2022.02.22 第448回東三河産学官交流サロン 1.開催日時 2022年2月22日(火) 18時00分~19時30分(※時間短縮) 2.開催場所 ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス 3.講師① 株式会社豊橋バイオマスソリューションズ 代表取締役社長 熱田 洋一 氏 (豊橋技術科学大学 客員准教授) テーマ 『バイオマス利活用事業をもっと身近にもっと確実に~(株)豊橋バイオマスソリューションズが考える脱炭素・地域資源循環型社会~』 講師② 株式会社ジュトク 代表取締役社長 上村 哲司 氏 テーマ 『倒産事例から学ぶ 景気後退期2年目の戦略』 4.参加者 63名(内、オンライン参加者 17名) 開催案内(ダウンロード) 講演要旨① 「株式会社豊橋バイオマスソリューションズ(TBS)」は、2021年5月に豊橋技術科学大学発のベンチャー企業として設立された。事業拡大により役員を3名まで増やし、建設業許可を取得して設備設置まで行っている。「新技術開発でバイオガス技術をもっと導入しやすいように」、「工学的コンサルティングで持続性の高いバイオガス事業に」をキャッチフレーズに、バイオガス技術の導入における障害を取り除き、持続性の高い事業計画の策定を支援している。 バイオガスの各要素技術はよく知られた既存技術でも、採算性を含めシステム全体のバランスを計画することが難しい。微生物群集の働きを使って廃棄物等から再生可能エネルギーであるバイオガスを生成するメタン発酵システムは100年以上前からあるが、機械的なものの組合せや消化液利用の工夫など、継続的にしっかり管理していくには専門性が必要である。 そもそものきっかけは、愛知県流域下水処理場における「豊川バイオマスパーク構想」(メタン発酵が中心技術)である。愛知県豊川浄化センター内の豊橋技術科学大学実験場(豊川バイオマスパーク)では、家庭生ごみ(2ヵ月間、385世帯から分別収集)と下水汚泥(脱水ケーキ)を混合し、水熱処理設備と超小型メタン発酵設備を通してバイオガスを生成し、発電・CO2熱に利用している。 バイオガス事業には、様々な課題ある。ハード的な課題は、アンモニア阻害や酸敗への対応など、微生物の適正な生育環境を整える必要があること、また大規模な工事が必要でありスケールメリットの小さい小規模事業者は導入が困難であることなどが挙げられ、新技術開発、設備販売が必要となる。また、ソフト的な課題は、検討すべき項目や法的規制が多いこと、情報・経験の不足、専門人材の不足、排出事業者ごとの差が激しいなどが挙げられ、実験データを活用した工学的なコンサルティングが必要となる。 課題として一例を挙げると、価格面では100kw施設の資本費は平均値で24,400万円かかり、総事業費は発電設備本体の1.5~3倍程度となる。また、法制度面では原料が想定通り集まらない、発電量が少ない、前処理能力が小さいなどがある。これらの課題に対して、豊橋技術科学大学発の新技術である①メタン発酵において阻害を引き起こすアンモニアの除去・回収システム、②超小型メタン発酵システム、③発酵助剤製造システムを活用し、様々な人がメタン発酵を導入できるよう課題解決に挑戦している。 バイオガス発電の導入には様々な検討事項があるため、豊橋技術科学大学発の知見を活かし、事業の可能性検討(1ヶ月)、施設の詳細設計/事業計画立案(6~10ヶ月)、プラント施工(4~12ヶ月)・立上げ(2~6ヶ月)、運転管理の支援まで、持続性の高い事業成功に向けた支援を実施している。また、できる限りデータを採取して、これらの情報に基づき基本設計、実施設計を行っている。メタン発酵分野は1社だけでは不可能であり、設備メーカー、中間処理業者、エンジニアリング会社など異業種分野を含めて様々な企業と連携体制を構築している。 「株式会社豊橋バイオマスソリューションズ」は、地域分散型のバイオマス利活用設備導入とこれをつなぐ合理的なネットワークの構築により、豊橋技術科学大学発のベンチャー企業として、循環型社会の構築に積極的に取組み、地域活性化に貢献している。 講演要旨② 私は株式会社ジュトクの代表取締役であり、筑波大学人文社会ビジネス学科学術院ビジネス化学研究群に所属している。社会人になり再度大学に入学し、景気後退期と広告政策の効果について研究。その後、筑波大学学術院博士前期課程で「所有と経営の一致する企業の永続性」について研究。現在は同大学院の博士後期課程に進学し、ガバナンス、倒産分析、管理会計の分野を研究。テレワークを利用し、自身の活動拠点を都内へ移している。 株式会社ジュトクは、企業・団体向けの販売促進品の企画、製造、販売、管理・物流、分析まで行っており、現在は「人の消費を科学する」をテーマに東三河の立地的利点(地理的、空間的、時間的)を生かし事業を展開している。 「働き方改革」を耳にするようになり、コロナ前からテレワークを標準化した。顧客に会えない状況や距離のハンディキャップがなくなり、地方の可能性(距離と空間と人材)を見出した。変化とポイントとしては、地域を問わない雇用の多様性、コミュニケーション頻度と情報アクセス、会社の状況に合わせた独自の教育、目的の共有と評価の透明化などが挙げられる。テレワークの現状としては、Zoom会議、コワーキングスペースやサテライト環境の充実、在宅ワークなどの選択肢が増えたと一方、遠隔勤務での意思・ベクトル調整や途切れた情報の連結など、都内の企業の課題も浮き彫りになってきている。 「倒産事例から学ぶ、景気後退期2年目の戦略」における「倒産」についてお話させていただく。何故、2年目か?1年目は把握と対処、差が生じるのは2年目の順応であり、以降起こる予期せぬイベントに対応する必要がある。有名企業代表の成功例の講演会を聞いても、参考にはなるが、代表者の資質、会社のリソース、環境、時期などの要素から再現性は期待できない。ある会社の倒産・動向記事を読むと、「しかし」のあとに必ず共通した単語が出て来る。倒産事業に関するキーワードを調査したところ、「同業他社の競争」が185件でトップであり、上位30個のキーワードの内、外部環境変化によるものが13件、内部環境変化によるものが11件、その他が6件であり、企業の成功には明確な法則性はないが、失敗には何らかの法則性があるもの思われる。倒産確率(SAF2002)は4つの変数を使った「重回帰判別式」であらわされるが、所有と経営の立場から企業が永続する、つまり倒産を回避し、持続的成長のための追加の要因について現在研究を行っている。 次に「広告」についてお話させていただく。「景気が悪いから広告費を削られて予算がない」と営業担当者から聞くことがあるが、それは真実なのか?広告には、プロモーション(短期的効果:売る力)、コミュニケーション(中長期効果:共有力)、リレーション(長期効果・ブランド力:守る力)という3つの効果がある。景気後退期に最も削減対象となる経費3Kは、交通費、交際費、広告宣伝費だあるが、広告はその企業や商品の存在を示す「社会へのアナウンス」であり、なくなると認知されなくなる。後退期以降でも売上が下がらなかった企業では、売上と広告費では高い正の相関関係を示している。後退期2年目以降で、広告費に積極的だった企業は売上高を基に戻す期間は6年であったのに対し、広告費に消極的だった企業は売上高を元に戻す期間は8年でも戻らないという研究結果がある。2年目の戦略としては、減らす企業と維持する企業ではその後に差ができること、また後退期は広告費のコスパが変化すること、プロモーションとリレーションとしての広告を利用する企業の存在があることを注視する必要がある。景気の後退期に広告費を増やす企業や業界は存在するのか?消費者金融、外資系企業はポイントとなるが、業界単位では鉄道・バス、窯業が積み増しを行っているという分析結果を出した。鉄道・バス業界が増加する理由は、基本的に競合がないこと、沿線に開発したタワーマンションの購入や観光地・アミューズメントへの誘導、電車の中刷りやラッピング、他の業界からの広告減少などが要因と考えられる。また、衛生陶器業過が増加する理由は、社名を記憶させる戦略と後退局面での広告費用効果が高いことが要因と考えられる。 まとめとして、倒産事例から学ぶ景気後退期2年目の戦略としては、環境変化に伴って生じるコントロールできない要因に対して平時からの備えと制御機能が必要である。また、広告費は、後退局面といえども特性を活かした行動をとる企業が存在し、その行動の差が回復後の局面で大きな差となる。 今後のテーマとして、三河と遠州の企業特徴と財務的特性の比較、所有と経営の一致による収益性とリスクの制御要因、社外役員の独立性と関連性・ガバナンス効果比較、同族企業における会計的保守主義と利益配分、管理会計と投下資本利益率(ROIC)の効果検証などについて、会計分野での研究を行っていく。