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産学官民交流事業

2022.12.12 第458回東三河産学官交流サロン

1.開催日時

2022年12月12日(月)18時00分~20時30分

2.開催場所

ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス

3.講師①

豊橋技術科学大学 機械工学系 准教授 横山 誠二 氏

  テーマ

『電気炉スラグの有効活用』

  講師②

日東電工(株) 理事 基盤機能材料事業部門・豊橋事業所長 井田 太 氏

  テーマ

『強靭な企業体質の実現に向けて』

4.参加者

61名(内、オンライン参加者5名)

講演要旨①

 スラグとは、鉄鋼製造プロセスにおいて鉄鉱石等から金属を製錬した時に溶融によって分離した鉱石母岩の鉱物成分などを含む物質である。スラグには、製銑スラグ(含まれる酸化物は限定的で、硫黄を含む)と製鋼スラグ(色々な酸化物を含む)がある。鉄鋼スラグは、高炉で鉄鉱石を溶融・還元する際に発生する高炉スラグと、鉄を製錬する製鋼段階で発生する製鋼スラグに大別され、高炉スラグは高炉セメント、コンクリート用骨材、肥料(ケイカル)に、製鋼スラグ(転炉スラグ、電気炉スラグ)は路盤材、土木建築材料に再利用される。
 土壌pH改良材としての適用において、供試材料として電気炉酸化スラグ、電気炉還元スラグ、消石灰、苫土石灰、卵殻、牡蠣殻を用意し、超純水1Lに試料1.00gを投与し撹拌機を用いた溶出実験を行った。pHの経時変化をみると、酸化スラグ・苫土石灰・卵殻はpHが急上昇した後、緩やかに上昇し、還元スラグ、消石灰、牡蠣殻はpHが急激に上昇した後、低下した。酸化スラグと還元スラグのpHは、既存の土壌改良材のpHの間にあり、土壌pH改善の効果があることが分かった。なお、既存剤のpHの改善効果は、有機石灰、苫土石灰、消石灰の順に大きくなっている。pHが増減する理由は、pHの増大はスラグからの溶解、pHの減少は二酸化炭素の溶解である。また、溶出Ca濃度の経時変化をみると、還元スラグや消石灰は、二酸化炭素の圧力により濃度が下がる。植物に必要な物質は、多量必須元素として「カリウム(K),カルシウム(Ca),マグネシウム(Mg),リン(P)」、微量必須元素として「マンガン(Mn),亜鉛(Zn)」があり、溶出72時間後のpHと溶出濃度を比較すると、酸化スラグは必須元素の溶出がみられ施肥量の減少が期待できるが、還元スラグは牡蠣殻と同程度養分の吸収を阻害するAlが比較的に多く溶出することが分かった。なお、微粒必須元素であるマンガン(Mn)と亜鉛(Zn)は、土壌改良材として酸化スラグを利用することで、地産地消に繋がるケースもある。
 6価クロムイオンの除去において、二酸化炭素雰囲気下水溶液に2クロム酸カリウムを添加し、その後酸化スラグ100gを添加してクロム濃度と鉄濃度の経時変化の実験を行ったところ、6価クロムイオン濃度が低下してから、Fe2⁺イオン濃度は増加する結果となった。スラグから溶出したFe2⁺で6価クロムを還元できるが、スラグからFe2⁺を溶出させるためには、水が酸性であることが重要であり、酸性雨を利用すればスラグからFe2⁺が溶出する。つまり、還元剤であるFe2⁺が欲しければ、酸化スラグから抽出できることになる。
 二酸化炭素の吸収・固定において、スラグから溶出したCaは炭酸カルシウム生成により沈殿する。二酸化炭素の固定について、高校化学1の教科書では、「水酸化カルシウムの飽和溶液(石灰水)に二酸化炭素を吹き込むと、炭酸カルシウムの白色沈殿を生じる。さらに二酸化炭素を過剰に吹き込むと、沈殿は炭酸水素カルシウムとなって溶解する」と記されているが、「さらに二酸化炭素を過剰に吹き込むと、溶液は炭酸という酸を生成し、pHが低下する。そのため、炭酸カルシウムの溶解度線を超えるので、沈殿は溶解する」というのが正確な表記である。スラグ中の酸化カルシウムは石灰石を焙焼して作られるが、二酸化炭素の吸収・固定により最終的には石灰石が生成されることになり、この用途が課題となる。酸化スラグ、還元スラグとも固まらないため、セメント代替材料にはならないが、骨材(砂など)としての利用は可能。また、酸化カルシウムに水を加えると体積が膨張するため、静的破砕剤への適用も考えられる。
 総括すると、土壌pH改良材としての適用においては、酸化スラグのpH改善効果は苫土石灰と同等であり、酸化スラグは苫土石灰よりも多量必須元素、微量必須元素が多く溶出する。6価クロムイオンの除去においては、酸化スラグからは酸性水溶液中でFe2⁺が溶出し、それにより6価クロムを還元できる。また、二酸化炭素の吸収・固定においては、還元スラグを水に溶解させ、空気中の二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定できる。

講演要旨②

 日東電工株式会社 豊橋事業所は、令和4年5月19日に創業60周年を迎えた。地域社会の多くの皆さまのご支援を得て、この地で事業を継続することが出来ており、感謝申し上げる。今回、豊橋事業所に最先端の環境対応施設を建設したので、今後の参考にしていただければ幸いである。
 日東電工グループは、1918(大正7)年に創業。本社は大阪。国内の生産拠点では、テープ事業(豊橋)、光学フィルム(尾道)、逆浸透膜モジュール(滋賀)、フッ素樹脂加工製品(関東)、経皮吸収型医薬品(東北)、電子部材(亀山)などを扱っている。日東電工は、日東電気工業株式会社として1918年に東京大崎にて創業し、電気絶縁材料の国産化を開始したのち、日本初の「ビニールテープ」を開発。その後、「マクセル」ブランドの「積層乾電池」、「録音テープ」を開発し、1961年に乾電池・録音テープの「マクセル部門」を分離し、「テープの日東」として愛知県豊橋市に工場進出を決定し、1962年に操業を開始した。
 豊橋事業所は、敷地面積約33万㎡、従業員数3,000人(グループ・協力会社含む)の規模を誇り、テープ生産の主力工場として60年進化を継続している。豊橋事業所の課題は、広大な敷地に司令塔機能が分散していること、工場・生産設備が老朽化しており、モノづくりの変革と環境貢献技術開発が必須となっている。また今年の5月には「Nitto カーボンニュートラル2050」を掲げ、全社を挙げて2050年実質ゼロを目指している。これらの課題解決のため、代表取締役社長の髙崎秀雄は「ESG」を経営の中心に置くことで企業価値の向上に取り組んでいく方針を示し、Life-work Innovation New Challenge Standardを実現するための施設である「LINCS(リンクス)」を豊橋事業所に建設することになった。建設コンセプトは、豊橋事業所におけるESG経営の中核施設として、①最高水準の環境性能の実現、②コミュニケーションの活性化、③働き甲斐・D&Iへの取り組みを強化する、以上3点である。
 「最高水準の環境性能の実現」とは、太陽光パネルでの創エネと高効率機器等による省エネで実質CO2排出ゼロを達成することである。「LINCS」の環境性能は、つくる・へらすを合わせて100%以上削減したBELS認証「ZEB」5スターを獲得、また建物の環境性能を総合的に評価する「CASBEE建築(新築)」の最高Sランクを獲得している。同時認定を得た製造業は、日本ではまだ数社しかない。省エネ対策としては、自然換気、天井からの自然採光、日除け(ルーバー)、画像センサ調光、LOW-Eガラス、調湿空調、外皮断熱がある。それらの結果としてエネルギー消費量を61%削減、太陽光パネルの設置などで105%削減(実質マイナス5%)した。また、環境配慮として、Nittoから排出された産廃をペレット化し、1.5tを再生木建材として実際に使用している。
 「コミュニケーションの活性化」としては、従業員同士が自然に出会い、コミュニケーションが生まれるオフィスデザインを採用している。人が集まる場所を回遊する通路導線、全従業員が立ち寄り易い空間作り、ガラス張りでコミュニケーションが外から見えるなどの工夫を施している。CASBEEのウェルネスオフィスの評価では、従業員に対するプログラム(メンタルヘルス対策・医療サービス、情報共有インフラ、健康維持・増進プログラム)において高い評価を得ている。
 「働き甲斐・D&I取り組み強化」については、東海地震、東南海地震など有事の際の司令塔としても活躍できるように、病院同等クラスまで構造的強度UPを図っている。合わせて、障がい者が活き活きと働く環境整備として、「ひまわりCafé」を1階の一等地に設置するなど、Nitto従業員も障がい者との交流で多様性を養える環境をつくっている。また、付帯活動として、マイボトル配布とウォーターサーバー設置により、豊橋事業所自販機におけるペットボトル2.5万本の出数削減によるCO2排出量30t/年の半減を目指している。
 Nittoグループのサステナビリティへの取り組みの重点課題は、イノベーションによる価値創造として、①安心で利便性の高い生活、②持続可能な循環社会、③健やかな暮らし、また価値共創のための経営品質向上として、④多様な人材が活躍できる風土、⑤安全なモノづくり、⑥環境にやさしいプロセス、の6つがあり、そのためのひとつの答えが「LINCS」である。
 Nittoグループは、「地球環境、人類と社会をお客様と捉え、持続可能な未来と幸福のためにチャレンジし続けます」というサスティナビリティ基本方針を掲げており、この「LINCS」が地域社会の皆さんの誇りになるような進化を我々も行動で示していく。