになっている。キャビティの後ろの端部に渦が1回ぶつかるときに1回波が出るため、1秒間に何回ぶつかるかというのが結局周波数になっている。実験では、キャビティの上流部で渦を壊すように下から空気を当てて空力騒音を制御するといったことを検証している。
最後にファンの話を少しする。ファンは、羽がついていて風を送る装置であり、飛行機・自動車・パソコン・空調機など身の回りの製品のいたるところで使用されている。このファンに昨今求められる重要な性能が2つあり、それは条件の悪い場合でもたくさん風を流すことと、作動に伴い発生する音を小さくすることである。ファンから発生する音は、設置環境と回転数によって大きく変わってくるが、こちらも前の2例と同様に数値解析を用いた音場の可視化が可能である。狭いダクト幅に置いたときには強い圧力となり、広い場合より共鳴現象が発生しやすくなって縦笛のような非常に強い音が出る。これが計算できるようになると、ケーシングの形状や、プラズマアクチュエーターの制御もできるようになり、どう制御すれば音を減らしながら流量を出すかがシュミレーションできる。
これまでの研究として、流体力学は最初に述べたように私の専門であるが、音響学や電気力学、プラズマアクチュエーターといった電気的なものも組み合わせて制御していくことと、計算力学というどのように計算機をうまく活用するかといったところを連携させて研究をやってきている。今後の課題として、これまでは計算機性能の発展とともに解析精度が向上してきたが、今後はこの傾向が鈍化する可能性が高く、工夫がより必要になると考えている。また、現状でもまだ全ての流体の現象を捉えきれているわけではないため、計算機の伸びが鈍化してくる状況でうまくやるためのモデル化が必要になってくる。そのひとつの解として、AIなどの機械学習をうまく使っていくことがあると思っている。
私は日本機械学会に所属しており、流体工学部門や計算力学部門などで幹事を務めることもあり、学会の会場として地域の施設を使わせていただくなど近隣の皆様にもお世話になっている。アカデミックに携わる者として、学会の中で議論していくことが非常に重要と考えており、引き続きご協力いただければと思っている。
講演要旨②
マルシメ株式会社は明治43年に創業し、現在115年目を迎えている。主力商品は「石油」という化石燃料である。マルシメという社名の由来は〇と〆から来ており、地元と関係が深い事業を中心に行っている。私は、1991年に社会人になり最初はゼネコンである三井建設株式会社に入社し、現場事務から始まりその後不良債権対応などを行っていた。同社を退職し、私は財務の傷んだところなどで作業をすることが一番合っていると感じて、事業再生のフリーのコンサルタントになった。その中で、製造業のグループ化をするという仕事に携わり、複数の中小製造業のグループ経営の実務をコンサルタントと両立する生活が始まった。縁があって2022年の7月にマルシメ株式会社の代表となり、引き続きコンサルタントも続けている状況である。そうした中で私が当社に来て早々に感じたところが、カーボンニュートラルの話と、車の燃費が急速に向上している現状である。先程製造業のグループ化に携わったと話をしたが、私が以前役員を務めていたグループの基幹的な会社は、ハイブリッド車やEVなどモーターで動く車の主要部品を作っている会社であり、2018年ぐらいから年率15%から20%ぐらいの増収増益が続いていた。当社は、この全く逆の方向であり燃料が半分ぐらいしか売れなくなるのではと危機感を持った。また人口減少が進み、地域経済もシュリンクしていくことが予想されるため、このまま放っておくと当社が化石になってしまうと考え、脱「化石燃料」にチャレンジしたらどうなるかということにフォーカスして事業を進めている。
最初着手したことについては、いろいろな事業を多角的に行っていたため、あらためて事業セグメントの整理をした。また、ミッション・ビジョン・バリューといった経営の方向性を整理するなど、できることから進めている。事業のセグメント整理という側面で言うと、2本の柱としてまず、暮らしのソリューション提供するという事業である「ライフソリューション」がある。これはガソリンスタンド事業を出発点としたモビリティ関連の事業に加えて、プロパンガスの事業及び雑貨店の事業から派生した住環境のところをより融合させて暮らしのソリューションに向かっていくというものである。もうひとつの柱が「ビジネスソリューション」であり、産業向けにこれまでは燃料や潤滑油をただ売るだけであったが、今一度見つめ直して、農業向けにできること、工業向けにできること、商業向けにできることということで整理をして、「ビジネスソリューション」という大きな柱を掲げている。
外部の方から当社は新しいことをいろいろやっているとか、多角化しているとよく言われるが、実は逆だと思っていて、これまで多角化的にやってきたことを整理整頓しながら、時流に合わせた見せ方、売り方で進むべきという考え方で実行している。そういう意味では、目新しさは感じられると思っており、大きな方向性のひとつは先程申し上げた脱化石燃料依存ということである。石油製品に収益の柱を依存している状態であったため、「ライフソリューション」としてガソリンスタンドの事業から総合モビリティ事業へ移行し、最終的に「暮らしのソリューション」の提供を実現していく。
産業系の「ビジネスソリューション」で言えば、農業について今のところ大きく考えており、ドローンを使った農薬散布を開始し、スタートアップが開発している農業ロボットのシェアリングなども計画している。他に社会問題解決型事業としては、地域の方に支持されないない限りはうまくいかないと思うため、環境問題、少子高齢化問題、地域経済の活性化を重視している。
「ライフソリューション」の大きな柱であるモビリティ事業を進めるのにあたり、あらためてガソリンスタンドが持っている機能、社会における役割を考えてみた。車に燃料を入れる、あるいはオイル交換など整備やメンテナンスをする場所。これは車が車としてしっかり機能するためのサービスを提供する場所であり、その車は移動するためにある。パーソナルモビリティとして個人個人が移動するための乗り物、移動手段であれば別に車である必要はないこと気が付き、行き着いたコンセプトは「乗るもの、乗りかた、自由自在」である。豊橋を含めた地方都市では、1人1台の車を所有するライフスタイルである。1人1台がもたらす環境問題や渋滞、また高齢者など免許返上をしなければならない世代の移動手段の問題にもつながってくる。そこでマイクロモビリティと呼ばれる電動キックボードからシニアカーまで含めて取り扱いをしよう、乗り方も所有ではなく必要な時に借りるといった乗り方もあるというところで事業展開をしているのがモビリティの事業である。先週末にもリリースしているが、「HELLO CYCLING」という自転車や電動サイクルなどのシェアリングサービスは、OpenStreet株式会社という2016年に設立されたソフトバンク系の会社が運営しているものであり、そのステーションを豊橋鉄道様と連携して増設した。OpenStreetのコンセプトは交通結接点になるシェアモビリティプラットフォームであり、自転車だけではなく、電動のスクーター、1人乗り用の小型EVなどが置いてあり、そうしたEVスクーター用などの交換バッテリーがステーションに用意されていて交換する場所というのが彼らの考え方になっていて、非常に共感を抱いて「HELLO CYCLING」を展開している。
「ライフソリューション」として雑貨店もやっている。三ノ輪町で「monoPLACE」という店舗を運営しているが、そこに少し手を加えてマイクロモビリティの展示販売もしており、いろいろな意味で新しい暮らし方の気づきの場になってもらいたいと考えて、当初は全フロアが雑貨店であったが、半分を多目的スペースに変更した。
「ビジネスソリューション」における農業分野において先程も話したように産業向けでは農業を今のところ一番重視している。ドローン以外にもビニールハウスにおいて、ビニールを取り換えるのではなく、植物由来の洗浄剤を使って洗うという選択肢を提案している。
また、東北大のスタートアップの輝翠TECH株式会社が豊橋市の協力も得ながら豊橋市内の柿農園で何度か実施した実証実験にも参加をした。そして、豊橋技術科学大学の高山教授のプロジェクトで、セミクローズド温室という環境を用い、完全に温度・太陽光・CO2を管理して光合成を極大化するという技術の実証実験において、当社グループの産業廃棄物の焼却処理施設を活用し、焼却炉から出る熱及びCO2の有効活用可能性についての実験に、4月ぐらいを目標に着手する予定である。他にも、環境商材の供給や開発支援を行っており、その中でも株式会社abulaxという廃食油を潤滑油、とりわけ工業用の加工油のようなものにリサイクルをやっている会社が豊橋市内にあり、その開発途上において製品分析のお手伝いをしたり、廃食油の回収とリサイクルされた加工油の販売を当社が担当している。それ以外にも少子高齢化に対応した事業として、介護施設向けの商材も取り扱いをしており、配膳車や地元の紙おしぼりの会社の商材など扱っている。
最後に、地域活性化という中で、これも昨年の7月に東三河スタートアップ推進協議会に入会して地域の起業家支援をやっており、他にも、他地域のスタートアップやベンチャー企業を誘致してこの地域で活動することを応援する取組を始めている。株式会社Liremという2021年に設立された豊橋市内のスタートアップの会社が、当地の起業化支援をするために主催している「火-okoshi」というイベントに協賛しており、また同社に協力を依頼して「monoPLACE」を会場に、モビリティハッカソンという大学生を対象としたモビリティでどういったビジネスが考えられるかを語り合うイベントを開催した。他にも株式会社イノカという2019年に設立された東京の海洋技術系のベンチャー企業と教育イベントを共催で実施した。同社は世界で初めてサンゴの人工産卵に成功しており、地上の水槽の中に海洋環境を再現することがコアテクノロジーの会社である。藻が生い茂る昔ながらの渚を再生しようというひとつのコンセプトの中、海の無限の可能性、海という資源をどう観察して知って、それを産業上どう活かしていくかといったことを、長い目線で考えるシンポジウムを定期的にやっていくプロジェクトである。三河湾がある東三河において、3月にキックオフするので皆さんにも応援・参加いただきたいと思っている。