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産学官民交流事業

2022.04.01 第221回東三河午さん交流会

1.日 時

2022年4月1日(金)11:30~13:00

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 4階 ザ・テラスルーム

3.講 師

公益財団法人豊橋みどりの協会 河邉 誠 氏

  テーマ

『木と人のきずなからつくる豊かな暮らし』

4.参加者

29名

講演要旨

1.樹木医の仕事
 樹木医登録者の職種は、造園業、自治体・緑化団代職員などさまざまである。仕事内容は、①樹木診断(外観・精密診断)、②手当て(樹勢回復、リスク対処)、③伝える(木の価値・魅力、状態・対処法、付き合い方など)という、木と人とのあいだをとりもつ役割である。「のんほいパーク」における樹木医としての私の仕事は、数千本の樹木を見回って異常をみつけ、観察・診断して状況を把握する「樹木診断」、豊橋の名木100選に選ばれているハナノキやちびっこさくら広場のさくらの樹勢回復などの「手当て」、植物園ガイドツアー・スワッグづくりワークショップ、クスノキの蒸留体験、こども植物教室、みどりの教室などの「伝える」活動を行っている。教育普及について、「みどりについて心に残るものがあったか?」「これで本当に何かが変わるのか?」という悩みがあり、「人とみどり(樹木)とのきずなをつくることが大切かもしれない」「愛着をもつことで行動の変化が生まれるかもしれない」と考えるようになった。東三河地域の発展についても、みどりと人のきずなをつくることをベースに考え、樹木医として地域の木と人のきずなづくりに取り組んでいきたい。

2.東三河の植生
 東三河の潜在植生は、多様な環境による多様な植生があり、かわりものが多い。その要因は、①気候の影響(暖・中間・冷温帯の分布)、②地形や地質による影響(海・豊川・火山など)、③地史的な影響(葦毛湿原やハナノキ自生地などの東海丘陵要素植物)である。現存植生は、人の活動の影響を受けており、コナラなど落葉広葉樹の雑木林、スギ・ヒノキなど針葉樹の人口林、天然林、シイノキなどの常緑広葉樹主体の林、松などの海岸防風林、市街地の各種外来植物などがある。クスノキは人の移入と共に日本に持ち込まれ、人の活動が古くから盛んだった温暖な地に多く分布している。

3、東三河の「樹木遺産」
 東三河の「樹木遺産」を紹介する。田原市は「藤七原のシデコブシ」(地域の植生や生物多様性保全の象徴)、豊橋市は「嵩山浅間神社の森とバクチノキ群落」(浅間神社のクスノキ、蛇穴周辺のバクチノキ群落)、豊川市は「大和の大イチョウ」(オスの木、樹高約25m、枝張り20m以上)、新城市は「鳳来寺の傘杉」(元、日本一の高さ)、東栄町は「須佐之男神社の綾杉」(愛知県指定の天然記念物、樹高45m、幹周り8.4m、樹齢400年以上)、豊根村は「川宇連のハナノキ自生地」(東三河では豊根村にまとまって自生。東海地方にだけ自生)、設楽町は「面の木園地のブナの森」(東三河では奥三河のみ。明るい森であり、森林文化のシンボル)、蒲郡市は「清田の大クス」(中部地方代表の巨木、樹齢1000年以上、幹周り14.3m)である。日本人にとってクスノキは、神の木、材の木、薬の木であった。樹木遺産は、観光、教育、コミュニティ形成、環境保全運動の象徴、保健福祉(森林・樹木セラピーなど)に活かせる。特に、巨樹には自然への畏敬がある。

4.みどりを活かした東三河の持続的発展
 第一に「街のみどりを活かす」こと。具体的には、シンガポールのガーデンシティ構想などのようにコンセプトとビジョンを明確化するとともに、街の樹木の機能を最大限活用し、樹木の価値を見える化して普及(木と人のきずなを強化)することである。例えば、「東三河アーバンフォレスト構想」、「東三河樹木憲章」などが考えられる。
第二に「奥三河の森林と農村の資源を活かす」こと。東三河の持続的発展のために森林の資源を活かす方法としては、環境と生産をバランスさせた森づくり、木質バイオマスによるエネルギー自給推進、森林文化の醸成が挙げられる。また、奥三河の農村の資源を活かす方法としては、生物多様性と風景を活かすこと、農業の持続的発展、関係人口を増やすことなどが挙げられる。例えば、ビジョンとして「奥三河ガーデンビレッジ構想」、コンセプトとして「持続的に発展する美しい田舎をつくる」、キーワードとして「美と癒やし」などが考えられる。

5.木と人のきずな
 木は、人の生存環境をつくり、人類の進化や文明の発達に寄与し、精神文化にも大きな影響を及ぼしている。「照葉樹林文化」「ブナ帯文化」など、森や樹木とのきずなが深く関わり、特有の文化の土台となってきた。木には人の心を深いところで支える力があり、地域の子どもたちに生涯を通じてときどき会いに行きたくなるような木、そんな木との出会いや関わりの場をつくってあげたいと考えている。大きな目標は、①街のみどりを活かした地域の発展、②森林や農村の自然を活かした地域の発展、③地域のシンボルツリーの育成、保全と活用である。そのために、街のみどり、森や農村のみどりと人との距離を縮め、きずなをつくっていきたい。皆さんに連携、協力いただけたら幸いである。