2024.02.21 第66回研究交流会
1.開催日時
2024年2月21日(水)14:00~16:00
2.開催場所
豊橋市民センター(カリオンビル)6階 多目的ホール
3.講 師
株式会社 FOURIN 日亜調査部シニアリサーチャー 福田 将宏 氏
◎テーマ
「自動車産業 を取り巻く 環境変化と潮流
~サステナブル経営を軸に社会課題対応と収益両立に挑戦~」
4.参 加 者
30名
講演要旨
自動車産業の現状を説明する。世界販売の9割以上を占める主要52カ国の販売台数から速報値のデータを集計しているが、これによると2023年の世界販売は8,700万台水準まで回復する。コロナショックの時、2020年に1,000万台レベルで世界市場がシュリンクし、その後2021年、2022年とコロナの影響の長期化、半導体不足、部品不足、資源高騰、様々なマイナスの影響が重なり低迷が続いたが、2023年は売りたいのに自動車が作れないといった状況が改善され、主要各国で前年比2桁増となった。メーカー別、地域別で簡単に説明すると、地域別では在庫不足の解消など欧米諸国の多くが2桁増となり、新興国も回復してどの地域も好調であった。メーカー別ではトヨタが全年比8%増で世界販売首位を維持し、各国自工会の発表値ベースで集計しているためメーカーの発表値とは若干の差があるが、トヨタからも2023年はダイハツ・日野を含んで過去最高の1,123万台となり、単体でも1,000万台を超えていて、4年連続で世界首位となったと発表されている。他の上位メーカーも軒並前年比増となり、2位のフォルクスワーゲンが9.4%増、3位のGMは2.3%増で若干の温度差が出ているが概ね前年比プラスであった。
次に世界のPHEV(プラグインハイブリッド車)/BEV(電気自動車)合計の販売データについて説明する。このデータをピックアップした理由は世間で注目されている電動車だからである。HEV(ハイブリッド車)も電動車といえるが今回条件として、充電設備を使用してある程度長時間のEV走行が可能なものとして、一般的に電動車といった場合はPHEV/BEVを合計して考えるという流れになっている。FCEV(燃料電池車)もあるが、普及台数が少なすぎるということで除外している。2023年のPHEV/BEVの販売台数は1,200万台を超える見通しである。2020年を過ぎたあたりから一気に伸びており、さらに2024年は1,400万台を超える勢いを見せている。内訳を見ると、足元ではBEVの需要が鈍化していて、現実解としてPHEVが伸びているという特徴が見られる。
電動化と自動運転を説明する。電動化について最初に問題提起するのは、BEVの市場予測は正しいのかということある。新聞などのメディアで見ると、BEVの普及がどんどん進むといった風潮が強く出ていると見受けられる。実際、自動車メーカーやサプライヤーの大手が戦略発表時にBEVの市場予測を出したりしているが、それを見ると2030年代になると大半を占めるという予測が多い。例えば日産は2040年のBEV比率は70%に達するという予測を出して、その上で戦略を立てている。ドイツのシステムサプライヤーZFは、2035年にBEV比率が8割強になるという予測を出している。BEVへの注力具合による各社の立ち位置によって予測には差があるが、多くのグローバル自動車メーカーやサプライヤーは、BEV比率が2030年代にかけて支配的な状況になるという予測をしている。こうした強気なBEV予測は妥当かという話で説明する。グローバルでBEV比率が7割強に高まることに対する疑問点として、まず各国でエネルギーミックスが異なるという問題があり、全ての国でBEVが最適解にはならないということである。再生エネルギーの比率が低ければBEVのライフサイクルにおけるCO2排出量は決して少ないといえない。またインフラの整備が遅れている国だと、BEVの使用が現実的でないといった各国の事情もあり、日本の場合は水素基本戦略で水素を推しているという事情もある。こうした国が多いとはいえないが、全ての国がBEVを本気で普及する気があるのかという点は疑問が残る。
欧州はBEVの先行地域といわれているが、BEV一択からHEV、特にPHEVを現実解として開発するという流れが主流になりつつある。将来的にも完全的なBEV化は来ず、移行期としてのPHEVの需要期が長期化する可能性も十分にあるという見方になっている。とはいえBEVへシフトを促していくことは一定量必要であり、高価なBEVをいかに消費者に納得させられるかということに自動車メーカーはいろいろ考えて取り組んでいる。日産アリアを例とすると、デザイン、室内空間、BEV専用プラットフォーム、四輪駆動、先進安全機能、コネクテッド技術、エンターテイメント機能、こうした付加価値をつけてBEVの高い値段を納得してもらう方向性で取り組んでいる。
自動運転の実現に向けては、自動ブレーキといったADASの技術進化を確実に進めていくというのが基本的な流れである。当初は自動ブレーキといったADASの技術をできるだけ全車に普及させていくことが重要という共通認識になっている。さらに、完全な自動運転の実現には、技術だけでなく哲学的・倫理的な課題、究極状況下において誰を優先して守るかといったことも判断しないといけないとか、事故が起こった場合の責任の考え方などいろいろあり、技術進化のみでは解決は困難といわれている。ただ、完全な自動運転実現に向けて、まずは特定地域内での走行や、非常に遅い速度の走行など条件を絞ることで難易度を下げて着実に実行するのが現実的なアプローチであり、本音としてはそんなに急がないということもある。
今までは、BEVやゼロエミッション車の取組が主流であったが、現在はLCA(ライフサイクルアセスメント)で使用時のみでなく製造時も含めCO2排出削減をしないといけないという考え方が主流になっている。ライフサイクルでのCO2の排出割合は、メーカーごとに多少差があるが、走行に起因する部分が大体6~8割程度、素材製造や部品製造・車両組立といった部分もそれなりに大きく2~4割である。走行に起因する部分は、電動化に加え各種技術を組み合わせて走行中のCO2削減を図るよう取り組まれている。トヨタの場合、2035年にCO2排出50%の削減、2050年にカーボンニュートラル、これを走行中のCO2排出の目標としている。
もう1つは製造時のCO2削減である。製造時のCO2削減は、素材製造の場合と、部品や車両の組立や製造の2つに分けられる。素材製造のところのCO2削減への取組は、サプライヤーと協力して低CO2材を開発・導入、リサイクル100%材をできるだけ使っていくといった動き、工程で出た端材の有効活用などがある。Car to Carリサイクルということで、廃バンパーからバンパーをリサイクルするというように、将来的には同じ部品から同じ部品へ完全リサイクルするというのを究極目標として取り組んでいる。他の取組として、事業所に自動販売機がある場合、廃ペットボトルが工場の中にたくさん発生するため、それを自社回収して原料として製品に使用するというのがあり、実際トヨタは新型ランドクルーザー250のシートにペットボトルをリサイクルして作った繊維のシートを採用していて、同じようなことを中国の自動車メーカーもやっている。自動車以外の再利用としては、CFRPの端材をコンクリート補強用繊維として再利用するということでトヨタと大林組がコラボして今やっている。その他リサイクルしやすい構造、解体しやすい、分別しやすい構造を採用するということで、実際トヨタの車を分解すると解体性向上マークが表示されており、その部分をポイントに解体すると簡単に解体ができるという工夫もしている。
車両組み立て時のCO2排出については、製造工程の中でボディ塗装と鋳造が排出全体の3分の1を占め多いため、そこでの取組がCO2排出削減に有効であると考えられ、いろいろな取組がされている。その例として、塗装の効率向上を実現した塗装技術ということで、トヨタのエアレス塗装技術というのがある。従来は塗料を噴霧していたが、跳ね返って飛散して3割ぐらいが無駄になっていた。これを静電気で吸着するようにして塗装すると飛散する量がかなり減る。飛散した塗料を回収し、クリーンにする際にCO2がかなり出るため、これによってCO2の排出低減にかなり貢献できる。
新事業取組のトレンドについては、今回のサブタイトルの「サステナブル経営を軸に社会課題対応と収益両立に挑戦」の内容である。日本は課題先進国といわれて、グローバルな社会課題の中の多くについて、日本が先行して起きているということがあり、それを解決していくことによりグローバルの競争力が発揮できるチャンスという考えもある。様々な社会課題に関して実際にトヨタグループのトヨタを除くサプライヤー10社が取り組んでいる新事業の例を紹介する。内容は、社会課題への対応とクオリティーオブライフということで、生活の利便性向上や快適性の向上するような取組といった二つに大きく分けられる。
新事業の事例として、デンソーやアイシンは電動化やADAS、CASEといった主流の分野にマッチしているサプライヤーであり、そうした分野に経営のリソースを集中することで成長戦略を描いていると考えられる。その主流から外れるエンジンメーカーや車体部品メーカーは、そういったCASEをやっているところより危機感があり、新事業に活路を見出そうと本気に取り組んでいることが見受けられる。新事業の方向性は、今までCASEに参入しなかったメーカーにとっては、CASEへの参入と、モビリティ以外の新領域への参入という大きく分けて2つの方向性があるが、CASEへの参入は、既に先行しているメーカーからメインストリームの部分を取るというのは厳しいため、それも取り組みはするものの、新領域にも挑戦していくことが必要になっている。その新領域というのは非常に幅広くなっていて、物流系から、介護医療、農業、ゲーム、ファッション、小物といったいろいろなものに拡がっている。こういった分野に参入するにあたっては、自社のリソースの活用を考慮し参入するのであるが、それだけでは難しいということで、異業種との連携によるノウハウの蓄積や技術活用も重要な要素となっている。