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産学官民交流事業

2023.10.06 第236回東三河午さん交流会

1.日 時

2023年10月6日(金)11:30~13:00

2.場 所

ホテルアークリッシュ豊橋 4階 ザ・テラスルーム

3.講 師

アイスタイルデザイン 代表 山田 政嗣氏・村井 ゆかり氏

  テーマ

「『季節誌しずく』の制作を通じて見えてきたもの」

4.参加者

32名

講演要旨

 アイスタイルデザインの主な事業は、名刺・DM・チラシなどのグラフィックデザインの制作や印刷で、代表は山田が務め、私・村井と2人で経営している。創業にあたり、何か2人でできることはないかと考えた結果、冊子を発行することに決めた。本業のデザインを活かせること、当時お互いがブログを書いていたこと、私が東日新聞のサテライト記者を担当していたことなどが要因である。何をテーマにしようか悩んだが、人間が生きていいく上で重要な「食」に関することは定まっており、私の子どもの入院をきっかけに免疫力を上げるために産直野菜を使って離乳食を作った話などをしていたところ、突然山田が「東三河の地産地消で行くぞ!」という一言で方向性が決まった。
 生産者さんの声、顔出し・名前出しインタビュー、地産地消に取り組む飲食店さん、加工業者さん、生産者さんと飲食店さんのコラボなど、企画紙面のダミーを作った。しかし、方向性が正しいのかどうか不安になり、豊川市で柿やアスパラガスを作っている山内さんに相談したところ、「いいと思うよ。やってみなよ。」と背中を押され、いろいろなお話を聞くことができた。一番印象に残ったのは、「大地や微生物の力は人間の源。地産地消はそういった意味でも、自分にとってより近いところで育ったものを食べることが大切。」と教えていただいた。地産地消はもっと大きな意味を持ち、それを私たちが伝えることができれば希望が持てるのではないかということが分かった。こうして冊子の発行に向けて動き出し、季節誌「滴(しずく)」という名前を付けた。人間に必要な水、情報が波紋のようにじわじわ広がってほしいという願いを込めたネーミングであり、2011年11月に創刊号を発行した。VEGIMO GROUP代表の小林さん、漬物本舗の道長さん、豊橋有機農業の会の星さん・正木さん、お米の「のだや」さんなど、皆さまのお陰で完成することが出来た。現在は、紹介していただいた生産者さんをはじめ、インスタグラムなどを活用し、直接会いに行くという形で取材をしている。有名な方よりは、就農されたばかりの方、新しい取組を始めた方、変わったことに取り組んでいる方、産直でポップを貼ってアピールしている方などのところに足を運ぶようにしている。
 紙面構成は、生産者さんの人生ストーリー「旬のしずく」、生産者さんと飲食店さんのコラボの一品を紹介する「地のしずく」、しずくスタッフのお気に入りの生産者さんを紹介する「しずくのミチシルベ」、JAひまわりさんとのコラボページ・地産地消の小さな流れを紹介する「しずくタイムス」、生産者さんの6次産業化した加工品などを紹介する「しずくの波紋」、また協力企業様のページがある。創刊から今年12月で12年になり、延べ約300名の生産者さんとお会いした。なるべく少しでも同じ目線に立てるように、日本野菜ソムリエ協会の野菜ソムリエプロの資格習得や食の6次産業化プロデューサー・レベル3を取得した。また、私たちは「新城しずくファーム」で畑に挑戦している。2013年に取材した今泉さんご夫婦に教わりながら、今年で7~8年目になる。「ここの畑、やってみりん。」の一言で始め、現在は里芋、生姜、さつまいも、蕎麦を作っている。単純に「育ててみたい」という気持ちと「生産者さんの苦労や生産者として見える景色が見たかった」という目的もあった。農作業は全てが大変だったが、有難いことに、地元の日本料理屋さんやフランス料理屋さんが食材として使ってくださっており、微力ながら自分たちも小さな地産地消のサイクルに加わっているのかなと思っている。
 大きなイベントとして、「滴朝市」を開催している。現在も豊橋に残る「三八市」をイメージし、生産者と消費者が顔を見て話をして購入する1日だけの特別な朝市で、2014年4月の第1回から2022年5月の第5回まで計5回開催している。生産者さんからは、「実際に声を聞く機会がないから有難かった」、「普段では感じることのない刺激のある時間を過ごせた」という声をいただいた。また、各回では企画を準備し、子どもたちと作るサラダイベント「サラダカップ」や「手作りざる豆腐教室」なども行った。季節誌「滴」には、「三河自家製滴倶楽部」という地産地消に興味のある方を対象にしたコミュニティを用意し、お家でできる地産地消を実践する魅力ある教室を開催している。これまで、いちご大福教室、米粉教室、ざる豆腐教室などを開催した。中でも、JAひまわりさんとのコラボイベント「おむすびSTAND」は、前もって稲刈りもイベントとして実施し、3種類のお米から自分のお好みのお米でおにぎりを作った。また、豊橋市役所さんと道の駅とよはしさんとのコラボイベントでは、豊橋産の次郎柿とミニトマトを使った「サラダイベント」を行った。
 創刊5周年に、補助金を利用して写真集「百肖(ひゃくしょう)」を制作した。内容は、生産者さんの写真と名前、代表作物だけを100名掲載した写真集となる。100名の生産者さんを2人で3ヵ月に亘って取材・撮影し、東三河をまわった。取材・撮影の裏側を全員分綴った専用ブログ(https://100show.info/)があるので、ご覧いただければと思う。写真集は東三河の小学校、市の図書館にも寄贈させていただいた。将来の担い手である子どもたちに、少しでも何かを感じとってくれればいいなと思っている。幸い、中日新聞と日本農業新聞に取り上げていただき、全国から問い合わせの電話が入った。消費者は、食材だけでなく、作っている人の顔や人柄を知りたいという気持ちがあるのではないかと感じた。同業者である生産者さんは、人を通り越して、周りの圃場や環境を写真から読み取っていたということが後で分かり、一つの発見であった。
 制作を通じて、生産者さんからは、「山、1級河川、用水、海、平地がそろっている土地柄は、日本探してもそうはないよ。」という声を多くいただいた。東三河全体が農業大国であり、渇水になった時は、豊川水系を管轄する独立行政法人水資源機構へ取材したこともある。また、一括りに東三河といっても気候や風土が違い、同じ農作物でも一つとして同じものはなく、「美味しかった」という一言がやり甲斐になっているそうである。特に高齢者の方は、やり甲斐から生き甲斐に変わっていると良く聞く。飲食店さん、加工業者さんからは、「新鮮で豊富な野菜や食材がすぐ手に入り、何より美味しい。」、「生産者さんの愛情や情熱が熱い。」と良く聞く。
 取材を通して見えてきたものは、気候変動が激しい中、消費者が食べることができるのは作ってくださる方がいるということを忘れてはいけない、感謝して食べていきたいということである。生産者さんそれぞれのこだわりや取組の声を届ける場がないというのが「滴」発行のきっかけの一つでもある。現在は、SNSを通じて伝えたいことや思いを発信できるようになったが、基本的にきっかけがあれば関わりや取組を知ってもらいたいという気持ちがあるということが分かった。
 ここからは約300名の生産者さんのうち、写真集「百肖」の中から、生産者さんの裏話的なエピソードを紹介したいと思う。①新城:今泉健次・次子さん(私たちの農家の師匠。自分たちの食べたいものを作るというスタイル。農業と生活が密着。)、②新城:佐々木やすさん(豊根村出身で80歳超。大変パワフルで、毎日作業の目標をたて、それを実行している。)、③新城:関原香緒里さん(最近、綿の栽培を始めた。身に付けるものを一から手掛けるという想いは、地産地消の横軸となる。)、④田原:河合竹男さん(人の作らないものを早く作るというスタイル。カラフルなカリフラワー等を作っている。)、⑤田原:鈴木安喜生さん(ごぼうの生産者。ユンボの操作は神技。キャベツ、ブロッコリー等も栽培するスーパーおじいちゃん。)、⑥豊橋:加藤真史さん(イケメンのいちご生産者さん。栽培延長技術に取り組む。経営者になりたいという道を有言実行。)、⑦豊橋:原田愛子さん(石巻の柿生産者さん。柿のオーナー制度を実施。高齢者や兼業農家が多く、様々な問題を抱えている。)、⑧豊橋:山本剛司さん(いちごときゅうり農家。夫婦二人三脚で絶妙なバランスで頑張っている。農業の形を教えてくれた。)、⑨豊川:市川靖雄さん(ミニトマト農家。美味しさの上位に入る。水耕栽培が多い中、土耕栽培にこだわっている。)、➉北設楽:村松憲治さん(「道の駅もっくる」で五平餅・フランクフルトの販売、「道の駅したら」で飲食ブースを経営。)、⑪北設楽豊根村:伊藤武治・徳子・久野愛子さん(自分たちが食べるものを育て、ゆっくり時間を過ごしている。鹿の食害があり、苦労されている。)
 私たちだけではこの「滴」を作ることはできない。生産者さん、飲食店さん、加工業者さん、そして私たちのような消費者がいてのことである。情報のサイクルが現場を通じて回ることができれば、食に対して興味を持ち、地元を知り、将来に向けて何をしなければいけないかを個人個人が思うきっかけになっていただけたら嬉しく思う。1人ひとりにはストーリーがあり、こだわりや目的、地域も違う。しかし、本当に東三河はすごいところ。現在、「滴」は年に4回、3・6・9・12月に発行しており、豊橋市、豊川市、蒲郡市、新城市、田原市の後援も毎年いただいている。いつまで続けられるかわからないが、できる限り続けていければと思っている。道の駅や食の興味の高いところに設置をお願いしているので、またどこかで手に取っていただけたら幸いである。