2024.6.13 令和6年度定時総会 記念講演会
1.開催日時
2024年6月13日(木) 16時20分~17時30分
2.開催場所
ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス
3.講師
国土交通省 中部運輸局 局長 金子 正志 氏
4.演題
『地域交通・物流・観光分野の課題と取り組み』
5.参加者
119名(オンライン参加者 8名含む)
講演要旨
Ⅰ.地域公共交通
1(1) 地域公共交通をとりまく環境
・我が国の人口は、2050年には全国の居住地域の約半数で50%以上減少との予測。
・近隣の中小店舗の減少、病院や学校の統廃合・移転等により、買い物、通院・通学など日常生活上の移動の問題が深刻化。小規模の市町村ほど住民の不安が高まっている。
・高齢ドライバーによる自動車事故の増加に関心が高まり、運転免許証の自主返納の動きが進む一方、返納後の移動手段に対する不安の声もある。
1(2) 公共交通事業者の現状
・利用者の長期的な減少傾向に加え、新型コロナによる急激な落ち込みもあり、公共交通事業者の経営環境は悪化。利用者数がコロナ以前の水準までには回復していない状況。
・バス・タクシーの賃金水準は低く、人手不足が深刻化(有効求人倍率は全職業平均の2倍)。今後、人手不足を要因とする路線バスの休廃止などの動きが拡大していく恐れ。
・多くの事業者でキャッシュレス決済対応や運行管理、車両・設備管理、労務管理等について、DXの取組に遅れ。
2(1) 地域公共交通のリ・デザイン(基本的考え方)
・地域公共交通は、魅力あふれる地域を作るための基盤的サービスであり、移動を支えるだけでなく交通事故の減少など多面的な効果を有する。
・現下の厳しい状況を踏まえ、今後の地域公共交通施策は、従来の補助金による赤字補填に加え地域経営の観点からの戦略的投資を呼び込むことが重要。
・こうした考え方に基づき地域公共交通の「リ・デザイン」を進めるため、(1)交通政策のさらなる強化、(2)地域経営における連携強化、(3)新技術による高付加価値化 の観点で施策を推進する。
2(2) 地域公共交通のリ・デザイン(主要施策)
・地域公共交通のリ・デザインにより、3つの『共創』 をベースに、「ローカル鉄道の再構築」、「交通GX/DX」などを通じて利便性・持続可能性・生産性を高める。
2(3)① 官民の共創(エリア一括協定運行)
・自治体と交通事業者が、複数年にわたってエリア内の複数の路線を一括運行する内容の協定を締結。
・提供するサービス水準等を定め、自治体からの支援額を初年度に明示。
・国は、エリア一括協定運行を支援する国庫補助を新設。
2(3)②他分野を含めた共創-1(路線バスを活用した貨客混載事業)
・公共交通の輸送力の一部を物流に有効活用することにより、公共交通の維持・発展につなげる取り組み。
2(3)③ 他分野を含めた共創-2(新たなファイナンスの可能性の探求)
・地域交通において、交通事業者等が地元の企業や住民と適切にリスクを分担するなど、既存の枠組みとは異なる方法で支援を集める手法の普及を促進。
2(4) 公共交通における脱炭素化の推進
・地域公共交通の維持・確保と脱炭素化の課題解決を一体的に推進するため、充電設備やGX車両の導入への支援制度を充実させるとともに、エコ通勤を推奨する。
3(1) ラストワンマイル・モビリティに関する制度・運用等の改善策
・交通不便地域におけるラストワンマイルの担い手として、タクシーの存在は重要だが、担い手不足が深刻化。→タクシーの輸送力の強化、それを可能にする制度、支援策が必要。
・タクシー事業者に頼るだけでなく、地域の実情に応じて交通サービスを選択し運営しやすくする制度が必要。→(例)自家用有償旅客運送
3(2)① タクシーを活用した交通確保の事例(愛知県新城市)
3(2)② 自家用有償旅客運送の検討プロセスの見直し
・自家用有償旅客運送の導入に当たって、協議が整わない場合の検討プロセスが最長6ヶ月と長いことから、首長らから不満の声が上がっていた。→2か月程度協議してもなお結論に至らない場合には、協議内容を踏まえ首長の責任により判断できるよう、検討プロセスを追加。
3(2)③ 自家用車活用事業の創設
地域交通の「担い手」「移動の足」不足解消のため、2024年3月、『自家用車活用事業』を創設。
・タクシー事業者の管理の下で、自家用車・一般ドライバーを活用した運送サービスの提供が可能に。
・配車アプリのデータ等を活用して、タクシーが不足する地域・時期・時間帯を特定し、地域の自家用車・一般ドライバーを活用して不足分を供給。
Ⅱ.物 流
1(1) トラック運送事業の働き方をめぐる現状
1(2) 長時間労働の原因
・トラックドライバーの長時間労働の要因のひとつは、発着荷主の積卸し場所での長時間の荷待ち時間・荷役時間。
・荷主企業と運送事業者が一体となって、荷待ち時間の削減、 荷役作業の効率化等長時間労働の改善に取り組むことが重要。
2(1) 物流革新に向けた政策パッケージのポイント
・荷主企業、物流事業者、一般消費者が協力して我が国の物流を支えるための環境整備に向けて、(1) 商慣行の見直し、(2) 物流の効率化、(3) 荷主・消費者の行動変容 について、抜本的・総合的な対策を「政策パッケージ」として策定。
・中長期的に継続して取り組むための枠組みを盛り込んだ物流効率化法と貨物自動車運送事業法の改正が4月26日に成立。
2(2) 流通業務総合効率化法・貨物自動車運送事業法の改正
3(1) 「標準的な運賃」制度の拡充・徹底
・トラック事業者が自社の適正な運賃を算出し、荷主との運賃交渉に臨むにあたっての参考指標として、「標準的運賃」制度を創設。
(2020年4月告示)
・「標準的な運賃・標準運送約款の見直しに向けた検討会」を設置して検討を進め、2024年3月に新たな「標準的運賃」、6月に「標準運送約款」を施行。
3(2) トラックGメンの設置
・「物流革新に向けた政策パッケージ」に基づき、2023年7月、 「トラックGメン」 を設置。(総勢162名)
・トラック事業者へのプッシュ型情報収集を実施、悪質な荷主・元請事業者に対しては、貨物自動車運送事業法に基づく「働きかけ」や「要請」を実施。
・「集中監視月間」(11-12月)には、初の「勧告」2件を含め、「要請」164件、「働きかけ」47件により是正指導を徹底、その後も荷主等に対する改善状況の確認のパトロール等を継続中。
3(3)① モーダルシフト等推進事業
・物流分野の労働力不足への対応、温室効果ガス排出削減を推進するため、トラック輸送から鉄道・船舶輸送への転換(モーダルシフト)等を推進する(物流GX)取組を支援。
3(3)② モーダルシフト加速化緊急対策事業
・物流総合効率化法に基づきモーダルシフトの認定を受けた事業につき大型コンテナ等の導入経費を支援。
3(3)③ 物流施設におけるDX推進実証事業
・物流施設を保有・使用する物流関係事業者が、トラックドライバーの荷待ち・荷役の削減、施設の省人化を図るため、システム構築や自動化機器の導入等を支援。
Ⅲ.観 光
1中部におけるインバウンドの回復状況(外国人延べ宿泊者数の推移)
・2024年2月、全国の外国人延べ宿泊者数は1,152万人泊(2019年同月比+24.2%)に伸長。
・ただし、その回復状況には地域差があり、二大都市圏が先行(全宿泊者数の62%を占有。(←コロナ前は52%))
・中部管内の外国人延べ宿泊者数は56万人泊(2019年同月比▲15.7%)にとどまる。
2(1) 外国人旅行者の訪日意向
2023年7月調査において「次に海外旅行したい国・地域」の1位は「日本」
・「アジア居住者」では第1回調査(2020年8月)から引き続きトップ、2位の韓国とは20ポイント以上の差。(第1回 56% → 第2回 67% → 第3回 67% → 2022年度 64% → 2023年度 65%)
・「欧米豪居住者」では前回トップのアメリカに代わりトップ。(第1回 24% → 第2回 36% → 第3回37% → 2022年度 29%→ 2023年度 35%)
・日本の強みは「日本食」 「ショッピング」 「自然や風景」 「温泉」「文化・歴史」「ファッション、ゲーム、アニメ等」
2(2) コロナ後の旅行者の意識の変化
・アドベンチャーツーリズムは、欧米圏で発達した体験型観光の一つ、欧米を中心に約62兆円の巨大市場。
・市場規模は、2026年には173兆円まで成長との予測あり。
2(3) 旅の「目的」の提供
3(1) 中部地区への誘客の実現に向けて(広域連携)
3(2) 中部地区への誘客の実現に向けて(需要の所在)
3(3) セントレアの国際線の回復に向けて
・中部国際空港の国際線の回復が、国内他空港に比べて遅れていることから、2024年度を取組強化期間と位置づけて、コロナ禍後の国際線の復活に向けた取組みを強化。
・復便には(インバウンド強化のみならず)航空会社にアウトバウンドの底堅い需要を示すことが重要であることに鑑み、地元企業に対して利用促進の意識付けを図るための利用促進キャンペーン「空を取り戻せ!今こそ使おうセントレア!」を推進中。
・中部経済連合会・名古屋商工会議所・中部国際空港・中部運輸局の4者が共同記者会見を実施。