2024.08.27 第478回東三河産学官交流サロン
1.日 時
2024年8月27日(火) 18時00分~20時30分
2.場 所
ホテルアークリッシュ豊橋 5F ザ・グレイス
3.講師①
豊橋技術科学大学 情報・知能工学系 准教授 秋葉 友良 氏
テーマ
『機械翻訳対のLanguage Exchange 〜互いに教え合う機械学習法〜』
講師②
株式会社トヨコン 代表取締役社長 明石 耕作 氏
テーマ
『ビジョン経営で変革を』
4.参加者
56名(オンライン参加6名含む)
講演要旨①
私の専門は情報工学であり、特に自然言語処理、音声言語処理分野の研究をしている。簡単に言うと、人が使っている言葉をコンピューターで扱うという研究である。今特に力を入れているのは、地方議会議事録の言語処理と機械翻訳である。
最初に議会議事録を対象とした自然言語処理の話をする。豊橋市などの市議会は、ウェブページなどでどういう活動をしているのかが誰でも簡単にわかるように情報公開がされている。豊橋市議会の場合は紙の冊子版「とよはし市議会だより」が各所で配布されており、ホームページではPDFの電子版のダウンロードも可能で、一般市民の方は市議会がどういう活動をしているのかを簡単に知ることができる。一般質問については、議員ごとにどういった質問をして、市長や担当の行政の方がこういう回答をしたということが簡単にわかるよう非常にわかりやすくまとめられている。ただし、紙面が限られているため、掲載されている質問や回答は限られており、質問した議員が選んだ重要だと思う部分がまとめられている。
市民がこれ以外にどういった質問があったか、どのような回答がされているのかを知りたいと思ったときには、議事録を参照する必要がある。議事録は豊橋市のホームページに豊橋市議会議事録というリンクがあり、そこから見ることができる。質問者や回答者の全ての発言が掲載されており、豊橋市規模の議会では一括質問一括回答形式という形で質疑応答が行われている。最初に議員がまとめて質問をすると、回答は登壇者が入れ替わりながら自分が答えられるところに関してひとつずつ回答していく形式で答弁が行われており、議事録では発言通りの順番でそのまま記載されているため、当研究室では、これを読みやすくする研究をしている。1つの質問に対して1つの答えとなるようにうまく整理、アレンジすれば、読みやすくなるだろうということであるが、ポイントとして議事録を変えないことが重要である。議会議事録を対象とした自然言語処理として、与えられた記事が事実(議事録)に基づいているかを判定する事実検証、ある議題に対する議員の発言は、議題に「賛成」か「反対」かを判定するスタンス分類、行政についての質問に対し、議事録をベースに回答する質問応答、議事録の内容を短くまとめて読み易くする自動要約を行っている。
次に機械翻訳のシステムの話をする。インドネシアには島が多くあり、多様な民族が暮らし言語も異なっていて、718の言語が話されている。この中には文字のない言葉だけの言語もあり、日本の方言とは異なり、全く違う言語である。このように多様な言語が話されているところがインドネシアであり、視点を広く持つと世界はこういうものである。世界中にはいろいろな民族がいて、文化圏によって使われる言語は全く違う。言語が違う中でどうやってコミュニケーションをとるのか、そこを機械の力を借りてサポートするのが機械翻訳の目的である。通信網(携帯電話、インターネット等)の拡大により、世界中の個々人間の距離は縮まりつつあるが、依然として「言葉の障壁」は存在する。第2言語の習得は、誰でも容易にというわけではなく、また専門家による翻訳は、コスト(経済的、時間的、資源的)が高い。言葉というソフトウェアの問題で人間がコミュニケーションできないという問題をコンピューターがサポートするための機械翻訳の研究が行われている。
今の機械翻訳は統計的機械翻訳という仕組みで動いていて、簡単に言うと確率モデルである。ある言語から別の言語への変換を確率モデルとして捉え、この確率モデルをうまく計算するという仕組みであり、最近はEncoderとDecoderからなるニューラルネットワークで言語の変換をモデル化したニューラル機械翻訳を使って計算するというのが主流になっている。基本的にニューラル機械翻訳はデータ主導であり、学ぶデータは対訳データである。対訳データは、同じ意味の文が2つの言語でペアになっているデータを使い、自動的に変換を学習することができる仕組みになっている。データがあれば、変換のルールを自動的に獲得して、それを機械翻訳に使う仕組みである。こうした仕組みにおいて、データがたくさんあるところが強く、英語を中心とした言語では対訳のデータが多く揃っている。しかし、インドネシアのマイナーな言語では、データが少なく機械翻訳を作ることが難しい状況になっている。
このようにデータがない場合、どうやってうまく翻訳するかを中心に研究している。ポイントは基本的に、現在の機械翻訳の仕組みは、対訳データから文の変換を学習する対訳データありきの仕組みであるが、対訳データは構築に費用がかかり、集めるのも大変である。この後の話で言いたいのは、対訳データから学ぶことで対訳データに表れないような語は、どうがんばっても翻訳できない。データにあるものから学ぶことができるが、データにないものは翻訳できない点が難しいところである。我々が日常使っているのは、単言語データである。単言語データは、例えば日本語であれば日本語だけが書かれているデータ、英語の場合は英語だけが書かれているデータのことである。こうしたデータはウェブサイトなどから簡単に手に入るので、これを使ってうまく機械翻訳の学習ができないかを研究している。ここまでが機械翻訳システムの仕組みの話である。
ここから、具体的に当研究室でどういった研究をやっているのかを紹介する。語学のある学習法に、「Language Exchange Partner」と言う外国語を学ぼうとしたときに非常に効果的な方法があり、簡単に言うと外国人の友達を作るということである。相手の言語を学びたいという人が友達になると、日々お互いの言語を使いながらコミュニケーションをとり、その過程で学習と理解が進むためこれが非常に効果的な学習方法だと言われている。この考え方を機械翻訳に取り入れるのが我々の研究である。機械翻訳は双方向であり、先ほど学習には対訳データが必要だと話をしたが、対訳データがあればそれを使ってどちらの方向の翻訳システムも作ることができる。例えば、英語と日本語の対訳データがあれば、英日方向の翻訳システムを作ることもできるし、日英方向の翻訳システムを作ることもできるというように、必ずペアになる。アイデアは、これを「Language Exchange Partner」にするということで、この2つを互いに教え合わせることで性能を高められるのではないかという内容である。教えるというのは、機械翻訳にとっては対訳データを作ってそれを相手に学習させることである。
単言語のデータであればいくらでも手に入るので、これを用意して機械翻訳システムに入れると、これを使った翻訳ができる。最初はあまり精度が良くないかもしれないが、相手方からも同じように翻訳が出てくるため、これを疑似的な対訳データとして相手に教えると、賢い翻訳システムができるだろうということであり、必ず相手に教えるというのがポイントとなる。少しずつ賢くなれば、これを使って単言語のデータを翻訳する場合に質の良くなった翻訳結果が出てくることが期待される。ひとつの対訳データを相手に教えて、次に相手から対訳されたものを教わり、これを何回も繰り返すことで翻訳性能を上げられるのではないかという考え方である。これを実際に試してみると面白いことに、期待通りに性能が上がっていくことがわかった。今このやり方、教え合わせ方を工夫して、より性能が上がるという状態になっている。
それでは、なぜ性能が上がるのか。その過程があるということがわかった。最初の対訳データは一般の日常会話の対訳データから集めてきたものを使うと、学習された両方向の翻訳モデルについて日常会話は翻訳できるが、難しい言葉は知らないため、専門用語の多い論文などは翻訳できない。これに対して単言語データで非常に難しい文章を与える。実際には、科学技術の論文から持ってきたような単言語データを翻訳させると、最初は科学技術の論文に出てくる非常に難しい誘電やポラリティなどの文字を全く翻訳できない。これをお互いに教え合わせていくと翻訳できるようになるのが、面白いポイントである。繰り返しをするごとに翻訳性能が上がっていき、難しい専門用語もかなりの割合で翻訳できていく。英日も日英も同じような結果で、大体6割ぐらいの難しい専門用語が翻訳できるようになった。日本語と英語だけではなく他の言語でも調べており、英語とドイツ語の間で同じような実験をした場合も、同様に翻訳性能が上がると同時に、大学語彙が多く獲得されていることがわかった。ドイツ語は非常に長い単語が多いが、こうしたものもきちんと獲得できている。繰り返すごとに全体の翻訳の質も改善され、滑らかな文が出るようになってくる。
この考え方はデュアルラーニング(双対学習)と言う。お互いに逆方向のモデルを教え合わせるのは、他の分野でも活用できる。音声認識と音声合成も同じような関係にあり、それに対して実験してみても同じようなことができると確認している。本日は当研究室で行っているお互に教え合わせるという機械翻訳の研究についてご紹介させていただいた。
講演要旨②
私は30年前に入社し、20年前に社長になった。当社の主なサービスは、包装資材販売、包装設計、省人化機器販売、梱包・組立業務、倉庫管理、システム開発である。60年前に父親が創業した豊川梱包工業は、ミノルタのコピー機やプリンターを梱包する仕事からスタートした。最近の話題では、豊橋技術科学大学のロボコン大会において日本でナンバーワンになったロボットも、海外に送るために梱包させていただいた。
会社の歴史を簡単に紹介すると、当初は一社専属の梱包会社であり、高度成長期にはそのお客様とともに成長してきた。2003年の11月に私が代表取締役社長に就任したが、創業から40年経過しているのにも関わらず売上の85%を一社に依存していた。当時は円高が進み1ドル100円前後の為替水準であり、国内から海外へ工場を移転する動きが多く見られた時期であった。当社最大の取引先も、中国に工場を設立して仕事の減少が予想されるときに社長に就任したのである。
新規取引先を開拓し、新しい仕事の獲得を社員に呼び掛けたが長く続いた一社依存で指示待ちの姿勢が染みついていた。本当に指示待ちの社員が多いことに危機感を感じて、中途採用として営業ができる人を集めるところからスタートした。最初の10年はこうした活動を通じて営業ができる人を採用することと同時に、当時平均年齢が45歳を超えており、若い人が少なかったため、新卒採用も開始した。このように社長就任から10年間必死になっていろいろやったが、リーマンショックの発生や、うまくいかない部分もあったが、新しい社員が加わって新しいことができるようになってきた。
その後2014年に創業50周年を迎えるにあたり、会社を新しい形にしなければならないとの想いから、社名をカタカナに変更し、ロゴを刷新して「価値の共創」という経営理念に変え、当社の仕事はお客様を「支え」、「つなぎ」、「守り」新たな価値を創ることであると発信をした。この価値の共創を実現するために「トヨコンイズム」という価値の共創を実現するための5か条も作成した。自ら考え、自ら行動しなければ何も始まらない「自主自発」、全ての事柄に対する原因は自分にあると考える「自己責任」、自分のレベルをより高める為、心身を磨く「自己啓発」、自分をコントロールする力がある「自己管理」、相手の立場に立って考える「利他の精神」の5つである。このように会社を変えたいと考えて取り組んできた。
転機が訪れたのは2017年、当社は3年ごとで方針を決めてこうした形でやっていこうというスローガン作っていて、2017年は2019年に訪れる55周年に向けて価値を変えていこうと「チェンジ・ザ・バリュー55」と言って今までの包装資材を売るとか、段ボールやテープを売るとか梱包するというような既存のビジネスモデルだけではない、新しいことをやっていこうと考えた。そのために若手に手を挙げさせて新事業を創出するためのプロジェクトを始めた。これは半年間のプロジェクトであったが、5人1組の3チームで進めて、そのうちの1組から出てきたのが、「新しいお客様を開拓するシステムを導入しましょう」という提案であった。目的は新事業を考えるプロジェクトで、新しいマーケティングの方法の仕組みではないとメンバーに伝えたら、「新しい事業をする前に、今我々が飛び込みセールスをやっている。そうした昭和の売り方は、今時流行らない。物流のブログを作って、それを名刺交換したお客様のところに送り、それに反応したお客様のところに訪問したい」と反論された。面白いと思ったが導入費用は1000万程度必要であったため、経営側もすぐに導入の決断はできなかった。しかし彼ら若手社員がすごい情熱を持ち、役員会で否定される度に、プロジェクトにもかかわらず「これを導入したら劇的に営業が変わりますよ」と熱く提案をしてくる。こうした熱い想いを感じたという面と、先ほど紹介した理念に「自主自発」として、私自身が社員の前で話をしているのに、自主的にやりたいという社員に対して否定をしてはいけないのではないかと思ったこともあり、失敗しても何かが残るだろうとも考えて、提案を受け入れる決断をした。
これがいわゆるマーケティングオートメーションという今普及してきているもので、名刺を蓄えておいて社内で共有できるソフトを使って名刺交換した皆さんの名刺を登録し、自動的に当社の物流ブログが送信され、興味のある人が何回かクリックしたかがわかり、営業活動につなげていくという仕組みであった。コロナ禍で人と会えない時期には、対面で会ってないのに、お客さんと接点を持っている包装資材の会社があると雑誌や媒体に取り上げられ、当社の価値が変わってきたと感じた。
世の中の趨勢もあり、プラスチックから紙製品へ包装資材に変えているところが注目を集めている。物流は目立たない存在であるが、こうした点が注目されるような時代になってきたと感じている。コロナ禍の2020年から、当社も変化に対応しなければ生き残れないと考え、10年先の2030年を見据えたビジョンを2021年に作成した。トヨコングループ 2030年ビジョンを「Leading Transformation,Succeeding Together (変容をリードし、共に成功する)」として、変化を表すスローガンを「Transform TOYOCON(顧客貢献から社会貢献へ)」とした。ここには顧客と一緒に自分たちも変わっていこうという想いを込めている。
そして部長を集めて10年後の姿を実現するために次の3年間何をするかを話し合い、2021年8月~2024年7月までの中期経営計画のスローガンを「Connected TOYOCONgr」としてロゴも製作した。この3年間はいろいろなところとつながろう、顧客、仕入先、地域などのステークホルダーとつながり、自分たちの価値を感じていただこうとの想いを込めている。SDGsでいろいろなお客様とつながる、ステークホルダーとDXでつながる、社員・地域とつながるという3つの方針を立て、各方針に3つの施策を策定し、それぞれの施策に3つずつ合計27のプロジェクトを作った。これは各部長が自ら考えたものであり、「自主自発」として自分ごとになったと感じている。例えば、「SDGsで関連の商品作ろう」、「SDGsなサービスをプロデュースしよう」、「デジタルで取引のコミュニケーションを変えていこう」といった内容を一生懸命考えた。
そしてこの3年間で成果はどうなったかというと、SDGsでお客様とつながるということでは、大手企業を中心にプラスチックに代わる包装資材の要望が多くあり、段ボールの緩衝材を開発して地元の新聞にも取り上げられている。またDXに関してはRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)という人がパソコン上において手作業で行っていた入力や集計していた業務を「ツール」が代わりに操作(自動化)するものがある。例えばExcelに数字を打ち込む事務の仕事を、スキャンするだけでそこにデータを入れてくれるような仕組みである。このRPAについて詳しい人は当社にはいなかったが、方針を打ち出したら別部門の女性社員がRPAに興味がありますと言って勉強をしてきて、自分でマニュアルを作って社内で提案してくれた。結果として事務の作業効率が改善し、各部署で使用し160万円程度の効果が出て、その年の社長賞を受賞した。社内で蓄積したRPA導入のノウハウを他の企業に「RPA導入講座」として提供しており、そちらも好評を得ている。社員・地域とつながるという方針に関しては、プロギングというゴミ拾いをしながらジョギングしましょうというイベントがあり、主催するプロギングジャパンという会社に豊川市で実施したいと働きかけ、2022年11月に豊川稲荷周辺、2023年11月赤塚山公園周辺で実施し、名古屋など遠方からも含めて家族連れの多くの人に参加をいただいた。当社は小田原市にも営業所があるが、SDGsについて勉強して行政とつながるといった活動もしている。
DXを推進するために2021年にIT人材のキャリア採用を行い、2名体制でスタートし最初に多額の費用をかけて社内のセキュリティの整備を行った。そして毎年少しずつ体制を拡充していき、ちょうど今月からは部に昇格し、5名体制でIT化を推進している。セキュリティなどの体制を継続して整備し、RPAの社内改善活用、マイクロソフト365の活用、あとトヨコンショップという単純な包装資材を注文できるオンラインショップを作って運営もしている。先ほど話をした名刺管理などマーケティングオートメーションにおけるマーケティングのデータの共有と管理なども実施し、マーケティング業務はSNSを活用し実施している。
この8月から新しい期になり、次の3カ年の新しい方針を作ろうということになってスローガンが決まった。「you make TOYOCON(あなたが次のTOYOCONを創る)」である。2030年に私は65歳になるので、その頃には次の世代人たちが主体的に活躍するような会社にしていきたいと思っている。先日実施した社内の方針発表会でも、この3年間でここまで来たから、いろいろな事業革新をして、人という資本を活かし、ブランディングをすることによって次のトヨコンをみんなで作っていこう、羽ばたいていこうというと話をした。
豊川市上長山町に建設した新倉庫にはようやく8月に荷物が入り始めて、来年の5月から本格稼働となる。東三河唯一の最新鋭のオートストアという自動倉庫であるため、皆さんぜひ見学に来ていただきたい。